161:状況が変わる-2
「さて……」
私は犯人の臭いを追うスリサズとアユシについていく形で、フルムスの裏路地を歩いていく。
そうして歩く中で、少々気になった事があったので、私はスリサズとアユシにかけている制限の一部を解除する。
「臭いの主について、スリサズとアユシはどう考えてる?」
「どうとだけ言われても……」
「それだと答えようがないぞ」
解除したのは言葉を話す能力。
普段は複数の理由からそれらしい鳴き声ぐらいしか上げられないようにしてあるのだが、今は周囲に人影もなく、出来るだけ多くの情報を得たいという面もあって解除した。
「んー、じゃあまずは、どういう臭いを感じてる?」
「一番強いのは脂と血の臭い。次に剣そのものの金属の臭い。脂と血は、相手の近くに寄れば、エオナでもたぶん分かると思う」
「剣を持っているであろう人間の臭いはそんなに強くない。恐らくは綺麗好きなんだろうな」
「ふうん……」
近くに寄れば私でも分かるかもしれないレベルで脂と血の匂いが強い、か。
その二種類の臭いの強さは裏返せば、それだけ多くの人間……いや、生物を切っていると言う事。
やはり、油断ならない相手であるらしい。
「一応聞くけど、脂と血の臭いって、色んな人間のが混ざっている感じかしら?」
「いや、人間だけじゃないな。一番濃いのは人間だが、それ以外もかなり混ざってる」
「それと、そこの木箱の陰に新たな被害者と言うか、被害犬も居るな。たぶん、出会ったら見境なしだ」
「……みたいね」
スリサズの言うとおり、木箱の陰には干からびた犬の死体が転がっていた。
出会い頭に首を一撃で切られて、絶命した感じだ。
私の後を追ってきている人間は……たぶん居る、ならば、この死体は任せた方がいいだろう。
私は軽く黙祷を捧げると、追跡を再開する。
「……。エオナ、俺がさっき言った人間の臭いについて訂正。こりゃあ、たぶんだが、生命力を吸われた結果として、臭いが抑えられていってる」
「少しずつ人間の臭いが少なくなってる。元々走ってはいないだろうが、汗を一切かいていないような臭いになっていくのはおかしい」
「そう」
まさかとは思うが、持ち手の体を操るのに持ち手の体力ばかりを利用しているとか、持ち手にも例の呪いの効果が及んでいるとかだろうか。
何にせよ……今操られているウルツァイトさんの知り合いについては覚悟をしておいた方がいいのかもしれない。
「臭いは工房の中に続いているな」
「工房の外に出ていった感じもない」
「そう、つまりまだ中に居ると言う事ね」
そうして追いかけ続けること暫く。
私たちが辿り着いたのはウルツァイトさんの鍛冶工房だった。
つまり……あのまま、この場に居たら遭遇していたことになる。
「建物の中ならそのままのサイズの方が都合はいいわよね」
「本来の俺のサイズだと、頭か肩のどちらかがつっかえるからな」
「同じく」
それは……うん、あまり良くはない。
不意を打たれた場合の危険性は言わずもがなだが、シヨンとメイグイと言う守る必要のある二人が一緒に居る状態で、この相手を制するのに十分な立ち回りを出来るかと言われたら、少々怪しいところがある。
恐らくだが、今回の相手とやり合う上で必要なのはこちらから仕掛ける事。
相手から仕掛けられるのを待っているのは……リスクが桁違いに大きくなる。
「では入りましょうか」
「バウッ」
「グマッ」
私はスリサズとアユシにかけている制限を戻した上で、アイテム欄から剣を取り出す。
そして鍛冶工房の中に入っていき、一部屋ずつ警戒を密にしながら改めていく。
「バウバウ」
「そう、ここには多少長目に滞在したのね」
やがて、スリサズが炊事場で大きな声を上げる。
そこでよく調べてみると、水や砥石と言った刃物を研ぐために用いる様な道具を使った跡が見つかった。
どうやら、刃に触れた生命を吸い取るような力を持っていても、刃こぼれや切れ味の鈍りと言ったものからは逃れられないらしい。
「……。スオウノバラの線は無くなったわね」
「ガウ?」
「スオウノバラは神器よ?たかが数千、数万の命を切り捨てた程度で手入れが必要になるなんてことは無いわ。あってもコイツは私の剣と同じデッドコピー止まりよ」
「バウウゥ」
同時にそんな手入れが必要になる時点で、スオウノバラそのものが出て来ている可能性はなくなった。
スオウノバラは神器、神々の力を秘めた器なのだ。
刃こぼれなんてまず起こさないし、たとえ起こしたとしても簡単に再生する。
その程度の力もなく、神器など名乗れはしないのだ。
「ま、厄介な事には変わりないけどね」
尤も、最悪を免れただけで、厄介な事には変わりないのだが。
「で、敵は此処から何処に行ったの?」
「「……」」
そして、最悪な事は重なるものだ。
「バウ」
「ガウ」
「……」
スリサズもアユシも揃って同じ方向を指差す。
そこには、フルムスの地下に広がっている下水道に通じる入口があった。
当然下水道と言う事は……そう言う事だが、四の五の言ってはいられないだろう。
「入り口を開けて、メモ書きを残した上で突入するわよ」
「バウ……」
「ガウ……」
そうして私たちは異臭が漂ってくるフルムスの地下下水道へと突入した。




