黒戸 紅 の世界一の人〜後編〜
お兄ちゃん、黒戸 白が入院していると聞かされた次の日、母が出かけたのを見計らい私は母の後をつけてお兄ちゃんのいる病院にたどり着いた。
母は病院の三階に上がり個室の病室にノックして入った。私はしばらく病院関係者に怪しまれないようにその病室をチラチラと見ては、母が何か用事で部屋を出た隙を見計らい私は部屋に潜り込んだ。
部屋には色々な機材が置かれ、サイドテーブルに母が置いたであろう花が花瓶に生けられていた。
私は白お兄ちゃんが寝ていると思われるベットに近づき、その枕元を覗き込んだ時その姿に絶句した、そこに寝ているのはお兄ちゃんだが私の知っているお兄ちゃんの面影はなく、痩せこけた顔に、虚ろな目、目の下には濃い隈ができ、ミイラと言われてもおかしくない状態だった。
「お……お兄ちゃん?白お兄ちゃんだよね?」
寝ているだろう白お兄ちゃんに小さい声で私はベットから色々な精密器具が取り付けられている白に話しかけたが返事はない。
その時、廊下からこの部屋に向かって歩いてくる足音がしたので、私はとっさにベットの下に潜り隠れた。
入ってきたのは二人でベットの下から覗き込むと、一人は母でもう一人は白衣を着た男性、担当医だろう。二人はとても厳しい表情で会話をしている。
「今のところ回復に向かってますが、どうしたらこんな状態になるのか、下手すると子供虐待と言われてもおかしくないですよお母さん」
担当医は母に厳しい口調で話しかけられ、申し訳なさそうな表情で何度も頭を下げている。
「特に睡眠不足が凄いですね、何日間寝てないレベルじゃないですよ、何ヶ月って言ってもおかしくないです、
なにより体調不良もそうですが、よくこれだけ寝てない状態でありながら精神が崩壊しなかった事が驚きです」
医者は厳しい中に、白の今の状態を驚いて話した。
「私が家の事を全て息子に任せていた事が原因です、特にもう一人子供がいまして妹なのですが、その子が引きこもりで、その子の面倒を全て息子に任せきりで……息子はたぶん自分の睡眠時間をその妹のために削っていたのかもしれません」
母悲しそうな声で語った。
「そうですね息子さんはその妹さんの面倒を見る責任感で、アドレナリンやセロトニン、ドーパミンなどが異常なほど出ていて寝ずに行動できていたんでしょう、医者が家庭の事情にとやかく言うべきじゃありませんが、子供の事はちゃんと親がしっかり責任持って面倒見るべきですよ、特に引きこもりの子供がいるなら親が面倒を放棄してどうなります、その上その面倒ごとを子供に任せるなど、親として失格……!?」
担当医の先生が母に厳しく注意してる時、医者の手を誰かが力強く握り出した。
「せ、先生……あまり母さんを責めないであげて……母さんは何も悪くないんだ、僕が、僕がもっと丈夫な身体ならこんな事にはならなかったし、妹が引きこもってる原因も僕にあるんだから、誰も悪くないんだよ。もし悪い奴がいるなら僕自身なんだから……」
医者の手を握り込む手はとても強く、とても窶れて倒れた病人とは思えない強さだった。
「目が覚めたのかね? しかしだね、君のその頑張りが今のこの状態を招いているのだし……まぁ君本人がそう言うなら余計な事は言うまい、私も医者として君の体力を回復させる事に注力しよう」
医者は最初は納得いかない様子だったが、白のその澄み切った目を見て、どんなに苦しい状態でも何かをやってる事に幸せを感じている彼には余計な事なのだろうと悟った。
「まぁ今後は無理しない様にね、これは脅しじゃないが、命を落としていてもおかしくない状態だった事は肝に命じておくんだよ」
そう言って医者は部屋を出て行った。
「……ごめんね母さん、僕のせいで色々迷惑かけて」
僕は天井を見ながら、母さんに謝った。
「……ごめんね、私の方こそごめんなさい。あなたに任せきりで、こんな状態になるまで気づいてあげられなくて」
母さんは涙を流して僕のお腹の上で顔を伏せて泣いた。
とても嫌な状態だ、僕のせいでみんなが悲しい思いをしてる。
「……紅がね、最近とても楽しそうに交換日記を書くようになったんだよ」
僕は話を変え、紅の最近の話をした。
「勉強も最初の頃に比べて凄いんだよ、勉強を教えてる僕なんかより頭いいんじゃないかな」
「……」
「それに毎朝朝食作って、掃除、洗濯してくれてる事を感謝して、毎回『ありがとう』って書いてあるんだよ」
「もう……」
「最初は『死ね』とか「消えろ』って言ってきていたのにね」
僕は淡々と紅の事を話す、母さんは何か言いたそうだった。
「もう、もういいから!もうあなたは自分の事をまず大事に思いなさい……」
母さんは僕の話を際切る様に少し声を大きくして言った。
「紅の事は母さんがお父さんと一緒に考えるから、白は紅の事は忘れなさい……やっぱり施設に入れるべきだったのよ」
母さんは悲しい顔をした。
「……それはダメだよ、それじゃ誰も幸せになれないし、紅が、紅が可哀想だよ。僕が、頑張るから……同じような事にならないようにするから、紅を見捨てるような事だけはしないであげて、紅は……紅は沢山の人に裏切られ今はとてつもなく孤独で、色々な事に絶望してるんだけなんだよ……なのにまた、また僕達が見捨てたら……紅は一生立ち直れなくなっちゃうよ! 今だって、僕がこうして入院してる間にもまた不安になり、また距離は離れてしまうんだよ……だから、だから先生に頼んで……明日には退院出来るよう頼んでよ」
僕は母さんに力強く母さんの手を握りしめててお願いした。
僕はそう言うとベットから起き上がり、フラフラする足をなんとか堪えて、少し歩く事で母さんに元気である事をアピールした、だがそんなフラフラな歩行を見て母さんは悲しい顔をして。
「退院は無理よ、でも一応自宅療養出来ないかは話してみるわ」
そう言って母さんは医者と話に行くと部屋を出た。
母さんが部屋のドアを閉め、それを見た僕は膝から倒れこみ、荒い息をしながら胸を押さえて倒れ込んだ。床の冷たさを感じながらベッドの方から誰かが近づいてきたのを感じた。
その近づいてきた気配は細い腕で僕の腕を肩で抱え、華奢体型ながら一生懸命に僕をベットまで運んぼうとして四苦八苦してる様だった、それはまるで弱いのに強い想いを感じられるそんな存在だった。
僕はそんな気配の力を借りなんとか朦朧としながらもベットに横になる。
「ごめんなさい、こんなになるまで気づいてあげられなくてごめんなさい、お兄ちゃん……私、私、何も知らなかった、知ろうともしなかった、お兄ちゃんがこんな状態になってるなんて、いつもいつも同じ家で一緒に暮らしていたのに……いつも私は自分の事ばかりで……もう勉強とかいいよ、私お母さんに頼んで施設に入れてもらうように頼むから、お兄ちゃんにもう迷惑かけられ……」
私が話し終わる前に、白お兄ちゃんは優しいく手で私の頭を撫で。
「紅もお見舞い来てくれてたの? ありがとうね……それに外出れるようになったの? 久々だね会うの、勉強はちゃんとしてる? しばらノート渡せなくてごめんよ、家帰ったら朝ご飯や、掃除洗濯もしなくちゃね、明日には家帰るからそしたらまたすぐにノート書いて渡すから、あと、あと……迷惑なんて思った事ないから……だから紅は気にしないで、いつもの様にしてればいいから、そしていつか一緒に学校行けるように頑張ろうな……」
お兄ちゃんは頭を撫でながら、手に力が抜けて静かな寝息をたてて眠りについた。
私はそんな寝てる白の顔を覗き込み、幸せそうな顔を見て。
「いつもありがとう……もうお兄ちゃんには迷惑をかけないから」
私は力強くそう言葉をこぼし、ほっぺにキスをした。
次の日、白お兄ちゃんは医者から自宅療養の許可がおり、家に帰ってきた。
私はすぐにお兄ちゃんの部屋に行き、お兄ちゃんの看病を私にやらせて欲しいとお母さん言い出て、お母さんにも「ごめんなさい」と謝り、お母さんに掃除、洗濯、料理を時間がある時に教えてもらった。
数週間が過ぎ、白お兄ちゃんは体調が回復して前のように元気になり、また学習要綱と交換日記のノートを書こうとしていた。
「もうお兄ちゃんそれは要らない、時間がある時で良いから今度は直接お兄ちゃんが勉強教えて……ダメ?」
私はもじもじしながら顔を赤らめながらお兄ちゃんに頼んでみた。
「えっ!?あっ、うん分かった」
白お兄ちゃんは書きかけたノートを閉じ、少し寂しそうな表情をしながらもノートを見つめ、私の目を見て物凄く嬉しそうに、少し目に涙を浮かべて喜んだ。
「あと……あとね、私も今度学校に行こうと思うの……まだ怖いけど……」
私がそう言うとお兄ちゃんは嬉しそうな笑顔から、暖かく優しい笑顔で私の頭を撫でて、照れ臭そうに一言いった
「おかえり」
私は満面の笑顔で。
「ただいま!」と言いながら白お兄ちゃんに抱きつき。
私の世界一の人の温もりを身体全体で感じながら、お兄ちゃんの胸に顔を埋めて小さな声で・・・・・・
「大好き!お兄ちゃん」




