195:新たなる剣-5
「ああ、こんなにしっかりとした肉は何時ぶりだろうなぁ……」
「うめえよぉ……うめえよぉ……」
さて、『フィーデイ』で私がニグロム・ローザを受け取った頃。
『エオナガルド』では食肉用モンスター配置の宴……住民の誰かが言うところの狩猟祭が引き続き行われている。
「刺身も上手いけど、炙りも行けるわね」
「ハンバーグううぅぅ!鳥豚のハンバーグううぅぅ!!」
久しぶりの肉に、宴に参加している誰も彼もが喜びの色を露わにしている。
シンプルな塩コショウだけを振った焼肉も、手間暇をかけたであろう上等な料理も、卓に並べられる度に誰かの手に取られ、喜びの声と感情と共に消え去っていく。
「肉!イノシシ肉!まーるごと!!」
「ふははっ!久しぶりの狩り!そして肉だ!それも上質な肉だ!」
喜んでいるのは『エオナガルド』の住民だけではない。
スリサズとアユシの二人はそれぞれ一人で一頭の銀牙の猪を相手取り、倒しては骨の髄まで貪る勢いで味わっている。
「火力補助を頼む!」
「言われなくても!」
「ふははっ!守りは我に任せておけ!!」
ゴトス、それに宴開催の切っ掛けとも言えるワンオバトーなどは、何人かで協力し合う事で金毛の羊とやり合い、勝利し、その肉を酒と共に味わって、肉が尽きるとまた戦うと言うサイクルを繰り返している。
「コッコ捕まえたどー!」
「うおっ!?釣れた!?」
戦う力がない者もまるで鬼ごっこか何かをするような感覚で、銅羽の鶏を捕まえては喜び、厨房へと運んでいる。
腹ごなしも兼ねて釣りを始めた者は、鉄鱗の魚を釣り上げては、驚きつつもその場で捌き始めて、幸運を褒められつつもその身を分け与えている。
「ふふふ、実に楽しそうですね。とても良い宴です」
「そうだね。こういう光景を見れると、僕らも頑張った甲斐があると言うものだ」
で、そうやって食肉用モンスターを何度も狩っていることから分かるように、今回の宴ではサンライ様とルナリド様が協力して下さっており、狩られる端からモンスターを復活させてくれている。
そして、私以外には気づいていないが、食事を楽しんでいる面々には『エオナガルド』の住民ではない方々が混じっている。
「いやー、素晴らしい料理なのニャ。箸が進む進む。あ、ちょ、それは私のなのニャ!」
「 」
「中々だな。これなら輸入を検討してもいいかもしれない。アイツらも喜びそうだ」
「ヒュロロロ。良い血だなぁ。と、隠蔽は忘れないようにしないとな」
「丸呑みは……流石に駄目か。うーん、ま、いいか。ゆっくり楽しむのもいいものだしね」
うん、勿論『Full Faith ONLine』運営の神様たちの事である。
なかには私如きでは居る事しか認識できない神様や、明らかに人の姿をしていない神様も居るが、気にするだけ野暮と言うものだろう。
「ーーー!?」
「あ、これ桁違いに美味しい。当たりね」
ちなみに、料理を口に含んだ人間が時折放心状態に陥っている光景が見られるが、これは食と探求の神ククパシュ様が厨房にこっそり入り込んでいて、腕を振るっているからだと思われる。
私の表現能力では桁違いに美味しいとか、一流の料理人であるはずのシンゴゼンの作った料理よりも明らかに美味しいぐらいしか言えないが、時々人間業とは思えないレベルで美味しい料理が混ざり込んでいるのだ。
飲料でも同様の反応が見られる辺り、酒に関わる神様や果実に関わる神様なども紛れ込んでいるかもしれない。
「凄くいいわね……」
そんな感じで宴はとても楽しく進んでいる。
神も人もモンスターすらも楽しむ形で、謳歌している。
「けど、スィルローゼ様は居ないのよね」
ただ、不満点が無いわけでもない。
まず、今回の宴の席にスィルローゼ様は不参加である。
スィルローゼ様の代行者である私が居ることに加えて、スィルローゼ様がこのような場に加わるのではなく、遠巻きに眺められるのを好む事を知っているから仕方がないと認識できるのだが、それでも不満に思わないわけではない。
料理そのものは、私たちからの感謝の言葉と共にルナリド様やサクルメンテ様が送ってくださっているが……やはり不満はある。
「後はアレね。戦いが足りないわ」
もう一つの不満点はアイブリド・ロージスに挑む人間が居ない事。
ゴトスたちは金毛の羊までしか挑まないし、『エオナガルド』で最も戦闘能力に優れたゴトスたちが挑まない以上、他の面々もアイブリド・ロージスに挑もうとはしない。
おかげで、アイブリド・ロージスは宴会場となっている面会区の片隅でとても暇そうにしている。
「制限は……人間が出来る範囲に絞ればいいか」
狩猟祭だと誰かが言っていたのに、その最難関に誰も挑まないなどと言う事があっていいのだろうか?いや、ない。
うん、神様たちが挑んでも意味が無いし、ゴトスたちも挑まない、と言うのであれば、もう私が出る他ないだろう。
幸いにして、今の私には戦う理由もあるのだから。
「よし、ニグロム・ローザの試し切りと行きましょうか」
私は『フィーデイ』から『エオナガルド』へとニグロム・ローザを移動させる。
「お、エオナが戦い始めるようだね。さて、これは見物だよ」
「一番良い肉が無いと盛り上がりに欠けるし、ちょうどいいのニャー」
「あ、みなさーん!エオナ様が戦うみたいです!」
「待ってました!クイーンエオナ!!」
「アレにソロで挑むのか……まあ、エオナなら問題は無いだろうが……」
そして、アイブリド・ロージスに殺意を向けつつ、ゆっくりと近づいていく。
「アイブリド・ロージス。本気で来なさい」
「「「ブメッコ」」」
アイブリド・ロージスも私の殺意に気付き、休憩状態から臨戦態勢へと移行する。
「『スィルローゼ・ウド・エクイプ・エンチャ・ツェーン』!」
「「「ブメッコオオォォ!!」」」
そうして、私の魔法詠唱とアイブリド・ロージスの咆哮と共に戦いが始まった。




