16:カミキリ城の戦い-1
「「「グモオオオォォォ!?」」」
「「「ギチュアアァァ!?」」」
「「「ボンムギャァ!?」」」
「「「敵じゅがああぁぁぁ!?」」」
「へえっ……」
レベル差と各種魔法による強化も合わさって、私の茨の津波による攻撃は微かにでも触れた者の命を奪い去っていく。
一応、単純にダメージを与えるものだけでなく、毒の状態異常を与えるものも混ぜたのだが……この分だと毒を付与する必要は無かったかもしれない。
そしてそれ以上に気になるのは……
「敵襲……ねぇ。これもヤルダバオトの加護って奴かしら」
「ぎゃあっ!?」
「よく……もぎゃあ!?」
「援軍を呼べえぇぇ!!」
カミキリ城に存在するモンスターの一部、カミキリ兵たちの思考能力が明らかに向上している点と、彼らの持つ武器が魔法によってただ土を固めただけの物ではなく、穂先の部分が金属に変化している点。
現状では強化魔法を付与した剣を一度振るうだけで一体は確実に蒸発させられているし、剣を鞭に変えれば複数体来てもまとめて消し飛ばすことが出来ているが……これは少々怖い変化かもしれない。
「魔法隊撃てええぇぇ!!」
「「「『ヤルダバオト・メタル・ワン・ボルト・アインス』!!」」」
「『スィルローゼ・ウド・フロト・ソンウォル・アハト』。想像以上の物が早速ね」
そんな事を考えていたら早速である。
隊長と思しきカミキリ兵の号令に合わせて放たれた金属性の矢の雨が、私が生み出した茨の壁に突き刺さっていく。
隊長格のカミキリ兵は『Full Faith ONLine』の時から居た。
彼らが居ると、他の一般カミキリ兵の能力が身体面でも思考面でも強化される厄介な存在だ。
だが、その隊長格が指揮していたヤルダバオトの魔法を使ったカミキリ兵たち。
あれは『Full Faith ONLine』では居なかった。
カミキリ兵たちの遠距離攻撃手段と言えば、普通の矢と投げ槍、それに酸性のブレスくらいだったのだが……等級がアインスとは言え、想像以上に厄介な代物が出てきたものである。
「第二射、う……っつ!?」
「『スィルローゼ・プラト・ラウド・スィル=ベノム=ソンカペト・アハト』」
「「「なっ!?」」」
早急に対処する必要がある。
そう判断した私は触れた者に毒と封印の状態異常を与える茨を周囲一帯に敷き詰める。
そして封印の状態異常によって、カミキリ魔法兵とでも言うべきモンスターたちの魔法を封じる。
私が認識していたカミキリ魔法兵だけでなく、私の認識できていない場所に居るかもしれないカミキリ魔法兵まで含めて全員をだ。
「『スィルローゼ・プラト・エクイプ・ベノム=ソンウェプ・ノイン』」
「「「!?」」」
それから改めて剣を鞭に変えて一閃。
全員まとめて切り払いつつ、カミキリ城の中へと突入していく。
「さて、中の様子は……」
「敵が内部に侵入したぞおおぉぉ!!」
「マラシアカ様に知らせるのだ!薔薇の化け物が来たと!!」
カミキリ城の中は瘴気の為だろうか、私が知るものよりも薄暗く、見通しも悪い。
そして、城の中にまで浸食が進んでいたはずの枯れ茨が殆ど無くなっていた。
「数で押せ!所詮はひと……」
「『スィルローゼ・ウド・フロトエリア・ソンウェイブ・ズィーベン』。てか、誰が薔薇の化け物よ。誰が」
「「「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁ!?」」」
そんな城の中に大量のカミキリ兵がひしめき合っていたので、とりあえず茨の津波で一掃する。
それにしても薔薇の化け物とは……モンスターの立場からすれば私は敵だが、それでも言い方と言うものがあるだろうに。
「おっ、種。これで一つ目ね」
と、此処でようやく私は混沌とした色の植物の種子を見つけて拾い上げる。
名称は……『悪と叛乱の神の種子』。
悪神の種と同様であれば、ドロップするのはレベル50以上のモンスターのみ。
基本的な使い道としては砕く、焼く、腐らせるなどの方法で破壊することで、メイン信仰の信仰値を極僅かながらに上昇させる事であるが、一部の特殊なアイテムの製作には、このアイテムを使う必要がある。
そして、現実と化した今では……種子から感じる力の気配からして、有用だからとストックしておくには危険なアイテムだろう。
「となると二個目以降は即破壊で行きましょうか」
私は出会ったカミキリ兵たちを斬り殺しつつ、城の中を駆け抜けていく。
当然『悪と叛乱の神の種子』を見つければ、その度に魔法で強化した靴の踵で踏み砕いていく。
「畜生!化け物め!俺たちが何を……ぎゃあっ!?」
「やかましい」
「ゆ、許して……ごがっ!?」
「許すも何もアンタたちはモンスターで私は人間でしょうが」
「よくも仲間たちをおおおぉぉぉ……お?」
「なら、出会えば殺し合うのみよ」
それにしてもカミキリ兵たちは随分と人間味溢れる存在になったものである。
人語を操り、仲間たちを思い、私への敵意を燃やし、自らの命を顧みずに襲い掛かってくる。
フルムスやクレセートで好き勝手しているらしい元プレイヤーの一部よりも、よほど理性的で好感を持てるかもしれない。
「勿体ないわ。貴方たちの信仰が悪と叛乱の神ヤルダバオトでなければ、語り合いの一つくらいは出来そうなのに」
「それは無理と言うものだろう」
「そうかしら?」
「そうだとも」
そうやってカミキリ城の中を駆け抜けること暫く。
正門から入って直ぐのホール部分で私はそいつと対峙することになった。
「ヤルダバオト様が居なければ我々はただのカミキリムシ。人と語り合うどころか戦うための力すらも持たない。そのヤルダバオト様が枷を抜き放ち、人を殺せと命じたのだから、語らうことなど出来るはずもない」
そいつは他のカミキリ兵の数倍の体躯を持ち、全身を覆う黒い甲殻は金属の光沢を有している。
触覚も太く、たくましく、自分の周囲で起きていることを正確に知る事が出来るだろう。
四本の腕に持つ槍も、全体が金属で覆われていて、見るからに強力である。
ゲーム時代には甲殻がなく、柔らかそうだった腹部には鋼鉄製と思しき胸当てが着けられている。
「そもそも、我らの元がカミキリムシの時点で茨の神であるスィルローゼにとって我らは敵であり、貴様にとっては潰すべき害虫でしかない。そして、これらの問題以前にだ……」
だが、その身から漂う土属性の力には覚えがある。
間違いない、私の目の前に居るのはカミキリ城の主、魔蟲王マラシアカ。
奴はボス部屋に居なければならないというルールを打ち破って、私の前に立っている。
そして、そんなマラシアカは……
「エオナアアァァ!たった一冊のスキルブックの為に我が貴様に何十回殺されたと思っている!!」
「……」
「刺殺され!斬殺され!絞殺され!毒殺され!封殺され!最後の足掻きは無効化され!」
「あー……」
「終いには何分で倒せるかとか!普段使わないような魔法の組み合わせの試し打ち相手にされたりだとか!低等級の攻撃縛りでなぶり殺しにされるだとか!!継続ダメージだけなら何分で死ぬかだとか!!物欲センサーに引っ掛かった鬱憤を晴らすように一方的に殺され続けた我の気持ちの何が分かる!!」
「なんと言うか……」
「分かるわけないだろうな!!このスィルローゼ神官の名前を騙ったド外道人間があああぁぁぁ!!謝れ!我に!ヤルダバオト様に!我の部下たちに!ついでに他の善良なスィルローゼ神官にもだ!!貴様は色々とひどすぎるんじゃボケエエェェェ!!」
「色々と台無しね」
どうやら私の事をしっかりと記憶しているようだった。




