254:かける他なし-6
「これは……スヴェダたちがラス・イコメク・エネルギー・コレクターを倒して、流されたエネルギーによってラス・イコメク・シール・ブレイカーが生成されている?タイミングが完全に一致していますね」
『エオナガルド』で魔鬼王ラス・イコメクとの戦いの為の準備を進められている中、私ことエオナ=フェイスはエオナ=フィーデイの知覚している情報を覗き見していた。
と言うのも、セキセズ枢機卿の皮を被ったG35によってルナリド様の信徒にかけられた洗脳は、ルナルド様の説得によって一通り終了。
この先の戦闘の邪魔にならないように居住区の端の方に移動も終わり、ルナリド様の手助けを行う私の仕事も、ルナリド様が手元の端末で何かをやっていらっしゃる今は無い。
つまりは暇な状況なのだ。
「……。LIECが倒されることでエネルギーが集められ、LISBが倒されることで敵対者の排除と封印解除が進行する。けれど、こちらとしては倒さない以外の手は存在しない。相変わらずの性格の悪さのようですね」
だから、独自に情報収集をして、その結果を小声で呟いていた。
勿論、重要な情報なので、他のエオナにもこの考察は流すのだけど。
「まあ、G35と言うプレイヤーの性格の悪さはアレも認めるレベルのようだし、当然と言えば当然なんじゃないかな?」
「ルナリド様」
と、ルナリド様の仕事が終わったらしい。
私はルナリド様が手元の端末を消し、声をかけてくると同時に、その場で跪く。
「調査が終わり、許可申請も通った。『フィーデイ』のエオナが現地に着くまでもう少し時間がかかる。そんなわけだから、僕から少し情報提供をしようと思う。いいかな?」
「勿論です。ルナリド様」
ルナリド様からの情報提供と聞いて断る理由などあるはずが無い。
私は大きく頷く。
「まず第一にG35は生きている。『フィーデイ』の黄泉の領域に来ていないのは当然だけど、ログを辿ってもG35と言う存在は滅びていない」
「『フィーデイ』の私が倒したのは偽物、あるいは一部だったと言う事ですね」
私の言葉にルナリド様は小さく頷かれる。
「そう言う事になるね。後、生きていると聞いて驚かないんだね」
「セキセズ枢機卿の攻撃もその後のG35自身の攻撃も、あの黒い矢やE12、E13の製作者の物としてみると、少々温過ぎましたから。それに……」
「それに?」
「ワンオバトーのターゲッティング能力をG35に使用しましたが、滅ぼした後も効果対象が居なくなったという感覚が生じていないようなのです。だから、驚きはしません」
実際、G35の攻撃は温かった。
滅ぼされる際の動きも甘かった。
仮に私がG35なら……滅ぼされる瞬間にやるのは、対処可能な確率が高いラス・イコメク復活の大幅進展ではなく、とりあえず即時に確実にクレセートは滅びるようにしている。
それをしなかった時点で、今G35が打っている手は時間稼ぎだと言っているようなものである。
「そうかい。なら、ターゲッティング能力は固定しておくといい。きちんと効果は発揮されているからね。エオナがターゲッティングの対象をG35にしている限り、彼女は直接的な殺傷が出来なくなる」
「分かりました。固定するように通達しておきます」
私は直ぐにエオナ=フィーデイにルナリド様の情報を伝え、エオナ=フィーデイからは了承の返事がくる。
この後に戦闘が控えているので、ターゲッティングの固定と維持をする専門の私を作って置いておくようだ。
繊細な作業を伴うので、今後の使用は控えることになるが。
それと実質的に能力を失ってしまうワンオバトーへの補填は……後でヤルダバオトに適当な対価を渡して得るなり、私から教えを説いて普通の神様の魔法を使えるようにするなりすればいいだろう。
「ところで、ルナリド様。G35の性格の悪さを認めたアレとは何のことですか?話をお聞きする限りヤルダバオトではないようですが」
「うん、ヤルダバオトではないね。と言うより、G35自身は既にヤルダバオトの加護を受けていない。『フィーデイ』のエオナが加護を切ったタイミングで、うっかり恒久的な加護消失にしてしまったようだから」
絶対にうっかりではない。
しかし、こうなると……ヤルダバオトは本気でG35を嫌っているわけか。
叛乱を司っているからこそ、元凶からの指示に反したのかと思っていたのだが、それ以上に世界を滅ぼす方向で動いているG35はヤルダバオトにとっても嫌な存在と言う事か。
「……」
「どうされました?」
「いや、何でもないよ」
何故かルナリド様が意味深な笑みと視線を私に向けていた。
何かあるようだが、表情からして教えて下さることはなさそうだ。
「それよりもアレについてだけど……まあ、君も察している通り、今回の『Full Faith ONLine』のプレイヤーを地球から拉致し、『フィーデイ』に連れ去った事件の元凶。今の『フィーデイ』を生み出した神の事だ」
「私の曽祖父様の御兄弟、との事でしたね」
「うん、一応はそうなるね」
「一応ですか」
「一応だ。彼らの種族は神として生まれ、神として育つんだが、増え方の都合として種族全員兄弟のようなものらしいから。僕らで言えば生まれた世界だけは同じです、と言っているようなものだよ」
「なるほど」
やはりG35は今回の一件の全ての元凶と関わりがあるらしい。
だが、私の曽祖父との繋がりは案外薄いようだ。
「と言う訳で、元凶については彼に説明してもらうとしよう。時間はかかるけど……まあ、君一人が居ないくらいなら戦線には影響しないし、じっくり話し合ってくれ」
「彼?」
そう言うとルナリド様の隣の空間から電光が生じ、見慣れた転移エフェクトと共に一人の男性が現れる。
「彼の名前はプログラーム=コンプレークス。君も知っての通り、『Full Faith ONLine』のメインプログラマーだ」
「……」
男性は水色の髪に紫色の瞳を持ち、眼鏡をかけ、よれよれのTシャツにジーンズを身に着け、おまけに不精髭を生やしていると言うだらしない姿をしており、全身から気だるげなオーラを放っている。
だが、私には分かる。
彼こそが『Full Faith ONLine』の真なる創造主である、と。
そして、私の中に流れる曽祖父の血が同族との出会いに疼くのも感じる。
彼は自分の愛するものを極めようとしている偉大なる先達である、と。
しかし、私の感動はそこまでだった。
「プロ(面倒くさい)、プログラ(姿を戻すぞ)」
次の瞬間には煙に包まれる形で男性の姿は消え、代わりにトップハント社のロゴに居た、デフォルメがされて威厳の欠片もない可愛らしい水色の海月が無数の脚で立っていた。
そして、手に持ったパソコンのような物から、何処かで聞いた覚えのある機械音声を発した。
『俺の名前はプログラーム=コンプレークス。己の好きな物を極める事だけに邁進する種族、海月怪獣コンプレークスの一柱。プログラムを愛し、極めんとする者。君の曽祖父、ヒューマン=コンプレークスの同族で直ぐ上の兄に当たる神。人間の姿と声の維持なんぞに割くリソースは無いから、このまま進めるぞ』
「あ、はい」
そうして、額にプログラムと書かれた海月は、どうして姿が変わっただけであれほどの威厳が消えてしまうのかを奇妙に思う私の事など気にした様子もなく、話を始めた。




