234:夜の語らい-2
「ヤマカガシが伝えた通り、ヨミノマガタマを用いれば、魂が失われた死者相手であっても死因を探り、原因となった存在が居るならば、その存在の位置を探る事が出来る。つまり、君に攻撃を仕掛けてきた黒幕の位置を探る事は十中八九成功する」
「なるほど」
どうやらヨミノマガタマは誰かを殺した相手を追跡する、と言う点に関しては極めて優秀な能力を持っているらしい。
教皇様の言い方からも相当の自信が伺える。
「勿論、死者周り以外にもメリットはあるよ。具体的には陰属性の魔法の適性が大きく上がる。それこそある程度以上の心得があるなら、並の代行者相手なら正面からやり合えるレベルになるはずだ」
「そうですね。陰属性の適性上昇は有効に使わせていただいています」
「そんな力もあるのですか」
教皇様の言葉をルナリド様が補足する。
代行者と戦えるほどに高めるのであれば、確かに大きなメリットと言えるだろう。
それに適性を高めると言うのは……元の戦闘能力が破格であれば、それだけ活用の幅が広がるものだろう。
「しかし欠点……と言うより問題もある。ヨミノマガタマは悪と叛乱の神ヤルダバオトの汚染を受けて、ヤルダバオトの神器にもなっているからだ」
「ミナモツキと同じ状態、と言う事ですか」
「そうなるね」
だが、ヤルダバオトの影響も受けているらしい。
ミナモツキの複製体が何かしらの異常を抱えるのと同じように、ヨミノマガタマにも使用すると何かがあるようだ。
「具体的にはどのような効果ですか?」
「簡単に言ってしまえば自制心の喪失だね。使う力の大きさに合わせて、気が大きくなったり、他者への心遣いが薄まったりと言った具合だ。多少ならば問題は無いけれど、常用するのは僕としては避けたい。使い続けた結果としてどうなるか分かったものではないからね」
教皇様の言葉を聞いた私はルナリド様を横目で見る。
で、何故そんな仕様にしたんですかと言う意志を視線に込めて送ったが、返ってきたのは「シナリオフックとして都合がよかったから」と言う、割と身もふたもない意見の電波だった。
まあ、確かに都合は良さそうだけど。
「で、これはヤマカガシにもまだ伝えていなかったけれど、ヨミノマガタマは全部で3つ存在している」
「そうだね。僕はそう言う風に作った」
「3つもあるのですか」
「1つだけではないと思っていましたけど……やっぱりあったんですね」
ヨミノマガタマは3つある、か。
紛失した時……と言うよりはいざという時の対抗勢力と考えるべきか。
そして、対抗勢力を生み出すためと考えるなら……まあ、2個以上同時に持とうとしたら、何かしらのセーフティが働くようになっているのだろう。
1つ目を手にして欲に駆られたら、2つ目を求めると言うのもよくありそうな話でもあるし。
「ヨミノマガタマの一つは僕が今持っている」
そう言うと教皇様は衣服の下に隠されていた蘇芳色の小さな勾玉を見せる。
勾玉には陽属性を示す紫色の繊維を主体にした、各種封印をヨミノマガタマへ与える紐が通されている。
封印がしっかりと働いているので、特別な力の類は感じないが、一切の加工痕が見られない勾玉と紐が神器に相応しい見た目を持っているのは確かだ。
「残りの二つはクレセートにそうと分からないように隠してある。隠してあるが……」
「まあ、相手が悪いからね。盗まれている可能性は当然考慮するべきだと思うよ」
「ヤルダバオト経由で情報を入手して、手にしている可能性は考えるべきでしょうね」
「……。まあ、そうですよね」
私は少し言い淀んだヤマカガシに視線を送る。
土の蛇を操っていて表情が出ないからこそ、その声音は多くの情報を持つのだし、もう少し気を付けてほしい。
教皇様がアチラの喧騒に気付くのはもう少し後でいい。
「エオナ、万が一を考えて、ヨミノマガタマの一つは君に確保しておいてもらいたい。そして可能ならば、君の中に封印をしておいてほしい」
「敵が決して手を出せないようにするために、ですか?」
「ああそうだ。そして、万が一の時には君が相応しいと思った人間に貸し与える形で、封印を解いてほしい」
ヨミノマガタマの封印か。
ミナモツキと同じように私でも容易に扱えない位置に封印してしまえば、自制心の喪失と言うデメリットも抑えて管理は出来るだろうし、そもそもヤルダバオトの代行者である私にはデメリットが作用しない可能性もある。
だが、ヨミノマガタマはルナリド様の神器だ。
ならば、その是非を問うべきは教皇様だけでなくルナリド様にもだろう。
「ルナリド様」
「僕は教皇の判断を肯定する。今の『フィーデイ』の情勢を考慮するなら、ヨミノマガタマの一つはエオナが持っておいた方がいい」
「分かりました」
ルナリド様も是とするなら、私がとやかく言う事ではない。
機会があれば一つは封印して持っておくとしよう。
「ついでに通達。僕を含む神々の神器の内、このリストにある神器はヤルダバオトの汚染が特にひどい物だから、機会があれば君の中に封印しておいてほしい」
「……。分かりました」
ついでと言った様子でルナリド様から紙が渡される。
私の中が大変なことになりそうだが、まあ、神器だからと一々封印の是非を確認する必要が無くなって都合がいいか。
なお、スオウノバラの名前も当然あったが、スィルローゼ様の但し書きが付いていて、必ず最後に封印するようにとの事だった。
どうやら何かしらの事情があるらしい。
「では、僕はこれで失礼させてもらうよ。頑張りたまえ、エオナ」
そうしてルナリド様は部屋の外に出て行き、エオナ=フェイスもそれに付いていく形で部屋から出て行く。
「では僕もヨミノマガタマの位置を片方教えないといけないし、クレセートへと戻らせて貰っていいかな?」
そして教皇様も『フィーデイ』に戻りたそうにするが……。
「あー……すみません教皇様。今は無理です」
「申し訳ありませんが、今は戦闘中なので、暫く待ってください」
「は?」
残念ながらエオナ=フィーデイは現在戦闘中であり、とてもではないが教皇様を『フィーデイ』に戻せる状況ではなかった。




