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不器用な僕の彼女達の助け方  作者: アツシルック
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山田 太郎と紫の悪魔〜後編〜

山田 太郎は半径100mはあるだろう円形のギリシャのコロッセオのの様な闘技場の真ん中で仰向あおむけになり天井を見上げていた。

何が起こったのかハッキリ言って思考が未だ追いついていない。

周りを見渡せば、何十人もの有名無名の猛者共もさどもが俺と同じように倒れ、中には恐怖すら感じブルブルと震え上がっているものもいる。


確か俺はある大会に参加していたのだ、そう『世界最強トーナメント』に……


〜数時間前〜


開催場所である東京の中心地にそびえ立つ幾多いくつものテナントが軒をつなれる高層ビルの地下に案内され、控え室で試合の始まるのを待っていた。


控え室には見覚えのある有名格闘家から、初顔の無名な男共が控え室で殺意剥き出しで睨み合う。

地上最強と言われたボクサーから、今世紀最悪の連続殺人鬼、生涯成績無敗を誇るレスラーまで、俺が知る中でも俺に並ぶ強さの奴らが数人はいる、さらに俺の知らない不気味な連中もすさまじい殺意のオーラで、試合が始まるのを今か今かと待ちわびていた。

『世界最強トーナメント』に嘘偽うそいつわりはねーな、これだけのメンツを揃えるとは驚きだ。


「山田! お前も参加してるとはな有難い、この前の借りはしっかり返してもらうぜ、前に戦った時の俺とは思わないことだ」

最強ボクサーと言われたトーマスが俺に話しかけてきた。


「あぁ、お手柔らかに頼むぜ! 」

そう言い俺とトーマスは軽く拳を合わせ握手した。



そして試合がもう直ぐ始まろうとする直前の控室ひかえしつ、部屋は各選手の興奮と緊張で静まり返っている中、廊下の方が少し騒がしくザワつきだし、しばらくすると選手控え室の中をカツカツと木材の心地いい音がリズムを刻み近づいて来るのを感じた。


「山田はんおひさしゅう、お前さんも来ていたんやねうっふっふ」

俺に近づいて来た者は、派手な着物を肩まで露出した抜襟ぬきえりで着こなし、ぽっこり下駄げたすそを地面に引き()らない様に闊歩かつぽし、優雅で気品のあるちで話掛けて来た。


「あん!! 試合前だぞ、喧嘩売るなら後に……!?」

俺は試合前の精神集中してる中で、突然話しかけられた事でイライラをにじませて振り返る。


「あん!? とはつれないどすな山田はん、これでも私は今大会の出資者なんやで、言葉遣いには気をつけはりよてうっふっふっふ」


「お、お前は……あ、茜か……?」

この着物の女は鳳凰院ほうおういん あかね、関東の極道組織『暗黒白虎組』組長であり、俺の子供の頃からの知り合いだ。


「しゅっ、出資者!? それなら俺をこの大会に推薦し招待したのはお前か?」


「んっ? うっふっふそんな分けおまへんやろ? 自惚うぬぼれるのも大概にせな恥をきますよて、わてが山田みたいな雑魚ざこを推薦すると思いますか? 今この場でやり合ってもわての方が勝ってしまいますよてうっふっふっ」

茜は手に持った扇子で口元を隠しながら、見下した目で馬鹿にしたように笑う。


「わては別の子を推薦してますよて、あんさんを推薦したのは別の情弱なお方と違いますか? どうせわてが推薦した子が勝ちますよて、せいぜい善戦してくれませよふっふっふっ」

茜はニヤニヤと山田を見下すような眼差しを向け、口を扇子で隠しながら楽しげに話す。


「な、なんだとテメー! お、俺はアレから更なる修練を積み前より更に強くなってるんだ、前の……あの時とは違うんだよ!」

俺は茜の言葉に反応し、声を荒げて叫んだ。


「うっふっふっ、だから小物だと言うんどす、本当に強いなら言葉ではなく結果で示せばよか、声を荒げるのは自信がない証拠どすよふっふっふっ」

茜は山田の怒号にも動じず、常に自分のペースを保っていた。


すると選手控え室の出入り口から小さな子供らしきパーカーのフードを目深く被った子が鳳凰院 茜の所まで歩み寄って来て着物の裾を引っ張りながら話しかけた。


「茜、トイレどこ? ここ男女兼用トイレばかりで汚くて……」

その子供らしき者はボソッと何かを話す、その声はなんだか少し前に聞いたことのあるような声で、その深く被られたパーカーのフードから少し見えた薄紫の髪には見覚えがある気がした。


「うん? そうどすな、ここはほとんど男性しか使わないよて兼用にしとるんよね、ほなわてのVIP用控初の使いなはれや」

茜は優しい眼差しで近づいた子供に優しげに答える。


「ほなわては行くよて、山田もせいぜい大会を盛り上げて、この子の引き立て役になって下さいませなふっふっふっ」

そう言うと茜はフードの子供と手を繋ぎ控え室を後にした。


「なんだあの野郎、まぁいいさ俺がアレからどれだけ強くなったか目の前で見せてやるよ」

俺はそう呟くと拳を突き出し茜の後ろ姿を見つめた。



そしてそんな会話をしているとしばらくして一人の黒服の男が入ってきて。

「大変お待たせしましたファイターの皆様、これより大会の試合会場に案内させて頂きます」

そう言うと俺らはその男の後にゾロゾロと付いて行き、長い廊下を歩いた先には半径100mはあるだろう円形のフィールドが広がっていた。

地面は土で出来ており、所々に血痕が目につく。

円形フィールドの周りには3mはあるだろう壁で覆われ、その壁の上部に、ギリシャのコロッセオの様に客席が円を描く様に設置されていた、客席には多くの仮面をつけた老若男女が試合を今か今かと待ちわびていた。


俺たちが試合会場に現れると、周りから歓声が響き渡り、会場が歓声と拍手、地団駄で揺れ動いた。


「でわルール説明をさせて頂きたいと思います。試合形式はバトルロワイヤル、最後まで生き残った者が優勝の簡単なルールです。

生死も問いませんし、ここで行われた行為は他言無用、一切の法にも裁かれないので存分に殺し合って下さい。

反則、禁止行為は一切なし、ファイターの皆様の好きなスタイルで戦ってください」

黒服の男は説明が終わると会場を去り、俺らが入ってきた入り口も鉄格子で閉ざされた。


暫くして会場スピーカーから「これより世界最強トーナメントを開催します!」

それを聞いた観客の歓声は更に高鳴り、会場のボルテージがは最高潮に上った。

ファイター達は皆息を呑み、始まる前に皆それぞれ距離を取り、試合の合図を待つ。


カン!


スピーカーから大音量で試合の合図が鳴り響いた。


俺目掛けて数人の男共が襲いかかるが俺は軽くあしらう、生死を問わないと言うが人が人を簡単に殺すなどそう簡単に出来るもんじゃない、俺は力を抑えて、相手する奴らを気絶させていった。

しかし中には人を簡単に殺せる奴もいる、そう今俺の目の前にいる男、連続殺人鬼ジャックザリッパーだ。

こいつの戦った後のファイターは皆大量の血の海を作り倒れている。

「あんたの事は知ってるぜ、山田 太郎、今世紀最強の格闘家なんだってな。そんな男を簡単に殺せるチャンスを貰えるとは俺もついてるぜ」

ジャックは手にした血のついたナイフを舐めながら俺にジワジワと近づいてくる。

刃物自体は怖くはない、刃物に頼るって事は、コイツ自体は対した奴ではないのだ、だがこいつは殺人鬼、目に見えてる物がコイツの武器とは限らない。

お互い警戒しながら距離を開け、睨み合いが続く。


睨み合いが続き、数十秒が経った頃、最初に動いたのはジャック、ナイフを投げるモーション、俺は避けるがジャックはナイフ投げない。

「フリか!」

俺は普段なら起こさない様なミスをする、ジャックは俺のミスを見逃さない、催涙スプレー、撒菱まきびし、フラッシュグレネード、腐った生卵など、ありとあらゆる嫌がらせみたいな物を投げてきた。

俺は催涙スプレーで涙が止まらず、腐った生卵のせいで臭い。さいわい目を瞑ってしまっていた為、フラッシュグレネードのダメージはなかったが、ジャックは自分で投げたフラッシュグレネードを目を見開いて見てしまったのだろう、俺は涙であまり目が見えないがジャックの居た方から。

「目が、目が」と叫ぶ声が聞こえた。


後どのくらいのファイターが残っているのか分からなかったが、こんな状態の俺たちを襲ってくる者がいない所を見ると、残りの数が少ないのは分かる。


俺はなかなか目が回復せずにいたので、周りを警戒しつつ、唯一残された聴覚に全神経を集中して身構える。


すると遠くの方から次々人が地面に叩きつけられる音が聞こえる、その音は凄まじく、叩きつけられた物共は確実に骨を折られてるか気絶しててもおかしくないそんな恐ろしい音だった。


そんな恐ろしい音だけがどんどんこちらに向かって来ているのを感じ、その音の方からかろうじて逃げてくる物達は口を揃えて震えた声で叫ぶ。


「紫の悪魔だ!」

「パープルデビルだ!」



そしてその音はついに俺の前で立ち止まった。


「おじさんどうする?目があまり見えてないんでしょ、戦う?」

可愛らしい女の子の声。


俺はボヤけてはいたが、少し回復した目で目の前の女の子を見る。


「お、お前は……」

紫の髪に、悪魔の様な三白眼、その姿に俺はなんだか見覚えがあった、しかし俺はそれを思い出す前に身体が宙を舞、物凄い力で地面に叩きつけられ気絶した。




どれ位の時間が経ったのだろう、目が覚めた時には記憶は飛び、全身の骨を砕かれ、身動き一つ出来ず俺は土のフィールドに横たわっていた。


あんな強烈な投げを受けたのは初めてだ、全身の骨を砕かれただけじゃない、俺の格闘家、ファイターとしての心までも完全に砕く投げだった。


「完敗だ……」

生死を問わないこの戦いにおいて、殺さず倒したと言う事、それだけでもう俺には勝ち目なんてない、きっと奴はまだ余力が残っているって事なのだろう、生きてる事が何よりの救いだ。


唯一のパープルデビルからの生き残りなのだろうか? 遠くで紫の悪魔が誰かと聞き取れないが楽しいそうに何か話をしている。


「こんな殺伐とした空間であれだけ楽しそうにしてるとは……本当に悪魔だな奴は……」

俺はそう思うと今までしてきた事の虚しさを感じつつも、どこかでやり遂げた清々しさにも感じていた。


「これが圧倒的力の差って奴なんだな、昔アイツにも同じ様な感情を抱いていた、どうにかそいつに頑張れば追いつけると……だがいまハッキリと分かったぜ、住む世界が違うってさ、敵わねーな……」

俺は昔失った憧れで、ライバルで……唯一友人と呼べるアイツの事を思い出しながら、なんの感情なのか分からない涙を久々に流しまた意識を失った。



「ごめん、ごめんね紅、せっかく一緒に練習した合気道の、紅の初めての大会だったのに、道に迷って遅れて試合見逃しちゃって」

黒戸 白は客席から息を切らせながら紅に頭を下げて謝った。


「ううん良いよ、お兄ちゃんが来てくれただけで嬉しい、

わざわざ応援するために来てくれてありがとう!」

紅は白の顔を見ると嬉しそうに顔を赤面させて凄く嬉しそうな笑顔で白に答えた。


「で、試合の方はどうだった?怪我はしなかったか?」

「うん、凄く怖かったけどなんとか勝ってるみたい、怪我はしてないよ大丈夫、心配してくれてありがとうねお兄ちゃん」

紅は笑顔で答える。


「あのね、あのねお兄ちゃん……もし、もしこの後時間あるなら、一緒にどこかでご飯食べて帰らない?」

紅はもじもじしながら顔を赤くして白に問いかける。


「えっ? あ、うん、良いよ試合見てあげられなかったし、せっかく外出したんだしね」

「やったー! じゃあ私直ぐ着替えてくるから外で待ってよ」

紅は満面の笑みで飛び跳ねながら喜び、急いで控え室に戻り会場を後にした。



その後、表彰式は優勝者不在のままり行われ、黒戸 紅以外の全選手は重傷、重体で病院に送られた。


後にこの日の大会は後世に語り継ぐされ、「紫の悪魔の襲撃」や「パープルデビルプレイ」と恐れられた。


後日、黒戸 紅の預金口座に優勝賞金一千万ドル(日本円で約10億円)が振り込まれた。




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