178:E12-1
「「「礼節を弁えぬ蛮族が!それが理に適った行動と言えど、戦いの前の口上を許さずに攻撃を仕掛けるなど、貴様らにはこちらの事情を知りたいという考えがないのか!!」」」
E12を握ったゴーストは、恐らくジェラシピリッツだろう。
頭部は複数人の顔を張り合わせたもので、普通の人間より二回りほど大きい。
半透明の胴体は腰の辺りまでで、腕の長さと太さは普通の人間の倍ほど。
右手に握られたE12のサイズはまだ変わっていないため、ジェラシピリッツが握っていると、短めの刃物のようにも見える。
「無いわね」
「あるけど、優先度は低いわ」
「ノーコメントで」
「ガウッ……」
「「「この畜生共があああぁぁぁぁ!!」」」
ジェラシピリッツの言葉については……どうでもいい。
E12を叩き折る機会を逃す方が良くない。
で、私は視線だけで、メイグイとサロメにジェラシピリッツが『Full Faith ONLine』の時のままかを尋ねたが、二人とも僅かに顔を左右に振る。
どうやらE12を手にしたことで私のエリア正常化魔法の頸木が外れ、再び現実化に伴う成長が始まっているらしい。
つまり、どれほど格下であっても油断が出来ない相手になったと言う事である。
「「「いいだろう!ならば貴様ら全員斬り殺して、我らとE12の糧にしてくれるわ!!死ぬが……」」」
ジェラシピリッツの体の大きさに合わせるようにE12が巨大化する。
そして、ジェラシピリッツは巨大化したE12を振るべく、右腕を引く。
「ふんっ!」
「「「いぎぃ!?」」」
だから、その瞬間を狙って私はジェラシピリッツの懐に飛び込み、E12に戦闘前に各種付与魔法をかけておいた剣を叩きつける。
それだけでジェラシピリッツは情けない声を上げ、E12を取り落としそうになるが、人間には無理な姿勢でも宙に浮くゴーストならば何とかなるのだろう、どうにか堪え、それから直ぐに両手でE12を握る事によって耐える。
「あら、意外と根性があるじゃない」
「「「き、貴様のように恵まれた力を持つものに、我らが負ける事など……だ、断じて容認できぬわ!」」」
「へぇ……」
私とジェラシピリッツの体勢が少しずつ変わっていく。
それと同時にジェラシピリッツの腕力も増していき、鍔迫り合いも均衡に近づいていく。
なるほど、これがジェラシピリッツの能力、嫉妬の霊魂の名に相応しく、相手が優れていればいるほど、自分の能力が上がる力と言うところか。
ダンジョンの難易度からして、『Full Faith ONLine』の時は持っていても殆ど誤差のような能力だっただろうが……現実となって、制限を外した今は上限値も相当高まっていそうだ。
「『ルナリド・ムン・ワン・ボルト・ツェーン』!」
「『ヤルダバオト・ディム・フロト・ブラクウォル・ドライ』!」
ジェラシピリッツの横に回ったサロメが杖から蘇芳色の矢を放つ。
が、ジェラシピリッツの顔の一つが魔法を詠唱し、自分の前に黒い壁を出現させ、攻撃を防ぐ。
「能力の強化に加えて、顔の数だけ詠唱が可能ってところかしら?」
実際にはそれだけではないだろう。
ジェラシピリッツの顔の中に、よく見れば最初に倒した六人のアンデッドの生前と思しき顔がある。
恐らくだが、あの六人は此処でE12とジェラシピリッツと戦い、負け、肉体はE12によってアンデッドにされ、魂はジェラシピリッツに取り込まれて糧にされたと言うところか。
「「「ハハハッ!その通りだ!!『ヤルダバオト・ムン・ワン・ボルト・ドライ』!!」」」
そして、私の推測が正しいことを示すように、鍔迫り合いをしたまま複数の顔が詠唱。
私に向けて蘇芳色の矢を放ってくる。
「面倒な能力ね」
「「「なっ!?」」」
が、この程度ならば体から茨を槍のように突き出して迎撃すれば問題は無い。
鍔迫り合いも両手で剣を握れば、十分に拮抗できる。
「『ルナリド・ファトム・フロトエリア・メンタ=イパクト・アハト』」
「「「うごっ!?」」」
ジェラシピリッツの顔の幾つかが苦悶の声を上げると共に僅かだが力が緩む。
どうやら、サロメは相手の精神へ衝撃を与える魔法を使う事によって、ジェラシピリッツの防御を無視したらしい。
「グッジョブよ。サロメ」
当然私はその隙を見逃さずに仕掛ける。
左手を引き、掌を少しだけ開く。
だが使うのは魔法ではない。
「「「っつ!?」」」
「磨り潰してあげる」
メンシオスの遺骸が溢れ出る黒い霧をそのまま出して、左手に纏わせる。
「ふんっ!」
そしてジェラシピリッツに向けて左手を突き出すが……
「「「位相変化!!」」」
私の攻撃が触れる直前にE12ごとジェラシピリッツの姿が掻き消え、暫く経ったところで数メートル離れた場所に現れる。
どうやら、ゴースト系ボスにありがちな、自分の姿を消す能力を使って、私の攻撃を回避したらしい。
「なんだその悍ましい力は!?」
「貴様は本当に神官なのか!?」
「いや、それ以前に人間か!?」
「ちっ、外したか」
左手が痛み出したので、私は左手の霧を再封印して消す。
ジェラシピリッツの顔がそれぞれ別にわめき出しているのは……メンシオスの霧が自分たちにとって天敵と言ってもいい力だと気付いたからだろう。
尤も、メンシオスの霧が致命的にならないのは、私のように揺るがぬ信仰心を持っているものだけなので、ジェラシピリッツが怯えるのは当然の話だが。
「「「我等はこんな化けも……のののののの!?」」」
「ん?」
「あ?」
「へ?」
突然ジェラシピリッツの全身が震えだし、左手で顔を抑え、壊れたスピーカーのように言葉になっていない声を上げる。
「この自己主張の強さと言うか身勝手さ、作り手の精神性が本当によく出ているわね……」
「「「……」」」
震えと声が止む。
左腕がだらりと垂れ下がる。
幾つもあった顔が一つになり、半透明なだけで全身のパーツがきちんと揃った普通の人間になる。
「怯える使い手など要らん。だから、此処からは我が体を使う。ただそれだけの話だ」
そして、特徴らしい特徴のない顔に笑みを浮かべ、ジェラシピリッツの体を乗っ取ったE12が口を開いた。




