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『今回の件の元凶の名前はリベリオン=コンプレークスと言う。俺や君の曽祖父と同じ種族であり、叛乱と言う物を愛してやまない……問題児だ』
「問題児?」
『問題児だよ。詳しいことは省かせてもらうが、奴が周囲の者たちを巻き込む形で始めた大規模な叛乱のせいで、多くの世界に迷惑を被っているし、俺だってこんな場所でしたくもない説明をさせられている』
プログラーム様の感情は、表情が無いデフォルメされた海月の顔とプログラム通りに発せられる機械音声に隠されている為に読み取れない。
だがそれでも不機嫌である事は確かなようで、纏っている力の気配に揺らぎが生じる。
『さっきも言ったが俺はプログラムと言う物を愛し、プログラムの技を極めんとする神だ。新たなプログラムを生み出したり、バグが発見されたプログラムの改修に必要ならば如何なる苦難とて構わないが、今行っている説明はどう考えても本来ならば必要のない無駄で無意味で無価値なクズの為に割かされている俺が愛するプログラムの為に……』
訂正、プログラーム様はかなり不機嫌なようだ。
十本以上ある脚を巧みに操って、人知を超えた速さでと勢いで多重音声と化した機械音声でリベリオンとやらに対する恨み言を呟いている。
「プログラーム。仕事に戻りたいなら、早い所説明をした方がいいんじゃないかな」
『……。そうだな。説明に戻るか。すまない、あまりにもイラついていて、思わず暴走してしまった。これと言うのもリベリオンの奴が俺への叛乱と言うお題目の為に私の傑作である『Full Faith ONLine』のデッドコピーを製作して、致命的なバグを幾つも放置した上で……』
「プログラーム!」
『……。重ね重ね失礼した』
「い、いえ……」
この時点で私は自分の曽祖父も含まれる海月怪獣コンプレークスと言う神として生まれる種族の性質をだいたい理解した。
それと同時に私が彼らの血を引いている事にも納得がいった。
何となくだが、プログラーム様のプログラムに対する思いには、私のスィルローゼ様に対する思いと共通したものを感じる。
馬鹿にされたり、穢されたりするようなことがあれば、相手が如何なるものであっても絶対に許さない、そんな思いだ。
「それで、今回の件はリベリオン=コンプレークスと言うものでいいのですか?」
私は話を安定して進めるべく、失礼かとは思いつつも自分から切り出す。
『ああ問題ない。そして、奴については我々の方で対処する』
「よろしいのですか?」
『そもそも奴本体は既に別の何処かの世界。『フィーデイ』には通信用の端末しか残していないようだ。それと、奴の性格からして『フィーデイ』に立ち寄る事ももうないだろう。それに……奴の叛乱と言う権能は極めて面倒くさい物だからな。人間に任せるには無理がある』
「なるほど」
リベリオンについてはプログラーム様たちが何とかする、と。
まあ、相手の権能が私の想像通りなら、誰が挑んでも良くて五分の勝負。
私には対処不可能だろう。
『奴の息子のヤルダバオトについてもそこまで心配はいらない。どうにも奴と違ってマトモな頭をしているようでな。本人のプライドの問題もあって、一度人間の手で叩きのめす必要はあるだろうが、話は通せる』
「そうだね。彼は理想的な悪役をやってくれている。そこは僕も保証しよう」
「世界を滅ぼすようなものにまでは手を貸さない。世界を存続させ、発展させるための悪として存在している。と言う事ですね」
『そう言う事だ』
悪と叛乱の神ヤルダバオトについては……薄々感じていたが、どうやら既にルナリド様たちは交渉を済ませているらしい。
それでもプレイヤーを元の世界に戻せないのは、『フィーデイ』と言う世界の存続や、ヤルダバオトの悪と叛乱を司る神としての矜持の問題なのだろう。
まあ、ルナリド様にしてみれば、『フィーデイ』で生きている民も、私たちプレイヤーもどちらも等しく自分たちの信者。
可能な限りどちらも助け、生きられる道を選んでくれることに感謝はしても、文句は言うべきではないだろう。
ルナリド様たちには私たちを見捨てると言う選択肢だってあったはずなのだし。
『だからこそ、君の従姉妹であるG35は問題になる。彼女はヤルダバオト神官を名乗りはしているが、力の源泉は自分に対する恐怖を主体とした負の感情。先日のメダルにもリベリオンや自分にも力が流れるように細工が施されていたぐらいだ』
「負の感情……」
『ある意味では彼女こそがリベリオンの用意した真のヤルダバオトと言ってもいいし、そもそも彼女を巻き込めるからこそリベリオンは『Full Faith ONLine』を狙ったのかもしれない。何にせよ、彼女は安寧に反旗を翻し、戦乱にも反旗を翻し、この世の全てを己が糧としか捉えられない。その癖、神が手を出せる領域にはわざと入ろうとしない。厄介で、許容の出来ない悪だ』
「なるほど……」
G35が真のヤルダバオト、か。
まあ、納得は出来る。
そして、この世の全てを己が糧として捉えてしまうのは……きっと曽祖父様の血の影響だろう。
自分が求めるもの以外はどうでもいいと言う感情は、私やプログラーム様とも共通するものなのだから。
後、神が手を出せる領域に入らないのもそう言う事だろう。
曽祖父様は人間を司っていたのだから、そこの見極めは正確に出来た事だろうし。
「ただこうなると、結局のところ、私のやるべき事に変わりはない感じですか?」
『そうだな。やる事に変わりはない。世界を守りつつG35を追いかけ、見つけ出し、倒す事こそが君に求める仕事だ。そして、その仕事の手助けの一つとして、俺は……今回君に会った。やむを得ず、嫌々ながら、渋々とね』
そう言うとプログラーム様は微笑んでいるルナリド様の方を向く。
どうやら、私がプログラーム様に会った時点で、わざわざ面会させた意味はあったらしい。
となると……あの血の滾りこそが目的だったと言う事か。
現状では変化は見えないが……今後何かあるのかもしれない。
『俺の説明はこれで終わり。今回の面会で子々孫々まで人間として生きられるようにアイツが施した細工は完全に破綻する。力ある者には相応の責務が伴う。ゆめゆめ力に奢り溺れる事の無いように。じゃあな』
そうしてプログラーム様は見慣れた転移エフェクトと共に何処かへと消え去った。
「さてエオナ。それじゃあ、今後もよろしく頼むよ。『フィーデイ』で生きる人間の為に」
「畏まりました。ルナリド様」
そして跪く私の前からルナリド様も消え去る。
「さて……この情報は何時伝えるべきかしらね」
同時に、特別にあつらえた面会区で前哨戦が始まったと言う報告がエオナ=フィーデイから入ってきた。
エオナ、別名をスィルローゼ=コンプレークス




