240:夜の語らい-8
「躊躇いませんね。エオナさん」
何処からともなく土で出来た巨大な蛇に乗ったヤマカガシが現れる。
そして、セキセズ枢機卿の死体を笑顔で見ている。
だが、その口調や表情とは裏腹に、ヤマカガシの視線には油断や安堵の色は一切ない。
「当然でしょう。セキセズ枢機卿はルナリド神殿の枢機卿だったのよ。それなら……」
当たり前だ。
「舐めるなアアァァ!!」
「おっと」
「やっぱり」
ルナリド様の魔法を模した魔法を使っていて、自動復活魔法をかけておかないなど有り得ないのだから。
だからヤマカガシも私もセキセズ枢機卿の死体が消え去ると同時にその場から飛び退き、若干離れた場所に少しやつれた姿で現れたセキセズ枢機卿の影の刃による攻撃を避ける。
「ふうふぅふう……、異教徒にして異端者の分際でよくもやってくれたな……」
「異端者は貴方でしょう」
「本当ですよねぇ」
復活したセキセズ枢機卿は荒く息を吐き、目を血走らせている。
衣服はボロボロで、ヨミノマガタマと銀色の杖以外にこれと言った持ち物は見えない。
さて、ルナリド様の自動復活魔法の仕様を受け継いでいるなら、もう一度殺せば完全に殺せるわけで、武器らしい武器を持っていない今なら容易く殺せるように思えるが……。
「ふざけるなぁ!私こそが正統にして正しきルナリド神官なのだ!!」
「使い魔召喚……」
セキセズ枢機卿が銀色の杖で地面を叩くと同時に、十数匹の黒い犬がセキセズ枢機卿の影から生じて、私たちに牙を剥きつつ向かってくる。
うん、数が多いだけで、レベル自体は低そうだ。
ならば問題は無い。
「スリサズ」
「ガアアアァァァァ!!」
「「「……!?」」」
「なっ!?」
私の合図でスリサズが威嚇の声を上げる。
すると、それだけで黒い犬たちは実力差を悟るように弾け飛んでいき、消滅する。
「元アタシプロウ・ドン。犬たちの長であるスリサズに低レベルの犬ころが襲い掛かるのは無理よねぇ」
「バウッ」
犬じゃなくて狼だと言うような視線をスリサズが向けているが、それは無視する。
「ならば……っつ!?」
「『グロディウス・ソイル・ワン・ベノム=スネク・フュンフ』」
セキセズ枢機卿が次の手を打とうとする。
だがそれよりも早くヤマカガシの足元から紫色の蛇は生じてセキセズ枢機卿に向かっていき、セキセズ枢機卿は蛇を始末するために私たちへの攻撃を諦め、陰属性の矢を杖から生み出して蛇を迎撃する。
しかし、その姿は隙だらけでもある。
だから私は切りかかる。
「せいっ!」
「受けてたまるか!」
が、私の剣が当たるよりも早くセキセズ枢機卿は何重にも黒い壁を生み出して私の攻撃を遅らせ、その隙に後方へ跳ぶことで攻撃を避け切る。
「ぜぇ、はぁ……」
「ふうん……」
「厄介ですね。ヨミノマガタマ」
ヨミノマガタマには陰属性の適性を大きく上げる効果がある。
それは魔法の効果が上昇するだけではなく、詠唱をする必要が無くなると言う形でも現れているのだろう。
でなければ自己認識としては未だにルナリド神官であるセキセズ枢機卿が詠唱無しで魔法を使えるとは思えない。
そして、無詠唱で魔法を発動できるからこそ、代行者を正面から相手する事も出来るようになるのだろう。
流石は神器と言うところである。
「でも、やる事は変わらないわ」
「まあ、そうですね。僕は補助に回るので、前はエオナさんがお願いします」
「分かってるわ」
ヤマカガシに背後を任せるのは若干不安だが、戦闘能力と方法的に私が前に出た方がいいだろう。
周囲の建物の陰に隠れているのは……気にしなくていいか、ヤマカガシの仲間っぽい感じがあるし。
「行くわ」
「どうぞどうぞ」
「舐めるなぁ!!」
私がセキセズ枢機卿に切りかかり、セキセズ枢機卿は影の刃や黒い壁を生み出すことによって私の攻撃を防ぎ、反撃を仕掛けてくる。
私が剣を鞭化して隙間を縫うように放てば、セキセズ枢機卿は黒い紐のようなものを剣に巻き付ける事で攻撃を遅らせ、避けてくる。
セキセズ枢機卿が陰属性の矢を放って攻撃する隙間を縫って反撃をすれば、黒い壁が唐突に表れて防がれる。
どうやら正面からの攻撃でセキセズ枢機卿を傷つけるのは難しいらしい。
裏を返せば……
「ごばっ!?」
「うん、いい感じですね」
「みたいね」
セキセズ枢機卿が突如として口から血を吐く。
「ぐっ……何が……」
「さてなんでしょうね?」
そう、裏を返せば、正面からの攻撃でなければセキセズ枢機卿を傷つける方法は幾らでもある。
例えば、ヤマカガシが何時の間にやら周囲一帯にばらまいていた毒のように。
「エオナさんと貴方が戦い始めて何十秒……いえ、何分経ちましたかね?ふふっ、僕が何もせずにただ見ているだけなんて有り得ますか?」
ヤマカガシはまるで見せびらかすようにゴスロリ服の袖口から毒々しい紫色の粉末を取り出して、周囲に散布する。
うん、口調からして毒にしか見えないが、毒ではなく薬だ。
撒いた瞬間にむしろ私の体の調子が良くなっている。
「このっ!」
「通さないわよ」
「ありがとうございます。エオナさん」
セキセズ枢機卿がヤマカガシに向けて左手を伸ばし、掌から陰属性の矢を散弾のように放つ。
が、直線的かつ軽い攻撃ならば防ぐことは容易い。
私は鞭化した剣を一度振るう事によって全ての矢を叩き落す。
「甘いわ!」
だが、その時を待っていたと言わんばかりに、セキセズ枢機卿は銀色の杖で勢いよく地面を叩く。
セキセズ枢機卿が叩いた地面には、建物の影が落ちていた。
そして、転移系魔法の発動を示す魔法陣が展開される。
「来いっ!カグヤ!私の敵を殺せぇ!!」
「カグヤ!?」
「あー……」
恐らくは教皇様が使っていたのと同じ影を利用した転移魔法。
呼び出されるのはセキセズ枢機卿を後ろ盾にするしかなかったイナバノカグヤさん。
彼女が強制的にセキセズ枢機卿に従わされ、私たちと戦う事になれば、厄介な事になる。
私はそう思って身構えたが……
「カグヤさんは就寝中なので、呼び出すのは不可能です。残念でしたね」
「は?」
「なっ!?」
ヤマカガシがそう告げた瞬間、魔法陣は何の存在も呼び出さずに砕け散って消滅し、杖も砕け散った。
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