109:フルムス攻略作戦第二-8
「カカカッ!」
「っつ!?」
黄金色に輝くメンシオスの右手が私に向かってくる。
私はそれを槍で受け止め、弾く。
そして、反撃で手の位置から予想されるメンシオスの胴体があるであろう場所に向けて槍を振るい……空を切る。
「無駄よ!この状態の吾輩に隙などない!!」
「くっ、この……」
「ほぼ一方的に攻撃とかふざけんな!?」
「全員防御と回避に専念しろ!マトモにやり合おうと思うな!!」
よく見れば、メンシオスの左手は私から離れた場所に居るビッケンたちに襲い掛かっていた。
その動きは軽快でありながら、左手だけとは思えないほどに威力を持った拳だった。
「どうなって……っつ!?」
「余所見をしている暇があるかぁ!?」
だが、ゆっくりと観察をしている余裕はなかった。
メンシオスの右手が私に襲い掛かってくる。
それを私は槍を操って逸らし、茨の狼の前足で右手を叩き潰す。
「多少痛いがどうと言うことは無いなぁ!」
「でしょうね!」
しかし、大したダメージにはなっていないのだろう。
直ぐに右手は浮き上がり、私に再び襲い掛かってくる。
「くっ……」
このままではまずい。
そう判断した私はメンシオスの攻撃を凌ぎつつ、この攻撃の性質を分析して、どうすれば出来るかを考える。
『Full Faith ONLine』であっても、現実となった今でも、強力な攻撃には相応のリスクとコストが伴う物である事は変わらず、今のメンシオスがやっている攻撃は正にその強力な攻撃であるのだから、何かしらの特殊な点があると判断したからだ。
「カーッカッカッカ!こういうことも出来るぞ!!」
「っつ!?影の刃!?」
「やべぇ!?腐食ガスだ!!」
「さっきの立方体も来てるぞ!!」
だが、そうやって私が分析をしている間にも、メンシオスの攻撃は激しさを増す。
黄金色に輝く両腕が暴れ回るだけでなく、陰属性の刃が床から湧き出し、何処からともなく腐食性のガスがあふれ出す。
更には黒い霧を纏った立方体が自身のルールに基づいて暴れ出している。
それ以外にもメンシオスの攻撃方法として覚えがある、骨の刃の雨、完全武装のスケルトンの召喚、辺りを跳ね回って他の物にぶつかる度に爆炎を放つ球体、氷のトラバサミに毒塗りの有刺鉄線と言った罠魔法、正に何でもありと言った状態だった。
そして、それだけの攻撃の為にファシナティオの屋敷は破壊が進み、既に二階より上の部分は僅かな柱や壁を残すだけで、半ば崩壊していると言ってもいい状態になっている。
「何を犠牲にしてる……」
この時点でコストの増大に目を瞑って使っている線は消える。
如何にメンシオスがレイドボスと言えども、現時点で使われている全ての能力で使われる魔力の量を考えたら、幾らなんでも有り得ない。
姿を消しているという線も消す。
両腕の動きがあまりにも自由すぎで、先程から右手は私に釘付けだが、左手は戦場を縦横無尽に駆けまわっていて、明らかにメンシオスの胴体から切り離された動きをしている。
効果時間の短さや、手に与えられるダメージの量が増すと言った欠点も見えない。
本当に手だけが実体化していて、暴れ回っていた。
「そこだあっ!」
「くっ……」
そうして目の前の攻撃にしか対処できないでいる内に、私たちの側の被害は着実に増していく。
「カカカカカッ!」
「ちくしょ……う……」
「ニャガ……!?」
「ビッケン!ノワルニャン!?」
ビッケンが腕ごと武器の大剣をへし折られ、ファシナティオの屋敷を構築していた瓦礫に突っ込み、土煙に紛れてその姿が見えなくなる。
ノワルニャンが跳ねたタイミングで立方体が直撃し、ファシナティオの屋敷の外にまで吹き飛ばされていく。
他のプレイヤーたちもメンシオスの攻撃に圧倒され、死者こそ出ていないものの、一人また一人と戦線からの離脱を余儀なくされていく。
手傷らしい手傷を負っていないと言えるのは、攻撃を着実に凌ぎ続けているルナと、傷を受けても直ぐに再生してしまえる私の二人ぐらいなものだった。
「くっ、推奨レベル90以上のレイドボスになっているとは思っていたが、まさかここまでとは……」
「まったくね。流石に此処まで実力差があるとは思ってなかったわ」
だが、戦線に立てる者の数が少なくなるのに比例して、私とルナもメンシオスの猛攻を凌ぎ切れなくなっていく。
少しずつ手傷を負わされ、茨の狼にルナを引き摺り上げて、逃げ回る事を主体にするしかなくなっていく。
「カッカッカッ!吾輩の見込み違いだったか!それならば、吾輩は更なる強者を求めて……」
このままでは負ける。
そして、この場に居る全員にトドメが刺される。
私もルナもそう思わざるを得なかった。
「じゃあ。こんなのはどうかしらね。『ミラビリス・ミアズマ・スペス=ワプ・イロジョン=デストロ=ユズレスライズ=ディスペル・フュンフ』」
「では、これならばどうでしょうか。『ミラビリス・ミアズマ・スペス=ワプ・イロジョン=デストロ=ユズレスライズ=ディスペル・フュンフ』」
戦場に二筋の白色の光が射し込む。
それは何もない空中の一点に向かって射し込み……
「何っ!?」
黄金色に輝きつつも、黒い霧によって朽ちかけつつあるメンシオスの体を露わした。
それと同時に、その場に存在する全ての攻撃をメンシオスの手元に集めさせ、暴発。
メンシオスの体が爆炎に包み込まれる。
「エオナ!」
「エオナさん!」
メンシオスの魔法を打ち破ったのは二人のシュピーによる空間の歪みを解除するための魔法。
そして、今が最大の好機である事は誰の目にも明らかだった。
「はあああぁぁぁっ!」
「ぬぐっ……」
故に私は槍を構え、茨の狼の力で一瞬で最高速に達し、メンシオスの胸の中心……生者であるならば心臓がある位置を穿つ。
「『スィルローゼ・ウド・エリア・アルテ=スィル=エタナ=アブソ=バリア・ツェーン』」
「おごっ……」
ゼロ距離での究極封印魔法も発動。
メンシオスがこれ以上の行動を出来ないように一時の封印を行う。
「茨と封印の神スィルローゼ様。貴方様が代行者であるエオナが求め……」
さらに完全なる封印を行おうとして気付く。
「カカカカカ……気まぐれで助けたものが切っ掛けで敗れ去る、か。知ってはいたが、いざ自分で経験すると、よく出来た結末だと吾輩としては自画自賛したくなるな……」
既にメンシオスの体……いや、精神と魂は黒い霧によってとりかえしがつかない程に崩壊が進んでいる。
このまま封印を進めても、封印が完了するよりも早くメンシオスの魂と精神は消えると分かってしまった。
「メンシオス。貴方……」
「そのまま封印しておけ。これが必要になる事を吾輩は知っている」
「……」
だがそれでも封印は進めるべきだった。
「くっ……悪と叛乱の神ヤルダバオトが眷属、『皆識りの魔骸王メンシオス』。彼のものを金剛の茨を以って蒼き薔薇の園へと導く力を。無間に極彩色の薔薇が包み込む牢獄へと繋ぎ止める力を。彼のものを糧にすると共に、永久の安寧と封印を齎す力を我に与え下さいませ」
「では、さらばだ。吾輩の爪痕が残る世界を貴様らが守ることを期待している」
実質的な勝ち逃げをされると分かっていても、封印するほかなかった。
「『スィルローゼ・ロズ・コセプト・スィル=スィル=スィル・アウサ=スタンダド』」
そして周囲一帯が虹色の光で満たされ、メンシオスの姿はその場から消え去り、私の中に封印される。
しかしそこに魂と精神はなく、あるのは信仰を磨り潰す黒い霧で満たされた黄金色の遺骸だけだった。
07/04誤字訂正
07/05誤字訂正




