沢村礼子の絶望と小さな光
私は東桜台高校一年の沢村 礼子、少し見た目がクールな感じで、髪型も金髪でボーイッシュな感じだから周りからは少し距離をとられがちだ。
制服も崩して着てるし、口調も少しキツめで、目も一重で冷たい印象を持たれるのだろう。
そのため軽々しく声をかけてくれるような物好きはいなかった、この子以外は、同じクラスで、赤いポニーテルが印象的な明るい笑顔の白間 美希。
入学してクラスに入ると直ぐに私の所に来て美希は。
「わ〜凄い綺麗な目、あなた美人ね」
「あん」
「私、白間 美希、美希って呼んで!」
「……」
「あなたの名前教えて?」
「なんでいきなり初対面の人間に名前教えなきゃいけないの?」
「そっか……分かった」
始めの印象は馴れ馴れしい女って感じだった、私が少し突き放したら、落ち込んだのか廊下に出て行ってしまった。
「なんだあいつ、あ〜言うタイプはどうも好かないね」
ハッキリ言って嫌いなタイプだった。
入学式バックれれば良かったなんて考えながら教室の机で顔を伏せながら、同じようにしてる男子を見かけた。
「なんだアイツ、入学早々机で寝て、寂しい奴、誰にも声かけられねーでやんの」
私はそんな事考えながらぼっ〜としてると、大きな声が私にかけられた。
「あれ〜?また会ったね、覚えてる、美希、白間 美希だよ」
「……あん?」
突然また美希が現れ、私の目の前の空いてた席に座った。
「ねぇ、初対面じゃないから、名前教えてよ?」
「はぁ〜嫌だね」
「まぁ、後で自己紹介やるだろうから名前はいいや、仲良くしよ!」
「お前、グイグイ来るな」
「美希、美希って呼んで」
「呼ぶか馬鹿」
「どうする放課後、今日は早く終わるでしょ、どこか遊びに行く?」
「あのな、お前。人の話聞いてる?」
「そうだ、咲も連れて三人で遊びに行こうよ!」
「咲って誰だよ?って言うか、私は行かねーからな」
「もうすぐチャイムなるから席戻るね、咲からは私から誘っておくから、放課後待っててね」
「いや、おい、お前、人の話をだな」
「美希!美希だよ」
嵐のように現れ言いたい事をベラベラと話すと、美希はさっさと自分の席へと戻った、私は唖然としながら、私の意志は関係なしに一方的に話が進んでいた。
その後、姫野 咲と出会い、最初は三人でぎこちない関係では有ったが、美希がそれをまとめてくれていた。
そう美希が私の過去の暗い、最悪な人生を、楽しい高校生活にしてくれた。
私はもともとこの町の生まれではない、少し離れた町に生まれ、裕福ではない家庭に生まれた。
母は美人で優しく、パートをしながら私を育ててくれた、父はギャンブルに溺れ、負けた日は母や私に暴力を振って来るような最悪な父だった。
小学生の時はそんな父のご機嫌に怯え、母も私に暴力が及ぶまいと庇ってくれてはいたが物凄く荒れてる時は私にも暴力の矛先は向かって来た。
中学に上がると私は学校が終わっても家には帰らず、夜の街を父が寝静まる頃まで帰らず徘徊することが増えた。
そんなある日私はあるグループのメンバーに声をかけられ、そのグループが集会してる場所に度々(たびたび)遊びに行くようになった、同年代や、高校生などが集まって、毎晩のようにダラダラと過ごしてる集団で、このグループが何をしてるグループとかには興味なく、ただ私は逃げられる場所が欲しかった。
ここはみんなが明るく音楽に合わせて踊ったり、お金をかけてカードゲームをしてたり、酒を飲んでワイワイおしゃべりして、みんな好き勝手していた。
私はそんなメンバーを遠くから、集会所にあったソファーに体育座りしてしながら眺めているだけだった。
そんなある日、私の所に一人の男が声をかけてきた。
「よう嬢ちゃん、いつもそんな所で座ってるだけで楽しいかい?もっと楽しもーぜ、名前なんて言うんだ?」
その男こそ久須竜也、このグループのリーダー格だ。
「わ、私?……れ、礼子って言います。ここにいるだけで十分なんで」
「礼子、可愛い名前だな、そんな怯える事はねーだろ、別にとって喰おうなんて思ってねーからクックックッ、なんか悩みでもあるなら話してみろよ、聞いてあげるぜ」
私は男の人が知らないうちに苦手になっていた、男性を見ると父の暴力を思い出し震えてしまうのだ。
「礼子、仲間だろ、話して見なよ、お兄さんが解決してやるよ」
私はその時、悩みを話せばなんか少しは気持ちが楽になるという気持ちで怯えながらも、家の事情や、父の暴力などを久須に話した。
その頃はそんな久須がカッコいいとか、悩みを聞いてくれる良いお兄さんって感じに私は思ってしまっていた。
久須に悩みを相談した数日後のある日、父は数人の男に道端でボコボコに袋叩きに合い、大怪我を負った。
父は譫言のように。
「許してくれ頼む、言うことは聞くから」
怯えながら何度も何度も言うようになった。
私はまさかと思いながらも、その日以来、あのグループや、久須 竜也が怖くなり、集会所に顔を出さなくなっていた。
その後、父の怪我も回復し、入院から家に帰ってくるなり、すぐさま父の方から離婚話が申し出され。母も元々そのつもりでいたらしく、すんなり離婚は成立した。私は母に引き取られ、結果的に父と離れる事で色々な悩みが晴れ、今までが嘘の様な、穏やかで平穏な、そんな周りと同じ様な生活が待ってると思った。
しばらくして、あまり顔を出す事が無くなった集会場に最後の別れと思い行った、これが私の間違いだったのだろう。
集会所に行くと久須がすぐに私に気づき、近づいて来た。
「久しぶりだな礼子、最近あまり顔を出さなくなったじゃねーの、どうだ悩みは解決したか?クックック。礼子、俺の女になれよ、可愛がってやるからよ」
久須が私の肩に手を置き、ソファーに押し倒そうとしたが、私はとっさに久須の胸の辺りを押し、跳ね除けた勢いでソファーから転げ落ち、久須は地面に叩きつけられてしまった。
「いてて……」
「ご、ごめんなさ……!?」
倒れた久須に謝ろうと近ずいた私の顔に何か飛んで来るのが見えた。
それは何の躊躇もない、フルスイングの拳だった。
「いてーなコラァ!、舐めてんのかコラァ!!」
もろに顔面を捉えた拳を受け吹っ飛び、私もソファーから転げ落ち、倒れた私にすかさず、今度はサッカーボールを蹴るかの様に、私の腹を蹴り上げた。
「あっ……あ、た、助けて」
私は必死に立ち上がり、痛みを堪えながら、外に逃げ、無我夢中で走り出した、仲間の人が暴れ叫んでる久須をなんとか押さえ込んでいる。
「あんた女の子に何してんのよ!」
「久須がキレたぞ、みんな止めろ!」
私はそんな声を聞きながら、遠く遠く逃げなきゃと、鼻や口から血を出しながらそれを手で押さえ、脇腹の痛みを耐えて、泣きながら必死にその場を離れた、家になんとか逃げ込むと、ティッシュで血をなんとか止血しながら布団にくるまって震えていた。
「父の暴力から逃げられたかと思えばこれだ……しょせん男なんて、男なんて……」
私は涙を流しながら、色々な事に絶望していた。
私はそれ以来その集会所に行かず、この街より遠い高校に入学するため勉強を頑張った。
こんな嫌な思い出ばかりの街に居たくないと母に祈願して、母も同じ気持ちだったのだろう、高校合格と同時に今の街に引っ越した。
運命とは残酷なものだ、もう出会う事もないだろうと思っていた男、会わないためにわざわざ遠くの街に引っ越したのに、こんな街のショッピングモールのこの場所に偶然出会ってしまうのだ、最悪の男と……
「おい!礼子、オメー今日はいくら持ってんだよ?さっさとどっかで茶でもして、ホテル行こうぜ、クックックッ」
竜也は人を舐め回すように聞いてきた。
「……」
私はそんな質問を無視すると、私の足のつま先に痛みが走った。
「痛い!」
竜也が私の靴の上に思いっ切り体重をかけ踏んできていた。
「あんだその態度、言葉で言って分かんねーなら先に体で押さえなきゃダメか?こっちが下手に出てデートっぽく雰囲気出してやってんのによ、生意気な態度ばかりとりやがって、あ〜ん」
私の足を踏みながら、舌をベロベロさせて、私の髪の匂いを嗅ぎながら唾を吐きながら威嚇してくる。
「無いわよ、アンタになんかに奢る金なんて一銭もないのよ!」
竜也から顔を晒せ目を合わさないよう、震えながらも私は叫んだ。
その瞬間、私の首を手で鷲掴みにされ、壁に押し付けられ、『ドン!』という音と共に、私は一瞬息が止まった。
「金がねーなら別に茶は要らねーわ、じゃーよ、さっさとここでやるか野外プレイでもよ、お前まだ処女なんだろ?俺が初めての男になってやるよ、クックックッ、嬉しいだろ?」
私を片手で押さえつけたまま、竜也はもう片方の手で自分のスウェットのズボンをずり下げた。
私はシダバタ押さえつけられてる手をどかそうとしたがビクともしない。
竜也は空いてる手で、私のシャツの襟に指を掛け、ボタンで留められている物を勢いよく剥がしてきた、ボタンは弾け飛び地面に散乱した、私はシャツが肌け純白のブラが露わになり、とっさに両手で露わになった箇所を両手で抱える様に隠した。
「可愛いね、そんな也して純白のブラとは、礼子は純粋だね、ますます礼子の純潔を奪いたくなったぜクックックッ」
私はブルブル震えて、通りすがる人の顔をチラチラと見たが、通りすがる人みんなが目が合うとそっぽを向く。
(所詮は他人なんてみんなこんなものなのだ、まぁこれも全て自分の自業自得……他人に頼り生きた罰なのかもしれない……)
そんな風に、もうこの世の中に幻滅し、自分に嫌悪感をおぼえ、全てを諦めかけた時だった。
「痛てっ!?」
竜也から悲鳴が上がった。
誰かが竜也の手を力強く掴み、私を優しく掴んで竜也から引き離した。
「大丈夫?」
男性はとても優しい微かな声で問いかけながら、私を庇うように形で竜也の方に向いていた。
その男性には見覚えがある。
「黒戸……?」
黒戸は無言で自分の着ていたブレザーを気恥ずかしそうに私に渡した。
私は今何が起きてるか分からずただただ立ち尽くしているだけだったが、何故だか目から涙がこぼれ落ちてきた。
もう誰も助けてくれない、見て見ぬフリをする人ばかりで絶望していた私には彼の背中は大きく感じ、その声は私にひと時の安堵をくれた。
「ごめん、こんな僕の上着じゃ汚くて嫌だよね……」
黒戸はブレザーを手に持ったまま困ったように哀しそうに笑った。
「あっ!?ご、ごめんなさい、ち、違うの……色々と動揺して何が何だか分からず……あ、ありがと……!?」
私が黒戸からブレザーを受け取ろうとした時に黒戸の横顔めがけて何かが襲いかかり、黒戸は顔を歪めて吹っ飛んだのだ。
竜也が黒戸の左頭部目掛けてフルスイングで殴りつけてきていたのだ。
「あっぐぁぁ!!」
黒戸は左頭部を抑えて蹲っていた。
「おい!なんだお前は?気安く人の彼女に話しかけてんじゃねーぞコラァ!」
竜也は怒声を張りつつ、唾を黒戸に吐きながら、蹲る黒戸の顔や腹、腕、脚を何度も何度蹴り込んでいた。
「や、やめて!お願いだからもうやめて……こ、これ以上やったら彼が死んじゃう……」
私は竜也を後ろから押さえ込むように掴み、竜也を止めようとしたが。
「彼? おいおい何言ってんだ礼子、クックックッ、彼氏は俺だろうがケッケッケッ。そう言う時は『やめて!屑が死んじゃう』って言うだよクックックッ」
竜也は声色は笑っているが目がいっていた。黒戸に対する蹴りは止めず、低いトーンで私に話しかけた。
「ところで礼子、この手はなんだ?お前はさっきからどっちの味方なんだ、あーん」
そう言い終わると黒戸に対する蹴りはやめ。私の手を払いのけ、左手で私の首を締め付けるように鷲掴みにして壁際に叩きつけた。
「い、痛い……く、苦し……い」
首を絞められている事で私は微かな声しかでず。
「礼子、お前も痛い目を見ないと分かんね〜みたいだな、少し美人だからって甘く見てやりゃーよ」
竜也は冷めきった目で私を睨みつけ、右手を大きく振りかぶって私の顔面に向けて振り下ろした。
私は目をつぶり体を震わせながら、拳が飛んでくるのを待つ他なかった。
しかし私に拳は飛んでこない。恐る恐る目を開けると、竜也の拳は私の目鼻の先で止まっている。
「えっ!?」
目の前では、殴りかけていた竜也の右手首を黒戸が掴み止めていたのだ。
黒戸は額から血が大量に流れ出て、呼吸も荒い状態で、私の首を絞めている竜也の左手を払いのけて、私に優しく問いかけてきた。
「……だ、大丈……」
黒戸が言いかける前に竜也の膝蹴りが黒戸の腹にめり込み、黒戸は私の前でまた蹲った。
「んだ〜テメーは!、マジでイライラする野郎だ」
竜也はまた蹲った黒戸に対し何発も何発も蹴りやパンチを繰り出した。
「や、やめ……」
私はまた止めに入ろうと近ずき、久須に言いかけた時、黒戸が私や竜也に聞こえる声で。
「沢村さん……大丈夫だから、こんな奴の、効かないから……後は僕に任せて帰って……帰っていいよ」
私は震えながら声もでず。
(帰れるわけないじゃない、黒戸には関係ない事なのに)
それを聞いた、聞こえた竜也は当然キレ。
「なんだとコラァ、俺の事なめてんのかあん!」
竜也は黒戸を仰向けに叩きつけ、馬乗りになる形で黒戸の顔面を何発も殴りつける。
流石に周辺の通行人も集まりだし黒戸と竜也を中心に、円を描くように人だかりが出来始めた。
しかし誰も二人を止めようとするものが出てこないで、スマホで写真を撮るもの、動画を撮るもの、SNSの「ヒトリゴト」アプリで書き込むものなど、最低な連中ばかりだ。
当然、何も出来ない私も最低な奴だ。
黒戸はぐったりしたまま動かず、ただサンドバッグの様に殴られ、白いシャツはみるみる赤く染まっていく。
竜也は手に付いた黒戸の血を舐め。
「不味!屑の味だなこりゃ、クックックッ」
と笑いながら黒戸に血の混じった唾を吐きながら立ち上がった。
「く、黒戸!」
私は倒れてる黒戸に近づこうとしたが、竜也はすぐに私を睨みつけて。
私は一歩も動く事が出来ない。
竜也は私に睨みを効かせながらジリジリと近づいてくる。
私はガクガクと震えて目を瞑るほかなかった。
「さぁ、邪魔は消えた事だしさっさとホテルにでも行って、やる事やろうじゃねーかよお前の金で、クックックッ」
竜也が私に近づいてくる気配が感じる。
私は立っているのが精一杯で、もう動けなかった。
(もうダメだ……ごめん……ごめん黒戸、こんな事に巻き込ませて)
そんな思いを抱えて、私は目を瞑って震えていた……しかし、一向に竜也が私に近づいくる事がなく。
「おい?、なんの真似だ!」
竜也が突然怒鳴りだした、明らかに私じゃない方向に。
私は目を開けると、黒戸が竜也の足首を掴み、竜也を止めていた。
「さ、沢村さん……何してんのさ?も、もういいから帰んなよ、明日も学校だよ……」
黒戸は血だらけでボロボロになりながらも、私に優しい笑顔で話しかける。
「か、帰れるわけないじゃない!そんなにボロボロになって、アンタに関係のない事なのに」
「はっはっはっ……こ、困ったな、確かに関係ないけど……そんな震えて泣きながら悲しい顔した女の子を放っておけるほど、僕もクソ気持ち悪いぼっちじゃないんだよ」
黒戸は困った顔して答えた。
「おいおい、俺を無視して正義のヒーローごっこかよクックックッ」
竜也は頭をポリポリ掻きながら、黒戸の顔面目掛けて、掴まれてない足で蹴り込んだ。
「ひつこい男は嫌われるぜ。離さねーって言うなら、指、腕、足の骨でも全部折るか、クックックッ」
そう言いながら、竜也は掴まれてる黒戸の指を一本一本折っていった。
私にも聞こえる『ボキ!、ボキ!』と言う骨が折れる音。その音が鳴るたび黒戸の口から「ぐわあぁぁぁ!!」っと言う叫び声が上がった。
「もう、もうやめて……ホテルでもなんでも行くから、彼は見逃して」
私は耐えられなかった、自分の為に誰かが傷つく事が、私一人耐えれば誰も傷つかなくて済むならそれが一番の解決作なのだから。
「クックックッ、ついに俺の女になるか?いいぜ、全部の骨折ったら見逃してやる」
竜也は私の方を見ずに楽しそうにそう言いながら、黒戸の骨を折っていく。
「クックックッ……ん!? なんのマネだ礼子」
私はとっさに竜也にタックルして、竜也の腰に手を回す形で黒戸から竜也を引き離した。
「黒戸、逃げて!もういいから、ごめんね……ありがとう……こんな形じゃなくてあなたと知り合えてたらよかったのに……」
「おいおい礼子、なんのつもりだコラァ」
竜也は体制の悪い状態で私の腹や顔に拳をぶつけてきた。
(痛い、痛い)
でも耐えなきゃ、黒戸が逃げられない。
しかし竜也の拳は二、三発叩いただけで止まり。私の手をまた優しい手が竜也から私を引き離した。
「言ったろ、放っておかないし、僕も逃げない……僕の方こそごめんね、ちゃんと守って上げられなくて」
ボロボロでフラフラになりながら、折れてるかもしれない指で、また竜也を押さえ込むように黒戸はハニカミながら微かに聞き取れる声で話しかけてきた。
「な、なんで……なんでアンタが……アンタが謝るなよ、もういいから、もう十分守ってもらったから……ぐっぅぅ」
私はその場に座り込み涙が止まらなくなっていた。
その時である、遠くからパトカーのサイレンが鳴り響いて、こっちに近づいている感じられた。
「チッ、察かよ」
竜也は強引に黒戸を引き離すと。
「おい礼子覚えておけ、あとテメーだ屑、今日の所は見逃してやる、だがテメーら二人は必ずまた見つけて、今日の事を、後悔させてやるからな」
竜也は立ち上がると、黒戸の腹を思いっきり蹴り上げその場を立ち去ろうとした。
が……竜也はなぜか蹴り上げた後そのまま動かない。
黒戸は引き離されそうになっても、腕を竜也の足に絡まらせ食らいついていた。
「おいおい、どう言うつもりだコラァ……離せやクソが」
竜也は倒れてる黒戸に対して何度も上から頭や背骨を何度も何度も殴りつける。
パトカーのサイレンはどんどん近づいて来ていた。
「は、離すわけないだろ。逃げないって言ったの聞こえなかったのか?ここでお前を離したら今までの事が水の泡だ」
黒戸は何か楽しげそうにボロボロになった体で、必死に竜也の足にしがみつき、竜也を馬鹿にするように話し出した。
「んだとコラァ、離せや!」
竜也はそれでも、何度も何度殴りつけたが、それでも黒戸は離さない。
「そうかい、そうかい面白れーじゃねーか、コレでもお前は離さないかね、クックックッ」
竜也の目は完璧にイッテいた、殴っていた手をポケットに入れると、手から何かを掴み取り出した。
その掴んだものを器用に指先でシャカシャカ回すと、それは形を変え、鋭利な刃物へと変形した。
竜也は冷めた目で黒戸の背中目掛けてその刃物を突き刺した。
「ぐわぁぁぁ!!」
黒戸を大きな悲鳴をあげ、背中から大量の血が溢れ出し、地面もみるみる鮮血に染まっていく。
それでも離さない黒戸に何度も刃物を突き刺した。
「オラオラ、死ねや!クックックッ」
竜也は完全にイカれていた。
「いやーー!!」その光景を見た私は目を手で覆い隠し、叫ぶしか出来なかった。