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信仰値カンストの神官、我が道を行く  作者: 栗木下
4章:クレセート

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237/284

237:夜の語らい-5

「「「異端者を殺せ、異教徒を殺せ、化け物を殺せ」」」

 セキセズ枢機卿に扇動された人々は正気を失った状態で、私が居る建物に集まってきている。

 そして、建物の中を通って屋根の上を目指すだけでなく、建物の外壁をよじ登る事で屋根の上を目指してきている者もいる。


「状態異常の回復は……止めた方がいいわね」

 『スィルローゼ・プラト・ミ・スメル=サニティ・アハト』などの状態状回復魔法を使えば、おかしくなっている人を正気に戻す事は出来るだろう。

 だが、今の百人近い人間がおかしくなっている状況で一部の人間を正気に戻しても碌な事にならないのは目に見えているし、全員を一度に治しても……ほぼ間違いなく、その瞬間を狙って悪辣な一手が打たれることになる。

 セキセズ枢機卿のこれまでを考えれば、これはほぼ間違いない。


「だったら……」

 私はワンオバトーの能力……ターゲッティングをセキセズ枢機卿に向けて行使する。

 これで能力を解除しない限り、もうセキセズ枢機卿は私以外を傷つけられないし、私もセキセズ枢機卿以外を攻撃できない。


「死ねぇ!化け物ぉ!!」

 と、ここで私が居る場所にまでやってきた男の一人が勢いよく剣を振り上げる。

 放っておいてもダメージは受けないが、自分からターゲッティングをばらす意味もない。


「当たる訳ないで……」

 だから私はスリサズの能力を使って勢いよく屋根の外に向かって飛び出す。

 そして、飛び出しながら見ることになった。


「がっ!?」

「ぎごっ!?」

「あぎゃあ!?」

 私が飛び出す瞬間に、私が居た場所から影の刃が飛び出して男たちの体を貫く光景を。

 セキセズ枢機卿の有する悪意が膨れ上がり杖の先端を男たちの居る場所に向けている姿を。


「なんで……」

「気を付けろ!」

 ターゲッティングの効果を考えたら絶対にありえない光景を目の前にして、私は一瞬だが出遅れる。

 その一瞬の差でセキセズ枢機卿が口を開く。


「奴が飛び跳ねる度に我らが同朋が死ぬぞ!!だが恐れるな!死して向かうはルナリド様が治める黄泉の国ぞ!!死を恐れず奴を殺しにかかれ!!」

「スリサズ!『スィルローゼ・プラト・エクイプ・イパロズ=チェイス・フュンフ』!!」

「バウッ!」

 私は空中でスリサズを呼び出して、そのまま跨ると、スリサズの脚に魔法をかけて地面に足を着くことなく別の建物の屋上へと移動する。

 だが、その間にもセキセズ枢機卿に煽られている人々が何人も倒れ、その度にセキセズ枢機卿は何食わぬ顔で私が敵だと煽り立ててくる。


「一体どうなって……」

 セキセズ枢機卿は私のターゲッティング能力の対象になっている。

 セキセズ枢機卿の攻撃で私のターゲッティング能力の閾値を超える事は出来ない。

 近くにはセキセズ枢機卿以外に正気の人間は居らず、全員が私を敵とみなして行動をしており、味方をわざわざ攻撃するような者は居ない。

 おかしい、何かがおかしい。

 矛盾が生じてしまっている。

 攻撃できない相手に攻撃できると言うおかしな状態になっている。


「ルナリド様は……」

『一応言っておくけど、セキセズ枢機卿が僕の魔法を使う事は既に出来なくなっている。本人は僕の魔法を使っているつもりだけど、中身はヤルダバオトの魔法だ。ただし、効果については僕の魔法を完璧にトレースしているね』

 ヤルダバオトの魔法ではあるが、妙な付加効果が魔法に付いているわけでもない。

 ならば後考えられるのは……セキセズ枢機卿の意志の下で、セキセズ枢機卿ではない別の誰かが魔法を使っていることになる。

 それも、クレセートの全域を収めている私の感知範囲外から。


「早く奴を止めるのだ!でなければ仲間たちの血が大地を満たすことになるぞ!!」

「「「殺せコロセ……エオナを……仇を……」」」

「止むを得ないわね」

 下手人を探している余裕はない。

 私を挑発する目的で、既に何人も煽られた人々が殺されている。

 もう被害は許容できない状態になっている。


「スリサズ」

「バウッ」

 私はスリサズを全力で走らせる。

 建物の屋上から、いつの間にか変装魔法によって顔を変えているセキセズ枢機卿に向けて、空中を一直線に駆けさせる。


「ふんっ!」

「なっ!?」

 そしてすれ違いざまにセキセズ枢機卿の首をニグロム・ローザで一閃、切断する。

 切断したはずだった。


「ギャアアァァァ!?」

「また誰かやられたぞ!!」

「早く奴を!エオナを殺せ!!」

「なっ!?」

 だが赤い噴水が上がったのは私の背後に居るセキセズ枢機卿が居る場所からではなく、少し離れた場所に居た男性の切断された首からだった。


「いやぁ、危ない危ない。一人死んでしまったよ。だが、私の盾として死んだのであれば、彼らも本望であろうな」

「なんて物を……!」

 私は傷一つないセキセズ枢機卿の姿を見る。

 そして、その胸元、ヨミノマガタマの周囲に、人の形をした札が何十枚と束ねられた状態で吊り下げられており、その札の一枚が今正に燃え尽きたのを見る。

 間違いなく身代わりの札だ。

 それも、攻撃を受けた事実を無かった事にして回避するタイプではなく、攻撃を予め決めておいた相手に押し付ける事で防ぐタイプ。

 おまけに、恐らくだが致死性の攻撃にのみ反応するようにしてある。


「くっ……スリサズ!」

 余りにも……余りにも悪質過ぎる。

 そして、なるべく被害を抑えようと考えている私に対して有効すぎる。

 対策を講じるためにも、私はスリサズに命じて一時離脱を図る他なかった。


「バ……ギッ!?」

「なっ!?」

「逃がす……は?」

 だが、スリサズが跳ぼうとした瞬間だった。

 夜の暗闇の中で遠くの建物の屋上に居たゴスロリ服を身に着けた人物の赤い右目が光り、それと同時に私とスリサズの体がほんの一瞬だが硬直する。

 その一瞬の硬直によって、セキセズ枢機卿が生み出した影の刃が私とスリサズに届いて全身を貫く。

 その光景は私にもセキセズ枢機卿にとっても想定外の事象だった。

 そして、私たちの周囲に居る煽られた人々にとっても有り得ない光景だった。


「見たか!己の刃で傷つくものは居ない!汝らを傷つけし者は他に居る!!」

 そうして全員の心に生じた大きな空白を突くように、男とも女とも取れない声が周囲一帯に響き渡った。

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