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信仰値カンストの神官、我が道を行く  作者: 栗木下
3章:エオナガルド

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171:E12討伐準備-8

「さて、サロメとシヨンは眠ったわね」

 私の前でサロメとシヨンは机に突っ伏す形で眠っている。

 今の季節は夜でもさほど冷えるものではないが、それでも万が一と言う事はあるので、薄手の布をかけておく。


「状況は?」

「今のところは異常ありません。エオナ様は?」

「暫くはここで瞑想をしています。何かあったら、声をかけてください。触れるのは……何があっても止めておいた方がいいです。少々特殊な作業を私の中でしていますから」

「分かりました」

 私はフルムス遊水迷路の入り口がある物見台から少し離れた場所の石畳の上に直接座ると、右手に剣を持った状態のまま目を閉じ、意識の主体を『フィーデイ』から『エオナガルド』へと移す。


「……」

 そうして『エオナガルド』に居る私へと意識の主体を移した私たちは、『エオナガルド』各所で同時に動き出し、それぞれにやるべき事をやっていく。

 つまり、監獄区に居る私は囚人たちの様子を確認し、居住区に居る私はゴトスやシュピー=ミナモツキから話を伺い、『エオナガルド魔法図書館』に居る私は本の検閲と処理を始める。


「わあああぁぁぁぁぁたああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーー!?」

「スヴェダは相変わらずね」

 そんな無数の私の中の一体。

 スヴェダに付き添っている私は、目の前の茨の檻の中で相変わらず荒れ狂い続け、何かを叫び続けているスヴェダの魂を眺めていた。


「そろそろ、落ち着き始めてもいい頃合いだとは思うのだけど……」

「ーーーーーーーーーーーー!!」

「厳しいわねぇ」

 スヴェダの魂は肉体を失ってから、ずっとこのように荒れ狂い続けている。

 経過日数の少なさとE12による呪いの影響もあるのだろうが、精神を落ち着かせるための各種魔法やアイテムの類も使っているのに、こうして荒れ続けているとなると……その内、怨霊化してしまって『エオナガルド』の外に出すわけにはいかなくなってしまうかもしれない。

 それは避けたいのだが……まあ、今から別の私がやる事が上手くいけば、たぶんその道は避けられるだろう。

 で、その別の私だが……


「さて、どうすれば、扱う事が出来ると思う?」

「どうするもこうするも、封印を少し緩めて、メンシオスの遺骸が持つ霧を放出させるしかないでしょう」

「問題はどうやって放出した霧を制御するかよねぇ……」

 複数個体集まって、メンシオスの遺骸が封印されているスペースの前で話し合っていた。


「封印に異常は無いわよね」

「ええ、問題ないわ。封印の強度チェックは小まめにやっているし、幾重にも重ねた封印も適宜交換してる。担当している私の認識能力に問題がないことも確認済みよ」

 同じ人間が複数人集まって話し合ったところで何になるのだと思われるかもしれない。

 が、同じ人間であっても複数人集まれば、確認はスムーズに進むし、一つ一つの項目に注意力を割くことも出来る。

 同じ物を見ていても、微妙に角度が違うおかげで気づくことが違う事だってある。

 と言う訳で、案外馬鹿に出来ないものである。


「まあ、まずは出たところ勝負をするしかないわね」

「そうなるわよね。封印と制御じゃ全くの別物だし」

「何事も経験するしかないわよね」

 しかし、同じ人間であるため……結論についてはだいたい一致してしまう。

 ここは今後、人格や記憶の統合で問題にならない程度に対策を考えていくべき点だろう。


「では、準備をして……」

 まあ、今後の話は今後にすればいい。

 今は目の前の案件である。

 と言う訳で、私は私の一人の周囲に結界を張り巡らし、準備を整えた上で右手を前に出し、掌を上に向ける。


「来なさい。メンシオスの遺産よ」

 そして、その状態でメンシオスの遺骸にかけている封印を少しだけ緩め、信仰を磨り潰す黒い霧を右手の掌から生じさせる。

 そうして、黒い霧が現れた瞬間。


「う……ぐ……あ……」

 強い痛みが全身へと一気に襲い掛かってくる。

 声も出せないような、全身が、肉体も精神も魂すらも磨り潰されるような痛み。

 それが絶え間なく、微妙に強弱を変えて、襲い続けてくる。

 それは、メンシオスとの戦いで味わったものとは、比較にならない痛みであり、他の二人の私が歯止めとなって痛みを堪えていなければ、『エオナガルド』全体を揺るがしかねないものでもあった。


「まったく……アイツは……本当に……」

 普段の封印はメンシオスの遺骸を封印することで、メンシオスの所有物である黒い霧も間接的に封印。

 そうする事で、この痛みに遭わないようにしていたわけだが……いざ、自分で使うとなれば、これほどの痛みを伴うとは思ってもいなかった。

 そんな代物をメンシオスは何事も無さそうに扱っていたのだから……私などよりもよほど化け物である。


「量を制限して……」

「方向性を調整して……」

「その上で祈りを捧げる……」

 幸いにして、私が使う分には命を蝕まれることは無い。

 スィルローゼ様への圧倒的かつ無限に湧き続ける信仰心が障壁となって、蝕まれる範囲を表面上に留めるからだ。


「術式を解析して……」

「扱いやすいように調整して……」

「祈りを……感謝の祈りを……」

 だが、それは持てるだけで扱えるという意味ではない。

 剣にしろ、火にしろ、金銭にしろ、持っているだけでは何の意味もなさない。

 目的を達成できる形へと調整し、動かす必要がある。

 剣ならば相手を斬れるように振らなければならないし、火ならば目的の物だけを焼けるようにするべきで、金銭ならば目的の物が手に入るように使う必要がある。


「濃度は極限まで薄める。蝕む対象も呪いに制限する。効果を発揮する時間も限る」

「魔法にせよ、能力にせよ、ヤルダバオトへの信仰を基にした魔法に変わりはない」

「人体がどの程度の毒にまで耐えられるかも私たちは知っている」

 だから、私たちは黒い霧も同じように加工をした。

 メンシオスの遺骸から溢れ出る黒い霧に干渉をして、相応のリスクは伴うものの、並大抵の呪いならば一瞬で磨り潰して消せる劇薬を作り上げていく。

 ヤルダバオトの力を基にした禁忌の物質を生み出していく。


「……。何とか出来たわね」

 そうして出来上がったのは……黒に近い赤を纏った水晶の薔薇であり、握りつぶして擦り付けるだけで、呪いを蝕み破壊する九割以上毒である薬だ。

 同時に気付く。


「作成中、覚えた覚えのない妙な知識があったわね」

「代行者の知識ではないわ」

「元の世界の知識……にしては詳しすぎるわね」

 私の中に由来の分からない知識……人間の肉体に関する妙に詳しい知識があることに。


「ま、いずれ調べましょう。今は気にする余裕が無いわ」

「そうね」

「同意」

 だが、それについて詳しく知る時間は無かった。

 今やるべきは、黒い霧の力を秘めた薔薇水晶を素早く、確実に生み出せるようにすることだったから。

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