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信仰値カンストの神官、我が道を行く  作者: 栗木下
1章:ロズヴァレ村

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24:拝謁

 私の意識が飛んでいく。

 遥か彼方、スィルローゼ様がいらっしゃる場所へと、無限の虚無と無間の混沌を超えて飛んでいく。

 そして、私の行いを妨害しようと、悪と叛乱の神ヤルダバオトは仕掛けてくる。

 だが、ヤルダバオトの攻撃が私に届くよりも早くにそれは訪れた。



『『フィーデイ』にて第11等級の神託魔法が使われたことを確認。捕捉。プレイヤー名:エオナ。信仰:スィルローゼ、サクルメンテ、ルナリド』


『追跡存在を確認。捕捉。悪と叛乱の神ヤルダバオトを確認。10秒後にエオナを攻撃、『フィーデイ』へ強制帰還をさせるつもりである模様。現在、敵対行為は禁止されています』


『エオナを対象に時間延長術式を展開。成功。主観時間を引き延ばしました』


『謁見の場を設定。信仰対象の三柱の準備完了を確認』


『言語機能オールグリーン。自動翻訳可能です』


『『スィルローゼ・サンダ・ミ・オラクル・エルフ』発動。フェイズ3システム……』



「ここは……」

 機械的な男性とも女性ともつかない不思議な声が響き渡る中、私は目を開ける。

 するとそこは床も壁も天井も白く染まった空間であり、裸の状態の私が立っている他には、三人が思い思いの状態で居た。


「目覚めたようだね。さて、自己紹介は……必要なさそうだね」

 一人目は夜の闇を思わせる黒い髪に満月を思わせる金色の瞳を持ち、和服を身に着けた少年。

 何処となく軽薄な雰囲気が漂う笑みを浮かべたその人物の名は陰と黄泉の神ルナリド。


「ーーーーー」

 二人目は色とりどりの真円を絡ませ合い、一見すれば不規則に、けれど実際にはとても規則正しく、何時までも変化に富んだ回転を維持し続けている物体。

 澄んだ鈴の音のような音を響かせるその物体の名は円と維持の神サクルメンテ。


「……」

 三人目は茨をモチーフにしたドレスを身に纏った桃色の髪に赤い瞳の可憐な少女。

 周囲を鋭い棘の付いた茨に囲われた少女の顔は何処か不安そうであると共に申し訳なさそうであり、花弁に隠された手は微かに震えているようでもあった。

 そんな少女の名前は茨と封印の神スィルローゼ。

 私が信じ、崇め、敬愛してやまないスィルローゼ様その人である。


「では手早く本題に入るとしよう。今も加速を続けているが、主観時間の引き伸ばしにも限界と言うものはあるからね」

「ーーーーー(そうするべきだろう)」

「そう……ですね」

 これが神託であり、ここがその為の場であるためだろうか、それとも主観時間の引き延ばしとやらの効果だろうか。

 既に私の身体は指や腕どころか、口に瞼と言った部分までもが動かない。

 だから私に出来るのはスィルローゼ様たちの話を聞く事だけだった。


「まず初めに、この状況はこちら……『Full Faith ONLine』の運営である僕たちにとっても想定外の事態であると言わせてもらうよ。ゲームの敵役として作った仮想存在がいつの間にやら実体を得ていて、おまけにゲームそっくりな世界まで拵えていたんだから、驚きだよ」

 そう言うルナリド様の言葉は何処か白々しい。


「で、どうにもヤルダバオトは僕らへの叛乱を企んでいる。その第一段階が君たち『Full Faith ONLine』プレイヤーの拉致であり、殺害。ま、ここについては君も既に知っている通りだね」

 だが嘘は言っていない。

 どうにも、私が知ってはならない情報が幾つもあって、それを教えないためにこんな言い回しになっている感じがする。


「でまあ、相性の関係もあってね。今、君たちを元の世界に戻すことは僕らには出来ないし、助力も最低限はゲームのシステムに準じていないといけない。『フィーデイ』に居るプレイヤーたちがヤルダバオトをある程度弱らせてくれたら、後はこちらでどうにか出来るとは約束するけどね」

 まあ、信じても問題は無いだろう。

 どの道やることに変わりはないのだから。


「ーーーーー(第二に、そちらの世界での死についてだ)」

 次はサクルメンテ様であるらしい。

 鈴の音としか聞き取れないはずだが、私の頭の中でとても硬い感じの男性の言葉に変換されている。


「そちらの世界での死は本物だ。自動復活や死亡直後の蘇生魔法は有効なままだが、完全に死んでしまえば元居た世界に帰す事はもう出来ない」

 死は本物……か。

 つまり、今回の件は既に何千人と言う死者が出ている案件と捉えるべき、と言う事なのだろう。


「いや、戻せないどころか、『フィーデイ』の輪廻が現在閉ざされている影響だろう。死後にきちんとした弔いを受けなければ、ヤルダバオトの手先であるモンスターとして生まれ変わる可能性もある。それも通常のモンスターよりも数段強力なモンスターになる可能性も秘めてだ」

 そして、きちんとした弔いが出来ない状態での死人が増えれば増えるほどに敵の勢力は増していく。

 サクルメンテ様の御言葉からして、既に百人単位でそう言うモンスターが出現している……いや、もしかしたらフルムスを壊滅させたプレイヤー姿のモンスターの一部はそうなのかもしれない。


「故に気を付けてほしい。とにかく自らの命を維持し続けることが重要だ」

 私は心の中で頷く。

 サクルメンテ様に言われるまでもないことだが、やはり死なないような立ち回りは重要なようだ。


「本当は……」

 そして最後はスィルローゼ様だった。


「本当は私たちがどうにかするべき案件だと分かっています。被害者である貴方たちに全てを押し付けるのなんて間違っていると思っています。でも、ごめんなさい。もう、この話は私たちではどうしようもなくなってしまいました」

 スィルローゼ様の声は震えている。

 だが泣いてはいない。

 泣くのだけは堪えている。


「そして、貴方の考えた通り、ゲームの中にある魔法では、ヤルダバオトの力を根本から削ぐ事は出来ません。そう言う魔法を私たちは敢えて作らなかったんです。ですから、私は新たな魔法を貴方に授けることにします」

 スィルローゼ様の赤い瞳が私の事を真っ直ぐに捉える。

 対する私の体はまつ毛一本すら動かない。

 けれど、それでも私は心の内でスィルローゼ様に微笑みかけ、告げる。


『大丈夫です』


 と。


「我が信徒エオナ。これは貴方だけの魔法。私の敬虔な信徒である貴方にだけ許される魔法。悪と叛乱の神ヤルダバオトの力を削ぎ、抵抗するための魔法です。使えばどうなるかは……分かっていますね」

 何処か覚悟を決めたスィルローゼ様の手元から赤い光が漏れ出し、私の頭の中に入ってくる。

 それだけで私はスィルローゼ様が授けてくださったこの魔法について全てを悟る。

 使えば私がどうなるのかも含めて。


「我が信徒エオナよ。私、サクルメンテからも一つ授けよう。あの世界の輪は歪んでいる。このままでは崩壊するだけだろう。どうか、この魔法を使いこなしてほしい」

 サクルメンテ様の体からも金色の光が円を描きながら飛んでくる。

 そして、それが体に届くと同時に、私の知識に新たな魔法が加わる。


「では僕からも一つ。使う相手はきちんと選びなよ。でないと逆に敵の戦力が増えかねないからね」

 ルナリド様の指先から乳白色の光が飛んでくる。

 この魔法は……確かに気を付けないと拙そうだ。


「さて、そろそろ時間切れだ。こうして一度道が出来た以上、次の接続はツェーンなら、普通の神託でも大丈夫だが、頻度は考えてほしい。僕らがアチラに捕捉されてしまっても君たちは詰みだからね」

 私の体の周りに鉤爪の生えた巨大な黒い手のようなものが現れる。


「健闘を祈っている」

 それは私の全身を包み込むように強く握りしめると、何処かへと私を連れ去っていく。

 だが、その中で私の耳……いや心は確かに捉えていた。


「エオナ。勝手な頼みであることも、貴方が私からの頼み事を断れない事も分かっていて言います。どうか、あの世界の人たちを助けてあげてください。そして、死なないで下さい」

 スィルローゼ様の願いを。


「その願い、もちろん叶えて見せます。だって私は貴方様の信徒なのですから」

 そうして私は微笑みながら『フィーデイ』へと戻されていった。

04/21誤字訂正

05/15誤字訂正


サクルメンテ様のセリフで途中から()が外れているのはエオナの脳内で変換されているためです

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんかすごくツクヨミとシアちゃんっぽい神様だなあ。
[気になる点] いや絶対運営の人達人間じゃないでしょ 人間がここまで未知の邂逅をしてまともな判断ができるわけが無い つまり、元は神が作ったゲームだったんだよ!(バァン!!) …………適当言ったけど有り…
2023/04/17 00:28 退会済み
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