250:かける他なし-2
「さて、どのタイミングで反応を始めるかだな」
ゴトスは鏡と迷宮の神ミラビリスの神器ミナモツキの力によってこの世に生まれ落ちた複製体である。
元になったプレイヤーの名前はGtH。
GtHのレベルは90で、メイン信仰は陽と生命の神サンライ、サブ信仰は金と文明の神シビメタ、土と守護の神ソイクト、タンク役としてレベル相応に優れたプレイヤーであった。
だが、ゴトスは『エオナガルド』と言う都市に住んでいる事に加えて、今の彼の主であるエオナの布教もあり、最近では茨と封印の神スィルローゼに対する信仰が芽生えている。
また、フルムスの一件で減っていた信仰値もカンストとまではいかなくとも既に十分に回復しており、『エオナガルド』で作られた装備品の性能も考えると、彼の実力がオリジナルのGtHに比肩あるいは超えている事は客観的に言って確かであると言えた。
「バフを始めるから、警戒を頼むぞ。『サンライ・サン・ミ・ブスタ・ツェーン』」
「メッ」
また、ゴトスの乗る羊もただの羊ではない。
名前は金毛の羊。
金色の角と毛を持つ羊であり、食肉用モンスターとして『エオナガルド』にもたらされたが、戦闘訓練役も兼ねるために相応の戦闘能力を保有。
一鳴きで金色の障壁を張って敵の攻撃を防ぐことも出来れば、軽度の癒しを与えることも出来る。
レベルとしては50ちょうどくらいだが、特定の役割に特化して動いてもらえれば、高レベルプレイヤーと比べても遜色のない働きも出来る、優れた乗騎であると同時に相棒であるとも言えるだろう。
「反応は無し。数で反応するか?」
そんなゴトスと金毛の羊が対することになるのは全部で16体の大型スケルトン。
身長は3メートルを超える程だが、5メートルには届かない。
骨の表面は黒で、元が大型の鬼である事を示すように眼窩の少し上からは天を衝くような角が二本生えている。
スケルトンたちはラビネスト村と魔鬼王ラス・イコメクの封印がある丘の周囲を徘徊しつつ、油断なく周りの様子を窺っている。
そして、時折ラビネスト村から逃げ出そうとする住民が出てくる度にその大きな手で吹き飛ばして、村内で行われている殺し合いに強制的に復帰させている。
「魔法強化、防御強化、武器強化、ここまでは反応なしか」
ゴトスはラビネスト村内部の様子から視線を逸らすと、スケルトンたちに目を向ける。
既に一通りのバフは終わっている。
だが、条件を満たしていないのか、それとも今のゴトスたちが普通の人間に見せるための偽装を施していないために茨の塊にしか見えずに敵だと思われていないのか、どちらにせよスケルトンたちにはゴトスたちに対する敵対的な動きは見えない。
「ならまずは……『サンライ・ライト・ワン=ステタス・サーチ・フュンフ』」
だからこそゴトスは未知の相手と戦う時の基本に忠実に動いた。
地形や動きの速さの都合で僅かとはいえ他のスケルトンより孤立していた個体に向けて、物陰に隠れた状態で対象の情報を看破するための魔法を使用する。
「名前はLISB。レベルは70」
ゴトスの魔法はきちんと効果を発揮し、スケルトンの名前がLISBだと判明する。
だが、機械系でない敵にアルファベットだけの名前が当てられることは『Full Faith ONLine』ではほぼ無い事である。
この事から、ゴトスはこのスケルトンたちが正規のモンスターではなく、先日のマミラセンシシのような改造されたモンスターあるいはフルムスのE12やE13のような新たに何者かが生み出したモンスターであると確信する。
「ひっとぽ……うおっ!?」
「メッ」
「ーーー!」
そしてゴトスが冷静に知れたのは名前とレベルまでであり、HPは桁数のみ、詳細なステータスはまるで分からなかった。
気が付けばスケルトン改めLISBは音も気配もなくゴトスの眼前に移動して、手を叩きつけようとしていた。
攻撃される直前に金毛の羊が気付いて難を逃れたが、一人だったら確実に叩き潰されている動きだった。
「なるほど。これが認識阻害って奴か。調査を攻撃と見做すのは高レベルによくある事だが、調査されると一回攻撃するまで認識が難しくなるってのは初めての経験だな。おまけに……」
ゴトスは周囲を見渡し、思わず苦笑いをする。
見ればステータスを調べたLISB以外の近くに居たLISBたちもゴトスたちを敵だと認識、ゴトスたちに向かって移動を始めている。
そして、村を挟んで反対側に居るLISBに至っては髑髏の口を大きく開き、両手を地面に着き、口内に蘇芳色の光を溜め込み始めると言う遠隔攻撃の構えとしか取れない姿勢を取っている。
「一個体が敵を認識すると全ての個体が敵を認識するリンク。加えて90のレイドボスの取り巻き並みのHPか。普通に考えたら個人で相手をする敵じゃないな」
複数のLISBが腕を振り上げながら近づいてきて、ゴトスを叩き潰そうとする。
回避の隙間を突くように遠くのLISBたちが陰属性の光線を雨のように降らし始める。
ゴトスの置かれた状況は絶体絶命と言う他なかった。
「だが、こっちにも意地があるんでね。やるだけはやらせてもらう」
だがそんな状況でゴトスは笑うと、腰の剣ではなく、盾の裏に仕込んである小ぶりの槍を手に持つ。
「行くぞオラアアァァ!!」
「メエエェェ!!」
「ーーーーー!?」
そして金毛の羊の障壁を自分の周囲に張った上で、ゴトスはLISBの一体に正面から突撃。
陽属性を示す紫色に輝く槍でLISBの額を突いた。




