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信仰値カンストの神官、我が道を行く  作者: 栗木下
2章:フルムス

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100:フルムス攻略作戦第一-5

「せいっ!」

「ぬんっ!」

 私の突き出した槍を、スオベア・ドンは腕を金属化させることで受け止める。

 勿論、私のレベルと信仰値、スオベア・ドンの能力を考えれば、属性相性を加味してもなお私の攻撃を完全に防ぐ事は出来ない。


「ふううぅぅぐううぅぅ……」

「腕が折れただけ。なら……」

 現にスオベア・ドンの腕は、きちんとした受け方をしたにも関わらず折れて、妙な方向に曲がり、腕を伝って胴に到達した衝撃波によって呼吸もおかしくなっている。

 だから、此処でもう少し攻撃を叩き込めればスオベア・ドンは倒せる。


「させんよ!」

「とっ……」

 しかし、その前にコヤシフク男爵の毒塗りの短剣が私に向けて投擲され、私はそれに対処するべくスオベア・ドンへの攻撃が一手遅れる。


「「「『ヤルダバオト・ヒト・ワン・ヒル・ドライ』」」」

「「「『ヤルダバオト・ヒト・ワン・バフ=ガド・ドライ』」」」

「「「『ヤルダバオト・ヒト・ワン・リジェ・ドライ』」」」

「ぬううううぅぅぅ……」

「ちっ」

 そして、その一手の間に周囲に居るヤルダバオト神官たちがスオベア・ドンへ回復魔法と補助魔法を使用。

 折れた腕を治癒させると共に、次の攻撃に備えてくる。


「ふふふ、一合。しっかりと防がせてもらったぞ……」

「素晴らしいぞ。スオベア・ドン!策を練った甲斐があると言うものだ!」

「……」

 これは単純にマズいかもしれない。

 スオベア・ドンは陰属性と金属性を使う熊型のモンスターで、優に3メートルを超す体長通りに同レベルのボスに比べれば高めな基礎ステータスを有している。

 属性相性込みとは言え、圧倒的に格上である私の攻撃に耐えられることからもそれは分かるだろう。

 その後ろに控えるコヤシフク男爵はこの屋敷の本来の所有者であり、手にした短剣には単純にダメージを与える毒が仕込まれている物もあれば、素早さの低下や防御力の低下と言ったデバフ効果を持つ物もあって、迂闊に攻撃を受けるわけにはいかない。

 で、この二人だけならばまだどうとでもなるのだが……。


「さあ、この調子で……ぬぐおっ!?」

「ぎゃあっ!?」

「ごふっ!?」

「あびゃあ!?」

「コヤシフク!?ぬぐおっ!?」

 鞭と化した私の槍が振るわれ、スオベア・ドン以外を一撃で吹き飛ばしていき、大量の水飛沫が生じる。

 そして再びスオベア・ドンに私の槍が突き刺さり、大ダメージを与える。

 此処からもう少し、きちんとした攻撃を加えられれば倒せるのだが……。


「スオベア・ドン!お前は前だけを見ていろ!」

「私たちの予備はきちんと控えているからな!」

「くっ、やっぱり追撃を仕掛ける余裕がない……」

 それよりも早くにミナモツキの力で複製されたコヤシフク男爵が他の元プレイヤーあるいはNPCと思しきヤルダバオト神官たちと共に登場。

 先程と同じように私への攻撃とスオベア・ドンの治療を行ってくる。

 それどころかだ。


「当然、俺の複製だって居る……ぞぐあっ!?」

「それは知っているわよ」

 私の背後に何処からともなく、スオベア・ドンの複製体が現れ、私への奇襲を仕掛けてくる。

 が、補助がかかっていないスオベア・ドンならばどうと言うことは無いので、透明化の原因であるハイドマンタと言うモンスターごと薙ぎ払って始末する。

 だが、そうやって私の周囲に現れたモンスターたちを始末している間に……。


「これで元通りだ。エオナ」

「ふっふっふ、ワンオバトーの封印は無駄にはさせませんぞ」

 門を守るスオベア・ドンは補助を十分に固め、複数人のコヤシフク男爵はそれぞれに短剣を構え、ヤルダバオト神官たちは建物や木の陰に身を隠しつつ何時でも魔法を使えるように準備している。

 そして、ハイドマンタを身に着けた目では見えない奇襲部隊が、茨を掻き分けながら、私の背後へと回ろうとして来ている。


「……」

 うん、やっぱり本格的にマズい。

 相手が奇策によって守りを固めているならば、撃ち破る方法は幾らでもあるだろう。

 だが、スオベア・ドンたちは私が放っている木属性の魔力を利用して、自分たちの火属性の魔法を強化して回復と支援をやると言う、正道のど真ん中を行く方法で守りを固めている。

 しかも、欠けた人員はミナモツキの複製によって逐次補充することで、支援の手を途切れさせないようにしてきている。

 これを打ち破るとなれば、単純にスペックで上回るか、バフ打消しの魔法を使うか、あるいは何かしらの奇策で対処すると言うところだろうか。

 永久封印はしたくても、それだけの時間を作る暇がない。

 こちらが倒されることは無いが……それは命を失うと言う形での敗北が無いだけの話だ。


「俺たちから無暗に攻めることはしない。守り続ければ、俺たちの勝ちは決まっているからな」

「その通り。こうしている今も、少しずつファシナティオ様の計画は進んでいるのですからな」

「よく分かっているじゃない……」

 そう、こうしてお互いの様子を窺い、小競り合いのように武器を振るって戦っている間にも、私の建てた茨の塔を倒そうとした者あるいは守ろうとした者が倒れ、ファシナティオの屋敷の地下に転送されている。

 それに伴う形で、ファシナティオの屋敷の地下から漂う力の量も濃さも増している。

 だから、このまま此処で足止めされ続けていれば、最終的には敗北するのは私である。


「さて、どうしたものかしらね……」

 しかし、茨に火は点けられない。

 今の状況で火を点けては、味方も巻き込んでしまう。

 状態異常は通じない。

 私の状態異常の付与スピードでは相手の回復に追い付けない。

 単純なスペックの底上げは急に出来る物ではないし、バフ打消しの持ち合わせは無い。

 となると、残りは攻撃魔法と通常攻撃を噛み合わせて仕掛ける方法だが……それだけでどうにか出来るとは思えない。

 補助を固めたスオベア・ドンは私の前に立ち塞がっている一体だけで終わるはずもなく、既に二体三体と裏で準備されているはずだ。


「「「……」」」

 後は……たぶん、スオベア・ドンたちが内心で祈っているであろう事柄の反対が起きる事への期待だが、それはしてはいけない期待だろう。

 そうなったら、私は思わずスオベア・ドンたちではなく、そちらに攻撃を仕掛けかねない。


「ま、試せるだけ試してみましょうか。『スィルローゼ・プラト・エクイプ・イパロズ=チェイス・フュンフ』」

「何を……」

 いずれにせよ、時間は無いのだ。

 ならば、やれるだけの事をやりつつ、正解を求めていくしかない。

 そう判断した私は自分の槍と茨の馬の蹄に仕込まれた短剣に魔法をかける。


「『スィルローゼ・ウド・ワン・ソンランス・ツェーン』」

「っつ!?」

 そして、可能な限り真後ろから真横に向けて茨の槍を出現させ、槍の出現する勢いそのままにスオベア・ドンに突っ込んだ。

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