280:戦い終わりて-1
「良かった……本当に良かった……」
「ちょ、そんなに激しく……」
「なあ、死ぬってのは……」
「いや、なんと言うか奇妙な感覚だったな……」
私の曽祖父であるヒューマン=コンプレークスの知識に、私自身の能力、それにラス・イコメクやミナモツキと言った封印されているものの能力の一部を組み合わせる事で、今回の戦いで死んだ面々の復活は簡単に出来た。
と言う訳で、現在は居住区に用意した専用の設備で順次復活中である。
「何と言うか、随分あっさりと復活できるものなんだな……」
「そうだな。魂があれば復活できると聞かされた時は正気かと思ったが……」
「まあ、人間の設計図については一から十まで把握済みだから。これくらいは出来るわよ」
復活に成功した人たちは直ぐにタオルをかけられ、暖めたジュースを飲まされつつ、体に不調が無いことを確かめてもらうと同時に、友人や知人たちと無事を喜びあっている。
そんな様子を私、ゴトス、ルナの三人は多少離れた場所から眺めつつ、話をしている。
「……」
「どうしたのかしら?」
「いや、『フィーデイ』に飛ばされた直後からこんな力があればと思ってしまってな」
「あったところで、殆ど変わらないわよ。私は肉体の再生は出来るけど、魂の再生は出来ないし、精神に至っては保護すらマトモに出来ないわ。そもそも魂の確保だって戦場が『エオナガルド』の中だからこそだし」
「それでも『満月の巡礼者』のギルドマスターあるいはルナリド神殿の『巡礼枢機卿』として、戦いの犠牲者を大きく減らせる力を見ると、どうしてもな」
「そう」
ルナの言葉に私はそっけない態度で返す。
まあ、気持ちは分からなくもない。
ルナたちだって『悪神の宣戦』から今日に至るまでの間に数多くの犠牲を払っている。
どうしてもっと早く、と言う言葉を感情に任せて発しないだけでも大したものである。
「ところでエオナ。この復活装置を用いれば、もしかしなくてもスヴェダや俺以外の複製体たちも……」
「無理。スヴェダは完全に怨霊として自分を再定義してしまっている。今更肉体を与えても、もう遅いわ。複製体の方は……まあ、やってみてもいいけど、大して意味は無いでしょうね。結局ミナモツキから分離していると認識されるだけの自我が無いと『エオナガルド』の外には出れないでしょうね」
「そうか。それは残念だ」
ただまあ、ゴトス以外の複製体……と言うか、ゴトス含めて今『エオナガルド』に居る複製体全員に水の体ではなく肉の体を与えるのは自我形成と言う意味では有用かもしれないし、検討の余地はあるだろう。
スヴェダは……もう怨霊として固定化されてしまっているし、動き方も学んでしまっている。
今更肉体を与えても、あらゆる面から生じる感覚の差によって圧し潰されて、精神をおかしくするだけだろう。
折角、怨霊として精神が落ち着いたのにもう一度崩したら……戻って来れない可能性の方が高い。
「それと、言うほど万能じゃないのよね。この復活」
「そうなのか?」
「ほう?」
と、私は今しがた復活した男性の動きにそれを感じ取り、ゴトスとルナの二人に示すために指を向ける。
「なんか体が重た……うおっ!?」
「大丈夫か?」
「あ、ああ。何か、どうにも体が重たくてな……」
そこでは装置から出て来た男性が、何もない場所でつまずきかけ、友人である別の男性に支えられていた。
そして、つまずいた男性は支えられたまま、私たちの視界の外へと歩いて行った。
が、その際の足取りも何処かおぼつかない物だった。
「不具合か?」
「そう言っても差支えは無いわね」
「ああなるほど。神経は通っていても、出力の仕方が分からない。分かってはいても、ほんの僅かに差異がある。その差が転ぶと言う形で出ているのか」
「そう言う事。言ってしまえば慣れの問題ね。こればかりは本人たちがリハビリでどうにかするしかないわね」
そう、本人たちに対処してもらうしかない。
私が曽祖父様程に人体を理解していれば、その辺りまで含めて完璧に整った体を生み出すことも出来るのかもしれないが……恐らく、私では何千年かけてもその域には辿り着けないだろう。
海月怪獣コンプレークスと言う種族が、自分が司るものに対して抱いている思いと力と言うのは、そう言うものだ。
私が出来る事と言えば……
「やったああぁぁ!女の体になってるうぅぅ!!」
「ふぁっ!?いや、確かにお前はそう言うのだったが……」
復活装置から出てきた人間が大きな声で喜びを表している。
で、その人物を見たゴトスとルナが私に向けて訝しむような目を向けている。
「心配しなくても、彼女がきちんと魂まで女性なのを確認した上で調整したわ。何があっても文句は言わないと言う念書も受け取ってる。あの程度のちょっとした調整なら問題は何も無いわ」
「ああそうか。別に復活に当たって調整が一切できないとは言ってないものな……」
「まあ、本人が喜んでいるようなら、外野が何を言っても野暮なだけか……」
「そう言う事よ」
うん、そう、私に出来る事と言えば、本人たちの要望に応じたちょっとした調整を復活した体に仕込むぐらいである。
なお、念書も要望も魂だけの状態と言う一切の嘘偽りが挟めない状態で確認してあるので、本当に問題は無い。
少なくとも現時点では。
「『エオナガルド』住民でない面々の今後のリハビリについてはよろしく頼むわね。ルナ」
「分かった。任せてもらって問題ない」
まあ、今後についてはルナに丸投げしてしまえばいい。
私はそう言う気持ちを込めてルナに頼み、ルナも察したのか苦笑しつつも頷いた。
12/22誤字訂正




