114:フルムス攻略作戦第三-4
「エオナアアァァ!っつあああぁぁぁぁ!?」
私がファシナティオの前に立った瞬間。
ファシナティオは自分が茨の結界の中に居るのも忘れて私に掴みかかろうとした。
そして、当然のように茨の棘が手に突き刺さって、痛みで仰け反り、転がり、更に傷を深くしていく。
「……。さて、スィルローゼ様、ルナリド様、サクルメンテ様、それにミラビリス様。ミナモツキを持った際にアチラからのメッセージが送られてきました。この上なく不本意ではありますが、情報の共有の為にもメッセージを話したいと思います」
うん、ファシナティオの事はとりあえず放っておこう。
それよりも今はミナモツキを手にした際に得た情報の共有をするべきだろう。
このメッセージはファシナティオに向けたものではあるが、スィルローゼ様たちなら、この情報から得られるものは幾らでもあるはずだ。
「わ、妾のミナモツキをかえ……ぎっ!?」
「とりあえず黙りなさい。『スィルローゼ・プラト・ワン・バイン・ツェーン』」
後、ファシナティオに一々叫ばれて話の腰が折れるのも嫌なので、究極封印魔法は解除した上で、別の魔法によって拘束。
手足を縛り上げ、口も動かせなくしておく。
「では、『ファシナティオよ。我は汝が欲を肯定する。我は悪を司る神であり、悪とは己が欲を第一とするが故に行われるが為に。汝がフルムスで行った悪行の数々、見事であった』」
「ーーー!?」
さて、メッセージの発信元は言うまでもない。
悪と叛乱の神ヤルダバオトだ。
「『汝が行いも肯定する。社会秩序への叛乱。自らより上のプレイヤー集団への叛乱。世界の理への叛乱。これらだけでなく、我への信仰を自身はおざなりにしつつ他の神官の信仰を奪う事で力を高めようとする発想、我自身への叛乱も企てて実行に移したことは、叛乱を司る神としては喜ばしい限りである』」
「ーーー!!」
私は砲火が降り注ぐ中、ヤルダバオトのメッセージを伝える。
正直、このメッセージを自我などを汚染されずに私自身の意思で伝えられてしまう辺り、やはり私はヤルダバオトの代行者でもあるのだろう。
尤も、向こうからの加護など一切ないし、私から捧げているものもないので、名誉称号ならぬ不名誉称号のような形のようだが。
「『しかしだファシナティオ。肯定し、認めると言う事と、許す、と言うのは全く別の話である』」
「?」
いいから早く自分の事を助けろと言いたげだったファシナティオの顔が、私の言葉を聞いて訳が分からないと言った感じになる。
いや、実際に理解できていないのだろう。
そもそもファシナティオは自分の行いが、一般的に悪である事を理解できているかも怪しいのだから。
「『他の失敗ならば幾ら重ねようとも構わない。どれほどの苦難であろうとも、幾度でも挑んでこそ、我に仕えるに相応しい神官であるのだから。だがしかし、我は、我に反旗を翻した挙句に失敗したものまで無罪放免としてやるほどに寛容ではない。故にだ』」
だからきっと騒ぎ立てるだろう。
「『ミナモツキを失い、エオナの結界に捕らえられた時点で敗北したと判断し、貴様の持つ力の全てを回収させてもらった。如何にして人が失敗するのかと言う情報提供に感謝する。ファシナティオ』」
勝手に自分の力を奪うなと。
自分を切り捨てるなと。
人を失敗扱いするなと。
ヤルダバオトと敵対しているはずの私ですら苦笑せざるを得ない論理と呼べないような論理を振りかざして。
私たちの周囲で起こっている爆音すら霞むような勢いでもって。
「ーーーーーーーーーー!!」
「ああうん、やっぱり口を塞いでおいて正解だったわね。口を塞いでいても五月蠅くて仕方がないわ」
まあ、だからこそ先んじて口を塞いでおいたのだけど。
そして、それは正解だったらしい。
身動き一つ取れないはずのに、それでもなお、顔を赤くして、何かを叫ぼうとしているのだから。
それとだ。
「ルナ!こっちに攻撃飛んできてるわよ!全部すり抜けるから実害はないけど!」
「すまん!どうにも一部が流れ弾を装って、ファシナティオの馬鹿に復讐を試みてるらしい!コラッ!やめろ!気持ちは分かるが、アレの管轄は……」
さっきから時折、私と言うかファシナティオに向けて、ルナたちの方から攻撃が飛んできている。
どうやら、魅了魔法が解けた一部のモンスターとプレイヤーがこれまでの諸々を発散するべく、こちらに攻撃を飛ばしているらしい。
実に元気な事であるが……ファシナティオがどれだけやらかしていたかが、よく分かる光景でもある。
とりあえずワンオバトーの能力がなければ、攻撃が飛んできた回数と同じ回数ファシナティオは死んでいたかもしれない。
「はぁ……」
これは今後の事も考えると、少しばかり問答と脅しをやっておいた方がいいかもしれない。
「ーーーーー!!」
私はそう判断すると、ファシナティオの頭を踏みつけた上で、口を封じていていた茨だけ解除してやる。
その上で、周囲に居る全てのものに聞こえるように大きな声で話し始める。
「ファシナティオ。折角だから一つ問答と行きましょうか。きちんと答えられるなら、今後の扱いを少し考慮してあげる」
「ふざけ……がっ!?」
「参加する、参加しないの選択権はアンタには無い。足りない頭でもきちんと使って会話をしなさい」
「エオナ……お前何を……」
すると、私たちがやっている事が気になり始めたのだろう。
生来のモンスターたちは暴れ続けているが、元がプレイヤーの連中はその手を止める。
「貴方は世界を滅ぼす災厄の封印を司る巫女であり、その日々は苦痛と苦難に満ちています」
「は?馬鹿じゃないの?そんなクソみたいな役目、妾は受けな……ぎいっ!?」
「はい、クソリプは骨をへし折った上での治癒よー」
周囲にファシナティオの腕の骨が折れる音が響き、その直後に青い光と共に折れたファシナティオの腕は元通りになる。
「さて、そんな巫女の下にある日の事、勇者を名乗る若者とその仲間たちが現れます」
「勇者と言うからにはイイおと……がぎっ!?」
「二回目よー」
再び骨が折れる音が響く。
まったく、何故本題に入る前に二度もペナルティが入るのだろうか。
「はい、自称勇者は言いました。なんでも彼らは巫女が危険な何かを封印しているようだから、その何かを討伐しにやってきたと言うのです。彼らの身なりは立派であり、やる気も満ち溢れたもののようです」
「この、妾を誰だと……あぎぃ!?」
「三度目よ……」
四重奏で音が響く。
いつの間にやら周囲はとても静かであるが……私としてはちょっと頭が痛くなってきた。
「本題に入りましょう。さて、巫女である貴方は勇者に対してどのように接しますか?さあ、頭をフル回転させて答えなさいな。さもなくば……」
だがそれでも、私は本題を告げた。
「封印よ」
「!?」
スィルローゼ様の代行者としての気配を前面に押し出しつつ、満面の笑みでファシナティオだけでなく周囲に居る人々全員に聞こえるように。




