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信仰値カンストの神官、我が道を行く  作者: 栗木下
4章:クレセート

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230/284

230:情報交換-6

「……。以上が報告となります」

 神官は報告を終えると部屋の外に出て行く。

 そして、部屋に居る面々の中でイナバノカグヤさんが眉間にしわを寄せた上で、私に詰め寄ってくる。


「死者17名、負傷者100名以上。アンタにこれを止むを得ない犠牲だと言う気は?」

 イナバノカグヤさんは本気で怒っている。

 怒っているからこそ、私に詰め寄り、真正面から睨み付けてくる。

 対する私の返答は決まっている。


「ない。例えスィルローゼ様が認めたとしても私は今回の犠牲を止むを得ない犠牲だとは認識できないし、してはいけない。今回の死者と負傷者は完全に私の失態が原因よ」

 これは決して許容してはいけない犠牲である、と。

 正直な思いを言ってしまえば、今すぐにでも自分で自分の喉を掻き切って詫びたいぐらいだ・

 だが、私如きが死んで詫びられるような命ではないし、私が死ねばそれこそ相手の思う壺と言う状況でもある。

 だから私に出来るのは可能な限り冷静に、怒りを抑え込んで、今回の一件の黒幕を見つけ出して磨り潰す他ない。

 どれほど恥晒しに見えても、無辜の民の命が私の失態によって失われた事実は覆らないし、償い切れないと分かっていてもだ。


「そうかい。ならアタシに説明をしてちょうだい。一体あの場で何があったのかを。そして今も悍ましい霧で包み込んでいるそれがどんな物だったのかを」

「分かったわ」

 故に私はタイホーさんと情報交換をしていた事、その最中に矢を射られて、矢に込められた力によって無数の犠牲者が生じた事、そして封印を施した上で矢に込められた力の無力化を今も続けている事を話す。


「矢を避けたり、防いだりする事は出来なかったのか?二人とも外からの攻撃は想定していたはずだ」

「勿論、防御と感知の魔法は拙僧もエオナも張り巡らしていた。だが、どちらのどの魔法も効力は発揮しなかった」

「そうね。私も攻撃される事自体は想定していた。けれど、気が付いたら頭に矢が刺さっていたわ」

 ルナの質問にタイホーさんも私も出来なかったと答える。

 射手と矢、どちらにそう言う魔法がかかっていたのかは分からないが、隠蔽の補助に矢の加速や照準調整の魔法がかなりの高レベルでかかっていたことは確かだろう。

 そして、私が感知していた限りでは、射手には相応の悪意はあったが、あれは自分自身の意志と言うよりは依頼だから私に攻撃すると言う感じだった。


「ただ、射手が自分の放った矢がどんな物だったのかについて知らなかったのはほぼ間違いないわ」

 ようやく矢の処理が終わった。

 なので私はメンシオスの黒い霧を『エオナガルド』に戻すと、封印を解除。

 私は封印から解き放たれた黒い矢を手に取る。


「正気……なの……これは……」

「カグヤ!?」

「カグヤさん!?」

 その瞬間、イナバノカグヤさんが顔を青ざめさせ、よろめき、マクラとヤマカガシの二人に体を支えられる。


「イナバノカグヤさん」

「見た瞬間に分かった。これは悪辣なんてレベルじゃない。その矢を作った奴は完璧に狂っているわ」

 イナバノカグヤさんが椅子に座らせられる。

 どうやら兎と細工の神ラビトリワク様の代行者である彼女は、何かに気付いてしまったらしい。


「大丈夫。アタシから話すわ。ただその前にエオナ、悪いことは言わないから、とっととその矢は使えないように折っておいて」

「分かった……わっ!」

 私はイナバノカグヤさんの言葉を受けて、真っ黒な矢を中ほどからへし折る。


「それで……」

「まず第一に、その矢には加速や隠蔽、照準調整と言った魔法と同様の効果をもたらす装飾が施されているわ。それも細かすぎて、普通の人の目では表面が黒く塗られているようにしか見えないレベルでね」

「「「!?」」」

 イナバノカグヤさんの説明に私を含めた全員の目が矢に向けられる。

 そして、可能な限り目を凝らして見てみれば、確かにイナバノカグヤさんの言うとおりになっていた。


「でもそれだけならアタシにだって出来る。問題はその装飾の下、矢本体の構造だ」

「構造?」

 だが問題はそこではないらしい。

 私の目には何も分からないが、イナバノカグヤさんの目では、もっと悍ましい物が見えているようだった。


「たぶん、初めからそう言う存在として生み出したんだろうね。その矢は細胞構造などを弄る事によって極小の魔法陣を無数に構築し、相応の魔力を込めた上で射ることによって効果を発揮するようになっている」

「具体的には?」

 イナバノカグヤさんが指を一本上げる。


「一つ目は突き刺さった相手の体内で爆発を発生させる効果。ただし、燃料として矢が突き刺さった相手に対して負の念を抱いている人間の魂が消費される。当然、真っ先に使われるのは放った張本人ね」

 それは私も経験した。

 そして、魂が奪われているから、燃料に使われてしまった人間の命は絶対に帰って来ない。


「二つ目は燃料として消費した人間の体に残された極僅かな魔力を利用して、消費された人間の体を爆破する効果。証拠隠滅も兼ねているんだろうけど、それ以上に三つ目の効果との相乗効果がヒドイわ」

「具体的には?」

「三つ目の効果は二つ目の効果による爆破に、矢が突き刺さった相手に対する悪意を煽るような精神波を乗せる事」

「待て、それは……」

 イナバノカグヤさんの言葉に私は息を呑む。

 何故ならば、この時点でこの矢の悪辣さが私の想定を再び超えたからだ。


「そう、エオナが止めなければ今頃はクレセートの大半か全てを死人が埋め尽くした上でエオナが倒れているかどうかになっていた。そう言う結果になると知っていてエオナに放ったのなら……これはもう、エオナを殺すついでに大量殺戮を相手は試みていたとしか思えないわ」

 そう、もしも私が止められていなければ、私に対する悪意が何も知らない民衆の間で煽られ続け、燃料として消費され続けていたことになる。

 クレセートと私のどちらかが滅ぶまで。

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