252:かける他なし-4
「見つけた……」
ゴトスと金毛の羊がLISBたちから逃げ回る少し前。
クレセートではルナリド神殿の尖塔の中でも特に高いものの屋根の上に立ったスヴェダが、キモ白饅頭並びに白ガリ鬼を探していた。
ただし、探し出す方法は目ではなく怨霊と化した彼女だからこその方法。
自らの死に関わったG35の気配に似通った生者が放つ生命力を直接感知すると言う人ならざる手段である。
「距離よし、角度よし、対象指定よし」
そうして敵を見つけ出したスヴェダは自分の身の丈ほどもある大弓を出現させると、その大きさの弓に相応しい矢をつがえる。
勿論どちらも普通の弓矢ではない。
全体的に黒く、暗く、輪郭がぼやけている霊的な弓である。
故にその矢はスヴェダの思い描く通り飛んでいき、傷つけることを望んだ相手にしか刺さらない。
クレセート全体が突然出現するモンスターで混乱している中だろうと、戦闘の場から遠く離れた場所からの狙撃であろうとも、何の問題もなく使える武器である。
「シッ」
夜空に向けてスヴェダの矢が放たれる。
そして放たれた矢は……
「ーーーーー!?」
「な、なんだ!?」
「ど、何処から狙撃が!?」
「そもそも、此処は屋内だぞ!?」
「いいからチャンスだ!一気に攻めろ!!」
建物の中に出現し、近くに居たプレイヤーたちが対処していたキモ白饅頭の無数にある目の一つに突き刺さり、痛みによってその動きを止めさせる。
そうして動きが止まったところにプレイヤーたちの攻撃が殺到。
スヴェダが狙撃したキモ白饅頭は間もなく倒されることになった。
「しかし、さっきの矢はいったい何処から……」
「建物貫通の矢とか初めて見たな」
「まあ、おかげでこのLIECは難なく倒せたから良かったけどな」
「そうだな。何処に居るかは知らないが、後で助かったと礼を言いたいところだ」
「……」
さて、スヴェダの矢だが……怨霊と化した彼女が自分の能力で生み出している矢であるため、実を言えば消え去るまでは自分の体の一部として扱う事も出来る。
スヴェダはこの事実に気づいてから密かに訓練を重ね、矢に五感を付与することによって素早く広範囲の情報収集を行えないかと考えていた。
そして今の矢には聴覚の一部を仕込んでおり、キモ白饅頭改めLIECを倒したプレイヤーたちの会話は聞こえていた。
「LIEC……ラス・イコメク・エネルギー・コレクターと言うところかな?ラス・イコメクの正式な綴りは知らないけど」
スヴェダはエオナとゴトスの会話から、LIECが倒れる度に魔鬼王ラス・イコメクの封印解除に必要なエネルギーが溜まっている事を知っていた。
そしてLIECの製作者がE12、E13の製作者であるG35である事も知っている。
だから、これらの情報から捻りを考えずに単純に役目に沿った英単語の頭文字を当ててみた。
ただそれだけの話である。
「白ガリ鬼は……LIEC-2」
スヴェダは狙撃を続けつつ、矢に視覚や聴覚を付与することで情報を収集していく。
そうする事で時間が経過したLIECから生じる白ガリ鬼の正式名称がLIEC-2である事を確認。
LIEC-2が街の住民たちではなく高レベルプレイヤーに積極的に襲い掛かり、まるでワザと討ち取られているかのような動きを見せている事も確認する。
「うん、やっぱり合ってそう。ワザと倒されに来てる。徒歩で戻るんじゃ遠すぎるのと、嫌がらせあるいは戦力削りかな。後はどうやってエネルギーを集めているか、かな」
そうして情報収集を進めた結果。
スヴェダは自分の考えが正しいと認識する。
LIECはラス・イコメクの封印を解くためのエネルギーを集めている。
集めたエネルギーを封印を解くための呪いに送るために、ワザと倒されている。
だから、LIECの時は目立ちづらく、害が少なそうに見せて、LIEC-2になった途端に積極的に襲い掛かって返り討ちに合うように動いてきているのだと。
「暴れて……じゃないか」
残る問題は、そもそもどうやってエネルギーを集めているのか。
スヴェダが感知した限りでは、スヴェダ以外には誰にも見つかっていないLIECも存在している。
彼らはじっとその場で待機し続け、何もしていない。
だが、彼らの目的を考えれば、この状態でもエネルギー収集は行っていると考えるべきだった。
「……。分からない、後回しにしよう」
残念ながらスヴェダの知識では答えは出なかった。
だからスヴェダは考えることを止め、弓を引く。
しかし、狙う先は誰かが戦っているLIECではない。
「嵐と稲妻の神テンペサンダ様。このような身であっても構わぬと言うのであれば、御力をお貸しくださいませ。『テンペサンダ・サンダ・ミ=アロ・エンチャ・ゼクス』」
スヴェダの持つ矢が青い雷光を纏う。
その矢を見てスヴェダは一度微笑んだ後に発射。
青い軌跡を残しつつ飛んでいった矢は木製の屋根も、厚い石の壁もすり抜けて進んでいき、その先で身じろぎ一つしていないLIECに突き刺さる。
「ーーーーー!?」
「うん、やっぱり」
ただし、突き刺さったのは目ではなく、無数の目が繋がっている場所、脳と思しき部位。
スヴェダの雷光の矢はLIECの脳に直接突き刺さり、焼き尽くしたのだった。
「このまま……」
このまま、誰も気づいていないLIECを仕留めて行ってしまおう。
そこまでスヴェダが考えた時だった。
「ーーーーー!」
「っつ!?」
自分の居る尖塔の下の階から床も何も壊しながら跳び上がってくる何かが居た。
だからスヴェダは咄嗟に尖塔から身を投げ、空中で身を捻って、その何かを見る。
「白ガリじゃなくて白筋肉になってる……」
それは白ガリ鬼と言ってもよいLIEC-2に十分な量の筋肉を付けた全身真っ白の鬼だった。
そして全身真っ白の鬼はスヴェダが先程まで立っていた場所で腕を振り、大きな口を閉じ、何も成果が得られなかったことを認識すると、直ぐにスヴェダの方を向く。
その目は明らかに敵意に満ちており……一方的な狙撃を繰り返すスヴェダを狙ったG35側からのカウンターである事を示していた。




