169:E12討伐準備-6
「エオナ、私は貴方の行動を肯定します」
「スィルローゼ様……」
私は『スィルローゼ・サンダ・ミ・オラクル・ツェーン』を発動し、スィルローゼ様の御前へと精神を移動させた。
そして、最初にかけられた言葉がそれだった。
「貴方があの場でウルツァイトを止めなければ、彼女はそのまま親しい間柄だった者の仇を取るために飛び出して行き、返り討ちにあっていたでしょう。その後がどうなるかはブレが生じるところですが……最悪のパターンで行けば、貴方の想像していた通りになっていたでしょう」
スィルローゼ様は何処か遠くを見つめるようにしている。
恐らくだが、私如きでは窺い知れない場所を見つめているのだろう。
「ですがエオナ。貴方の行動は正しくはあっても最良であったわけではありません。何故かは分かりますね」
「はい。分かっています。私は魔法によって、ウルツァイトさんを“無理やり”止めました。結果として、彼女は傷ついているし、納得もいかない状態になっています。最も良いのは言葉だけで彼女を留め、納得させる事でした」
「その通りです」
スィルローゼ様が私の顔を真っ直ぐに、真剣な眼差しで見つめてくる。
私もそれを正面から受け止め、顔も目も逸らさない。
そう、スィルローゼ様に教えられるまでもなく、私の行動は最良の行動ではなかった。
スィルローゼ様は肯定しただけで、私の行動を褒めてはいないのだ。
「次はスィルローゼ様のご期待に添えるように精進いたします」
「よろしくお願いしますね。エオナ。最悪を避けるために正しい行動を選ぶべきですが、それは最良の手段を模索することを止め、安易な妥協をしていい理由にはなりません。根から断てるのであれば、封じることに拘る必要などないのですから」
「はい。承知いたしました」
だから私はもっと精進しなければならない。
スィルローゼ様が望まれる未来を作り出すためにも。
故にゆっくりと、そして深々と私は頭を下げた。
「本題に入りましょう。私の神器の一つであるスオウノバラについてですね」
「お願いします」
私は改めて居住まいを正して、話を聞く姿勢を取る。
「まず、スオウノバラのオリジナルですが、ゲームの時と変わらずポエナ山地に置かれています。『悪神の宣戦』以降、認識阻害の結界にも空間歪曲にも異常は生じていません。なので、モンスター含めて、誰もスオウノバラには近寄ってはいないと断言できます」
「はい」
スオウノバラのオリジナルは問題ないらしい。
「恐らくですが、今後誰かが取得を目指さない限りはヤルダバオト側としても放置しておくつもりなのでしょう」
「なるほど」
理由は……まあ、スオウノバラの能力のせいだろう。
封印を破る能力はともかく、他の能力がおいそれと手を出すには危険すぎる能力である。
ならば、私のように打倒ヤルダバオトを考える者の手に渡るくらいならば多大な犠牲を払ってでも確保する、などと言う状況にならない限りは、放置しておく方が何かと都合がいいのだろう。
「スオウノバラの能力は……ゲームの設定上、私とヤルダバオト、双方の意志が複雑に絡み合い、変質した結果の力と言えます」
「スィルローゼ様とヤルダバオトの意思、ですか」
「そうです。スオウノバラのマスターキーとしての能力は万が一に備えての物。それを封印されたヤルダバオトが自らの為に求め、汚染を試みるのも自然な話でしょう。問題は此処からです」
スオウノバラの能力は封印の破壊、刃に触れたものへの呪い、所有者の操作、それに全ての命あるものを目標とした行動の強制、と言うところだろうか。
この内、封印の破壊については、マスターキーとして当然の機能であるし、ヤルダバオトが狙う理由でもある。
「切り裂いたものを蝕む呪いは、本来はスオウノバラ自身の機能を保持し続ける為に必要なエネルギーを確保するためものであり、奪い取る量は決まっていて、相手が死んでも奪い続けるような物ではありませんし、保持ではなく強化に回せるようなものではありません」
「……」
つまり、スオウノバラの呪い能力自体はスィルローゼ様由来。
しかし、吸収量に際限が無くなったのと、吸収した力で強化が出来るのはヤルダバオトの仕業、と。
「所有者の操作については純粋にヤルダバオトが付けたものですね。私の側に所有者を操る理由はありませんから」
「当然ですね」
所有者の操作については、ヤルダバオトが自分にとって都合のいいようにスオウノバラを動かすための物なので、当然向こう側の物、と。
「命あるものへの攻撃行動。これはスオウノバラの強化を狙ってヤルダバオト側が規定したものですが……一部は私が狙ったものでもあります」
「攻撃する相手が居なくなれば自殺する。と言う部分ですね」
「そうです。最良ではないけれど、最悪を防ぐための機能です」
攻撃の対象を考える部分についてはスィルローゼ様も関わっている。
これについてはスオウノバラが野放図に暴れるのを防ぐためだろう。
「しかし、これらは全てゲーム時代にゲームを成立させるための仕組みとして考えられたものであり、現実化などと言う事態は想定していません。当然、劣化版とは言え、マスターキーのスペアを作り出そうというする事も考えられていません」
「……」
そう、スィルローゼ様が深刻な表情で仰ったとおり、これらの設定は全て『Full Faith ONLine』での話であり、『フィーデイ』での話では無い。
「スィルローゼ様。E12は……」
「エオナの察した通り、あれらはスオウノバラの模造品です。しかし、私の力は一切使われておらず、純粋にヤルダバオトの力だけで作られています。目的は……自己強化の繰り返しによって、ヤルダバオトにかかっている封印を解けるだけの力を得る事でしょう」
そして、現実になった事で様々な頸木が外れたからこそ、模造品を作り出すという発想をしたのだろう。
自発的なのか、それとも洗脳の類をされたのかは分からないが。
「エオナ。今回は貴方の主として命じます。スオウノバラの模造品とその作成者の無力化をなんとしてでもやり遂げてください。アレは『フィーデイ』に存在していい技術と物品ではありません」
「受け賜わりました。このエオナが必ずスィルローゼ様の願いを叶えて見せます」
いずれにせよ、スィルローゼ様が命じた以上、何かしらの手段で無力化することは決定事項。
後は如何にして、それを成し遂げるかである。
「それで……えーと、そうだ。明日の朝には万が一に備えた切り札を送ります。急な仕様変更になりますが、これくらいならば大丈夫です」
「切り札……ですか?」
「そうです。今回に限っては最良の盾役になるはずです。それと、呪いの解き方についてですが、貴方の中にあるものを適切に用いれば、相応のリスクはあっても可能なはずです。呪いや能力と言う形態をとっていても、魔法は魔法なのですから」
「……。分かりました。ご助言、感謝いたします」
そして、E12討伐に当たって私が何を懸念していたのかをスィルローゼ様は知っていたのだろう。
そちらへの対抗策と助言も授けてくださった。
これはもう……負けられないし、負ける気もしない。
「では、よろしくお願いします。エオナ」
「はい、スィルローゼ様」
そうして、私の意識は『フィーデイ』に戻されていった。




