233:夜の語らい-1
「準備があるため、明日の朝まで待ってほしい。との事だった」
結論から言ってしまえばヨミノマガタマにはヤマカガシの言った通りの力があり、明日の朝にはその力を使って犯人との関わりが確実にあったと言える人間……黒い矢を放った射手の死体を調べてもらえることにはなった。
「明日か……全員、気を付けて夜を過ごすように。どうにも相手の攻め手が積極的な物になってきている気がする」
「分かってるわ」
「言われなくとも」
だから私たちはそれぞれの寝泊まりする場所に移動して、夜を明かすことにした。
したわけだが……
「こんばんわ、エオナ」
「こんばんわ、エオナさん」
「こんばんわ、教皇様、ヤマカガシ」
極普通に私の寝室には土の蛇を連れた教皇様がやってきていた。
どうやらルナリド様の転移魔法によって、昨夜と同じように部屋を抜け出してきたようだ。
「早速で悪いけど『エオナガルド』に入れてもらっていいかな。話の途中に何かがあっても困る」
「分かりました」
何にせよ情報を得る事は出来る。
と言う訳で私は教皇様とヤマカガシを『エオナガルド』へと招き入れる。
で、対応の方はエオナ=マネージに引き渡そうとしたのだが……
「やぁ、こんばんわ。教皇、蛇と策謀の神グロディウスの代行者ヤマカガシ」
「ようこそいらっしゃいました。教皇様、ヤマカガシ様」
「……」
「ル、ルナリド様!?」
「ふぁっ!?」
何故か『エオナガルド』にはエオナ=フェイスを連れたルナリド様が笑顔で立っていて、エオナ=マネージは予想通りの反応と言った表情を浮かべていた。
うん、私ことエオナ=フィーデイは知らない、何も知らない。
こっちはこっちでやっておくことがあるので、後は任せるとしよう。
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「どうしたんだい、そんなに驚いて。僕がここに居る可能性ぐらいは想定済みだっただろう?」
「それは否定しません。ですが、自らが崇める神が突然目の前に現れて驚かない信者の方がおかしいでしょう……」
「それもそうだね。けれどまあ、君なら深呼吸一つすれば大丈夫だろう」
「……。そうですね」
さて、エオナ=フィーデイは無事に教皇様たちを『エオナガルド』に居る私ことエオナ=マネージの前に移動させた。
ルナリド様がいらっしゃるのはルナリド様御自身の意志であり、エオナ=フェイスはその付き添い、どうやらルナリド様は教皇様に会いたかったらしい。
「じゃ、早い所僕の用事を済ませてしまおうか。『エオナガルド』は『フィーデイ』ではないけれど、過干渉が許されているわけではないからね」
「分かりました」
今更な話だが、ルナリド様と教皇様はよく似ている。
ルナリド様は夜の闇を思わせる黒い髪に満月を思わせる金色の瞳を持った少年で、今日は黒と赤、それに金を主体にした狩衣を身に着けていて、装飾含めて威厳たっぷりな装いになっている。
対する教皇様も眼鏡と年齢が少し上の事を除けば、顔立ちはほぼ同じで、身に着けているのが一般的なルナリド様の神官服でなければ、兄弟のように見えるかもしれない。
「単刀直入に聞こう。教皇よ。世界の真実を聞かされて耐えられるものはどの程度居ると思う?」
「枢機卿で3分の1、と言うところでしょう。私やケッハメイ枢機卿にとってはどうでもよい事ですが、全員が耐えられるとは思えません。そして、耐えられる3分の1にしても既に相手に取り込まれている可能性があります。一般信徒ならばもっと割合は下がるでしょう」
世界の真実と言うのは……きっと今の『フィーデイ』が『悪神の宣戦』と共に生まれた世界である事、それに『Full Faith ONLine』がゲームの世界であった事だろう。
実のところ、この話は非常に厄介な話なのだ。
なにせ……
「かなり多い方ではあるね。自分たちの世界が元は作り物で、自分たちの過去も出来上がった物を押し付けられただけ。子は産んだ者ではなく、親は産み落とした者でない。神によって直接作られたという名誉を差し引いても耐えられる方が普通ではないだろうね」
「ついでに自分たちは物語を進行するために必要な役割を押し付けられた人形に過ぎない。今の世界を真に作り上げたのは七大神たちではなく、悪と叛乱の神ヤルダバオトですらない。と言うのも加えておいてください」
事実を知った人間は教皇様のような一部例外を除いて、だいたい発狂するような内容なのだから。
「教皇様はご存じだったのですね」
「僕は教皇と言う役目以外を持っていませんからね。人間としての名前もなく、親も知らず、過去もない。そんな人間は創世期にしか居ないでしょう」
「ああ、そう言えば……」
言われてみれば『Full Faith ONLine』では教皇様は教皇様としか呼ばれていない。
一度も教皇様の身元を示すような話を聞いた覚えもない。
「ちなみに知った理由は?」
「色々と調べものをしている間に、とだけ。まあ、世界創世の真実については半分以上推測ですが。なんにせよ、この件は出来るだけ秘匿するべきでしょう。少なくとも100年くらい先までは」
「なるほど」
まあ、この件については基本的には口をつぐむ方針で。
自分の過去が作り物であったが故に動き出した例としてはメンシオスもそうだが、だいたいはメンシオスや教皇様のような冷静な反応ではなく、おかしくなるのだし。
「分かった。ならば……」
ルナリド様が教皇様の額に手を触れて、何かを呟く。
すると教皇様は一度驚いた後、笑顔を浮かべる。
どうやら何かを伝えたらしい。
「ありがとうございます。ルナリド様」
「礼は不要だ。主として君の働きに報いただけだからね」
「それでもです」
まあ、私が知る必要の無さそうな事柄であるし、気にしないでおくとしよう。
「では、次の話題だ。教皇」
「分かりました。ルナリド様。エオナ、ヨミノマガタマについて少々伝えたい事がある」
「はい」
それよりも私が気にするべきはヨミノマガタマについてだろう。




