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信仰値カンストの神官、我が道を行く  作者: 栗木下
2章:フルムス

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101:フルムス攻略作戦第一-6

「なっ……ばっ……」

 スオベア・ドンの腕を貫き、胸に私の槍が深々と突き刺さる。

 当然だ。

 『スィルローゼ・ウド・ワン・ソンランス・ツェーン』による加速は、重力と空気抵抗による妨害を受けてなお私の体を大空へと跳び上がらせる力を持っているのだから。

 その力を使って真横に跳び出せば、文字通りの目にも止まらない攻撃となり、普通の守りではあってないも同然である。


「さあ」

 そして私が跳び抜けた軌跡と、スオベア・ドンの体には『スィルローゼ・プラト・エクイプ・イパロズ=チェイス・フュンフ』の効果によって生じた薔薇の蕾が大量が残されていた。

 それらは生じたものから順に、けれど傍目には一斉に咲き始め……


「弾けなさい」

「があああぁぁぁぁっ!?」

「「「!?」」」

「スオベア・ドオオォォン!!」

 スオベア・ドンの全身を水飛沫に変えて吹き飛ばし、周囲にたっていたヤルダバオト神官たちにも細かい礫によって傷を負わせ、何人も居るコヤシフク男爵たちも怯ませる。


「すぅ……」

「いかん!」

 これでファシナティオの屋敷の門を守るモンスターは一時的にだが居なくなった。

 故に私は茨の馬ごとバク転させて少しだけ距離を取ると、ファシナティオの屋敷の門を破るべく槍を構える。


「『スィルローゼ・ウド・ワン・ソンランス・ツェーン』」

 そして再び茨の槍をカタパルトにして突撃。


「させるかぁ!」

「そうはいかんぞ!」

「やっぱり居たわね」

 だが、その槍がファシナティオの屋敷の門を貫くことは無かった。

 門の前に何処からともなく防御を万全に整えたスオベア・ドンが二体現れ、私の槍を受け止める。


「ぐっ……ごっ……」

「なんと……いう……」

 そして二体がかりで受け止めた為だろう。

 先程と違い、まだ僅かにだがHPが残っているようだった。


「『スィルローゼ・ウド・フロトエリア・ソンウェイブ・ズィーベン』」

「「!?」」

 なので追撃。

 私の足元から茨の波を出して、スオベア・ドンごと屋敷の門を吹き飛ばす。

 そして三度目の突撃を仕掛けようとするが……


「「「『ヤルダバオト・メタル・フロト・ウォル・アインス』」」」

「ちっ」

 その前に屋敷の中に居るヤルダバオト神官によって何重にも金属で出来たの壁が作り出されていく。


「とにかく撃ちこめええぇぇ!!」

「「「『ヤルダバオト・ミアズマ・ワン・ボルト・アインス』!!」」」

「退くしかないわね」

 更に私に向けて金属性を主体とした攻撃……それも毒塗りの短剣に、瘴気の弾丸と言うダメージよりも行動阻害が厄介な攻撃が数え切れないほどに飛んでくる。

 そのため、私は再度後方に向かって跳躍。

 屋敷との距離が離れることを代償として、攻撃を避ける。


「「「『ヤルダバオト・ミアズマ・ワン・イロジョン=デストロ=ユズレスライズ=ディスペル・アインス』」」」

「よしこれで……」

「そっちは……」

 そうして距離を取ったところで私に向けてバフ解除の魔法も放たれるが……


「別に効かないわね」

「んなっ!?」

「「「!?」」」

 が、私が周囲の茨の領域と同化しており、しかもその茨の領域が茨の塔による強化と保護を受けているためだろう。

 バフの効果が揺らいだ感じすらしない。

 これは嬉しい誤算と言えるだろう。

 なので、難なく反撃として鞭化した槍を振るって、近くに居るヤルダバオト神官から順に始末していく事も出来る。


「はぁはぁ……すまん。今、復帰する。よく凌いでくれた。コヤシフク」

「凌げたから謝らなくてもいい。フル防御のお前があんなあっさり三人も落とされるなんて思えるはずが無いからな。スオベア・ドン」

 だが、そうして処理を進める間にスオベア・ドンが戦線に復帰する。

 その全身は金属光沢を有しており、明らかに先程よりも防御力が高まっている。


「ワンオバトーがあのタイミングで封印できたのは本当に幸運だったわね」

 私は周囲の状況に思わずそう呟く。

 敵はコヤシフク男爵とスオベア・ドンがそれぞれ複数に、無数のヤルダバオト神官たち。

 そしてそれらが一部はハイドマンタで姿を隠しつつ、ファシナティオの屋敷の外と内にひしめき合っている。

 茨の領域と茨の塔は全て健在。

 街での茨の塔を巡る戦いは、ほぼ趨勢が決まっていて、もう私のバフと茨の領域が外部要因で解除されることは無いだろう。

 うん、状況的にはだいぶマシな方だ。


「アイツの能力があったら、こっちの攻撃を阻害されるなんて物じゃすまないし」

 なにせ、グレジハト村でワンオバトーを封印していなかったら、この戦いの場にワンオバトーも加わっていたわけで……そうなったら流石に逃げる以外の選択肢はなかったかもしれない。

 狙いすました一撃は全てワンオバトーによって防がれていただろうから。


「『サクルメンテ・カオス・ミ=バフ・エクステ・フュンフ』」

 私は自分にかけているバフを延長。

 その上で私の周囲に居るスオベア・ドンとコヤシフク男爵の様子を窺う。

 彼らはいずれも私の様子を慎重に窺っていて、どうやら攻撃できる機を探っているらしい。

 私としてもそれは同様で、適度に鞭を振るって攻撃を仕掛けているが、全体的にはにらみ合いに近い状態になっている。


「……」

 さて、こうなってくると焦れた誰かが行動を起こすことによって場が動くことになるわけだが……


「何時まで睨み合っているつもりなのよ!この役立たず共が!とっとと目障りな上に鼻がひん曲がるような臭いを漂わせているそこの馬鹿女を殺しなさいよ!!」

「「「!?」」」

 うん、場が動いた。

 私にとっては不本意ながらも最良に近い形で、スオベア・ドンたちにとっては最悪に近い形で。


「ファシナティオ様!?」

「ちょっ、このタイミングでそれは……」

 ファシナティオの叫びを受けた者たちの行動は、その叫びに含まれている力を受けてどうなったのかを示すためにとても分かり易い物だった。

 まずコヤシフク男爵たちとスオベア・ドンたちはレジストに成功。

 しかし、あり得ない命令を出したファシナティオに反応してしまっていた。


「「「『ヤルダバオト・ミアズマ・ワン・ボルト・アインス』」」」

「「「『ヤルダバオト・メタル・ワン・ボルト・アインス』」」」

「「「『ヤルダバオト・スチル・ワン・ボルト・アインス』」」」

 ファシナティオの屋敷の中に居たヤルダバオト神官たちは、ファシナティオに魅了され、命令通りに攻撃魔法を発動。

 金属性の魔法の矢を私に向けて無数に放つ。


「「「どうす……」」」

「「「支援を……」」」

「「「何が……」」」

 ファシナティオの屋敷の外に居たヤルダバオト神官たちは、一瞬魅了されるも、直ぐに私の茨から漂う香りで正気に戻る。

 しかし、正気に戻るまでに相応の時間を必要としたため……明らかに混乱と動揺を生じていた。


「『スィルローゼ・ウド・ワン・ソンランス・ツェーン』」

「何っ……!?」

 そしてこの隙を突いて私は突撃。

 私がさっきまで居た場所に無数の攻撃が着弾する中、スオベア・ドンの本体の腹に槍を突きさす。


「貴方だけ血が赤いのよ。『スィルローゼ・プラト・ワン・バイン・ツェーン』」

「しまっ……」

 続けて魔法によって拘束。

 無数の茨によって身動きを取れないようにする。


「茨と封印の神スィルローゼ様。貴方様が代行者であるエオナが求めます。悪と叛乱の神ヤルダバオトが眷属、スオベア・ドン。彼のものを金剛の茨を以って蒼き薔薇の園へと導く力を。無間に極彩色の薔薇が包み込む牢獄へと繋ぎ止める力を。彼のものを糧にすると共に、永久の安寧と封印を齎す力を我に与え下さいませ」

 そして、私の突撃で生じた無数の薔薇が咲いて、衝撃波が周囲に放たれ、他の者たちが怯む中で私は詠唱。

 茨で拘束されたスオベア・ドンの体を更に茨が覆っていく。


「『スィルローゼ・ロズ・コセプト・スィル=スィル=スィル・アウサ=スタンダド』」

「くそっ……無念だ……」

 詠唱完了。

 スオベア・ドンの体が虹色の光に包まれ、消失。

 同時にミナモツキの力による複製体たちも消え去る。


「な、何が……」

「くっ……スオベア・ドン……ワンオバトー……」

 そして、光が止んだ後には相変わらず下品な格好をしているファシナティオが呆然とした表情で立っていると共に、悔しそうにしつつも油断なく短剣を構えるコヤシフク男爵の姿があった。

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