黒戸 白の誰かの為に……
黒戸 白はとても鈍臭く、何をやっても駄目な奴で、要領が悪く、取り柄という物もなく、簡単に言ってしまえば生きることに不器用な男の子である、それは成長して高校生になっても変わらない。
子供の頃から感情の起伏が少なく、嬉しかったり、楽しかったりする事はあるのだが、自分に対し辛いとか、他人に対し悔しいとかの感情が欠落していた、逆に他人の苦しみを自分の苦しみに感じてしまう事が強く。
自分が犠牲になる事でその人が助かるなら躊躇なく手を差し伸べてしまうそんな不器用な所があった。
子供の頃、家が近所でいつも妹と一緒に遊んでいた幼馴染がいた。白間 美希、とても明るく、とても活発な女の子、僕と妹と美希の三人で遊ぶ時はいつも美希がリーダー的な存在だった。
妹の紅も美希をとても慕っていて、むしろこっちが姉妹じゃないかと間違えてしまうくらい仲が良かった。
だがそんな楽しい幼少期は長くは続かず、小学二年生の頃その出来事は起こった。
ある日、僕が教室のドアを掴み開けようとした時に教室の女子が集まっている美希の机の方から。
「付き纏われてはいたけど……」
聞き慣れた声、美希の口から、よく聞き取れなかったがそう言う言葉が聞こえてきて、他にも「キモい」や「ストーカー」など言う男子や女子の騒ぎ声もしていたがその言葉は特にどうでもよかった。
美希が僕と一緒に居る事が迷惑だったのかと思うと、なんか一緒に遊んでいた事が申し訳ない気持ちになった。
そんな状態でドアを掴んだまま立ち尽くしていると、急にまたお腹が痛くなり、急いでトイレに駆け込んだ。
教室に戻ったのは授業始まるギリギリで、なんとか漏らさずに済んだ事で安堵した。
教室に入ると周りの同級生が「ストーカー」「キモ〜い」など、色々な悪口で僕をからかってきたが、僕に対してこれらの発言をする事が何が面白いのかよく分からず、周りは笑っているので自分の笑いの壷がズレているのかなっと思い、特にコレといった反応を見せずに僕はその日を過ごした。
帰りに美希にいつものように「帰ろ?」って誘ってみたら「えっ……!? う、うん……」明らかに困った顔して、僕と美希がお互い無言になっていると、クラスの中心的な男の子が突然僕を突き飛ばし僕は机や椅子をなぎ倒しながら倒れた。
「おい黒戸! 美希は困ってんだろ、キモイからどっか行けよ!」
クラスの中心的な男の子は笑いながら僕を見下し叫ぶ。
まぁそんな事はどうでもよかった、僕は美希の方を見ると美希は目も合わさず下を向いている、あーやっぱ嫌われてるのかなと思うとなんか悪い事したなと思い、倒した机や椅子を直し一人で帰ることにした。
その日からだろう、僕に対して周りがなんか自分をからかったり、なんかよく分からない行動をやりだしたのは。
例えば、下駄箱を開けて上履きに履き変えようと靴を取ると、大量の画鋲が入っていた。
(おぉ画鋲がこんなに、誰がくれたんだろう?)
取り敢えず靴に入っていた画鋲をたまたま持っていた手提げ袋に入れて持ち帰ったり、またある日は背中に悪口が書かれた紙を貼られ、またある日は机に落書きされていたりした。
正直この行為にどう反応していいか困り、特に面白いわけではないが、周りが笑っていたりするので、いま流行りの笑いなのかと考える。
この様な行為はだいたい美希が見てる時に行われていた事で、美希の見ていない所では、校舎裏に呼び出され、いきなりお腹を殴られたり、足を蹴られたり、痕が残っても衣服で隠れる所を姑息に狙って暴力振ってくる奴もいた。
ものすごく痛いとかなら僕も防衛の為に抵抗したかもしれない。だが対して痛くもなく、蚊に刺された程度以下だったので、まぁ気が済むまでやらせてればいつか飽きるだろうと思った。
ただ気がかりがあるとするなら、いつものように美希は笑顔ではあるが、その笑顔はとても辛そうで哀しかった事だろう。
あと実の妹、黒戸 紅に対しては本当に申し訳ない気持ちで、詳細は詳しくは知らないが、入学してすぐに彼女は小学校を不登校になり、その原因が僕らしいのだ。
僕が学校から帰ると、机に落書きしてあったり、背中に張り紙してあったりと、紅もまた学校の奴らと同じ行為をするので何かの流行りなんだとは思った。
だが僕はやっぱりこの流行りにはついて行けず、紅のその行為に反応できずにいた、僕のこの様な無反応な事がもしかしたら周囲の人達をイライラさせて虐めに発展させる原因になっているのかもしれない。
家で紅と顔を合わせると、「死ね!」「消えろ」と叫び、僕に対してポカポカと叩き、怒りを見せる、僕が原因で紅が苦しんでいるのなら僕がそれを解決して助けてあげたいとは思うが、世界中どこを見たって虐めを解決したなんて話は聞いたことがない。
人は言う、虐めは無くならない、もし仮に虐めを無くしても、又新たな虐めのターゲットが誕生する、そうやって虐めって魔物は生き続けているのだから。
ならば僕に出来る事は……誰も妹を、紅を助けられないと言うならば僕が全力で妹を助け、将来幸せにしてあげるしかないじゃないか。
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ある日、両親が僕を呼び紅について「どこか施設に預けた方がいいかしらね」と僕に尋ねた、両親は親なりに紅を心配しているのだろう、だが僕はその提案に断固反対した。
「僕が紅の面倒は見るから、そんな事は言わないでよ」
僕は両親からそんな提案が出る事が寂しかったし、そんな事を言われてしまう紅も可哀想でならなかった。
この時からだろう、僕は紅の兄である前に両親の代わりのように、彼女を、紅を幸せにしてあげたいと思ったのは。
そんな紅の不登校が何日も続くと、僕も心配になり、このままだと勉強が追いつかなくなると考え、僕は妹の学習要綱をノートに書き、彼女の部屋のドアの下の床に置いておいた。
次の日、家に帰ると僕の部屋のドアの足元に紅から返事が来ていた。
「分かった、勉強する」
とても簡略で素っ気ない返事が返ってきた、でも紅が少なくとも一歩踏み出してくれる事が嬉しかった。
素っ気ない返事とか、さすがツンデレキャラ徹底している。それにいつもやっていた机の落書きや、ドアへの張り紙も少しずつ減っていき、ただ叩いて戯れてくるのも辞めてしまったのは少し寂しかったかな。
《あれ!? ツンデレキャラも辞めたのか……!)
と思うと少し寂しかった。
僕もそんな紅の気持ちに応えたく、寝る間を惜しんで毎日学習要綱のノートを作り、そのノートには勉強以外にも僕のその日の出来事や考えを綴って教えてあげた、そんな毎日はとても忙しく、でもなんだか充実した気分に満たされていた。
ある日、紅から勉強で分からない事があると紙に綴られた質問がドアの下の床に置かれていた。その紙には質問の他に、紅の今の心境や感謝、とてもどうでもいいような話など、自分の事を話す内容が書かれていて。僕は少しずつだが心を開いてくれた事に嬉しくなり。
次の日から学習要綱とは別に、交換日記用のノートを一緒に彼女に渡した。
最初に始めた頃の学習要綱や、交換日記のやり取りの頃はとてもギクシャクした感じだったが、ここ最近は紅の文字からもとても楽しそうな雰囲気を感じ、僕が書いた文字数よりも、彼女から返ってくる文字数の方が多い時が増え、僕もそんな元気になってきた事がとても嬉しかった。
両親も僕がしっかりと紅の面倒を見てる事で認めてくれていて、僕のやる事に口を出すこともなく見守っていてくれた。
そんな毎日を充実した日々を過ごしていたある日の朝、いつもの様に紅の部屋の前にノートを二冊置き、僕はいつも通り学校に向かおうとした時だ、登校中の道の途中で急に気分を悪くして目の前がボヤけて、僕はそのまま意識を失い倒れた。




