241:夜の語らい-9
「ふ、ふざけるなあああぁぁぁ!寝ている程度で呼び出せなくなるなど、そんな事があってたまるかぁ!!」
セキセズ枢機卿はそう叫ぶが、私はヤマカガシの言葉に誰が何をしたのかを理解する。
恐らくだが、夜と睡眠の神ナトスリプ様の代行者であるマクラが、眠っているイナバノカグヤさんに対して防御魔法……いや、安眠魔法のようなものを使っているのだろう。
その結果として、対象者が眠っていると強制的に叩き起こすセキセズ枢機卿の召喚はイナバノカグヤさんの眠りを妨げる行為だと認識され、弾かれた、そう言う話だ。
「くそっ、かくなる上は……」
セキセズ枢機卿の体が影に包み込まれる。
私はそれを転移魔法の一種だと認識して、転移を阻止するべく剣を振るおうとする。
「転移なんて僕が許すと思いますか?」
「なっ!?」
「ふうん」
が、私の行動よりも遥かに早くヤマカガシがセキセズ枢機卿に手を向ける。
するとそれだけで影は砕け散り、転移は阻止される。
うん、凄い動きだ。
今の動きを見て、転移を阻止したのがヤマカガシではなく近くの建物に隠れているヤマカガシの仲間だと気付くのは、私のように特殊な探知方法を有していなければまず分からないだろう。
それほどまでに連携が取れている。
「それにしてもおかしな話ですよね。セキセズ」
「何が?おかしいと言うのだ……」
ヤマカガシはどうやら搾り取れるだけ情報を搾り取るつもりであるらしい。
私に暫く待ってほしいと目で訴えつつ、セキセズ枢機卿に向けて問いかけるような言葉を向ける。
「何もかもがですよ。貴方の望みは何なんですか?」
「私の望みだと……そんなもの決まっている!ルナリド様の教えを広め!ルナリド様の寵愛を一身に受け!この世の栄華を極める以外にあるはずが無いだろうが!!」
「……」
セキセズ枢機卿の言葉に私はおかしさしか感じなかった。
何故ならば、セキセズ枢機卿の言葉は、セキセズ枢機卿が信じるルナリド様の教義が何者かによって歪められている事を鑑みてもなおおかしい物だからだ。
だって、その言葉通りなら……
「おかしいですね。それならどうして貴方は表に出て来ているんです?そして執拗にエオナさんを狙うんです?ついでに言えば他のルナリド様の信徒を利用するのもおかしいでしょう」
セキセズ枢機卿は表に出てこず、裏から糸を引き続けるべきだ。
迂闊に表に出て来れば叩かれるのは目に見えているのだから。
私をあの黒い矢を使ってや直接的な手段を用いてでも始末しようとするのもおかしい。
私がセキセズ枢機卿視点で異教徒や異端者だとしても、利用できるだけ利用してから、始末するべきであるし、そもそもヤマカガシやマクラの方がもっと狙いやすいはずなのに、私を執拗に狙う意味が見えない。
他のルナリド教徒を利用したのも妙だ。
私の知る限りではクレセートには敬虔なルナリド信者が数多く居て、彼らはセキセズ枢機卿からしてみれば守るべき同朋のはずだ。
うん、論理が破綻しているとしか思えない。
「ははっ、ははははは、ははははは!」
セキセズ枢機卿が笑い始める。
その姿に私もヤマカガシも警戒心を強める。
「笑わせるなっ!今の世界に知れているルナリド様はルナリド様にあらず!ルナリド様の名を借りているだけの偽物よ!!だからこそ私が真なるルナリド様の教えを広げ!偽物の過去を否定し!真なる世界を作り上げなければならないのだ!貴様らのような何処の馬の骨とも知れぬ愚か者が神の寵愛を受ける様な世界ではなく!私が!私だけが神の寵愛を受ける世界になぁ!!」
「あー、はい。そうですかー」
支離滅裂。
そう言うしかない感じである。
部分部分で聞き逃しがたい話題も出ているが、自己矛盾に気付けないレベルで進行してしまっている事を考えると、これ以上は問いかけるだけ無駄だろう。
ヤマカガシも何処か呆れた様子を見せているぐらいだし。
「無駄話のおかげでそこの小娘が撒いた毒も治った!さあ、今度こそ貴様らを……」
「エオナさん、もういいです」
「分かったわ」
私はセキセズ枢機卿に一足飛びで詰め寄ると剣を振るう。
「っつ!?」
セキセズ枢機卿は私の剣を黒い壁によって防ぐ。
「『グロディウス・ミアズマ・ワン・カス=スネク・フュンフ』」
「何の!」
壁を回り込むように進んだヤマカガシの魔法も、後方に向かって跳ぶことで回避する。
「さあ、私の……」
私とヤマカガシの攻撃を続けざまに回避したことによる余裕と喜びからだろう、セキセズ枢機卿が小さく笑みを浮かべる。
だが、私とヤマカガシにしてみれば、既に詰みである。
既に戦闘開始から十数分。
騒ぎは相応に大きくなっていて、これであの人が今の状況に気付いていない方が無理がある。
「ば……べぎゃ!?」
「南無」
そして私の予想通りに、宙に浮いていて、咄嗟の回避が出来なくなったセキセズ枢機卿の後頭部に金属で出来た円が直撃。
セキセズ枢機卿の頭を弾けさせた。
「ようやく来たのね。タイホーさん」
「すまない。他にも厄介な出来事が起きていて、そちらを片付けていたのでな」
そうしてセキセズ枢機卿の体が地面に落ちるのに合わせて、タイホーさんも近くの建物の屋根から大きな音を立てつつ降りた。




