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隣人が魔王でした。  作者: なずく
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魔王宅への再訪

率直に言うと圭太は魔王宅に来ていた。

「あらぁ~、いらっしゃい。よく来たわねぇ、あら、しかもお友達が増えてるじゃない!すごいわ勇子」

「お邪魔してます」

「お、お邪魔してます」


二度目の魔王宅だが圭太は物凄く動悸がしていた。それもそのはず、以前来た時はとんでもない目に遭ったのだ、緊張しないわけがない。もしまたあの”化粧前”の見た目で出てこられたらと思うと身震いして死にそうだったがそんなことはなく、出迎えてくれたのは世にも美しい女性だった。それもそれで緊張するし心臓が天に召されそうになるのだが。

 満面の笑顔の魔王聖子様は柔らかな物腰で圭太と山田少年を迎え入れた。昼食の一件のあと、さっそくユーコの記事を作ろうと提案がまとまり、せっかくならユーコ宅で行おうということにとんとん拍子に決まった。突然の来訪にもかかわらず優しく笑顔で迎えてくれる聖子様は天使以外の何物でもなかった、裏の顔が悪魔なことを除けば。



「ほらあがってあがって。ゆっくりくつろいでってね。やっと学校に行ってくれたと思ったら、お友達まで連れてくるんだもの、なんて良い日なのかしら」

「母さんははしゃぎすぎだよ」

まぁまぁと手をふりふりして喜びを表す魔王母はいそいそとお茶の準備にかかりにキッチンへと消えていった。いわれるがままにソファに腰かけたがやはり居心地は悪い。ここが昨日自分が気絶していたソファかと思うと恥ずかしさでいたたまれない気分だった。そんなことも気にせずパシャリパシャリと無遠慮に写真を撮ってはしゃぐ山田少年と圧倒的なくつろぎ感を披露して携帯をいじるユーコさんが羨ましい。

昨日から明らかに僕の人生の平穏という歯車がずれている。魔王の姿に魂を抜かれるかと恐怖し、世紀のアイドルと美少女に出会い、再び家に招かれているのだ。こんなことが今まであっただろうか、いやない。反語を用いたくなるほど信じがたい状況にいる。大体平凡の権化とも言えるべき圭太にとって、魔王のような巨悪の存在も、聖子様のような天国の存在とも無縁のはずだった。それがこうして一つの部屋でなかよく話しているのだから驚いたものだ。

 それにしても、と圭太は思った。山田少年は聖子様をみて、うわぁと感嘆の声を漏らしただけで悲鳴や恐怖の色は見えなかった。つまり彼は心眼持ちではないということだ。まぁ今の聖子様の”化粧”が完璧だから見えないという説もあるが実際のところはわからない。心眼もちが相手の姿を見抜く条件や状況というのはいまいち解明されていないとユーコは言っていた。普通の人間には結界をはらなくても人間と同じ見た目に見える、そして心眼もちにはそれを見破れるというだけで、結界を張った状態では見破れるかどうかは知られていないそうだ。今のところ圭太には美しい聖子様しか見えていないのだから結界の有効性は信じていいと思われる。


「はい、コーヒーよー。どうぞーゆっくりしていってね」

うぐいすのような可愛らしい声が頭から注ぎ、聖子様がお盆を手にやってきたのがわかった。目の前にコーヒーカップをことんと置かれる。


「こ、これは・・・?」


 圭太は思わず固唾をのんだ。目の前のコーヒーカップに面食らってしまった。そこにあったのはおぞましい異形の飲み物、ではなく、黒い普通の湯気のたったコーヒーに小さいアヒルが浮いている光景だったのだ。


「なんでアヒル?」

 砂糖製とかではなくあきらかにビニール製の置物だ。黄色い府抜けた顔でこちらを見つめてくる。

「あの、すいません、なんでアヒル浮いてるんですか?」


思わず聞いてしまった圭太は悪くないと思う。礼を言う前に圭太とおそらく山田少年も思ったであろう疑問を投げかける。

「え?あぁテレビでお湯にアヒルを浮かべる映像があってね。それでアヒルを浮かべるのが正式な作法かと思ったの。もしかして私また馬鹿なことしちゃったかしら?」

「それはもしかしなくてもお風呂に浮かべるやつですね。飲み物に浮かべるアヒルはいません」


あらぁーまたやっちゃったと聖子様が照れ笑いを浮かべる。可愛い。

「母さんは天然が行き過ぎているというか常識がないの」

ユーコはいつものことだ、と慣れた調子でため息を吐いた。やれやれ、と肩をすくめているあたり、聖子様の奇行は慣れっこらしい。黒い液体の上にぷかりと浮かぶ黄色い小さなアヒルがじっと見つめてくるシュールな光景にぽかんと開いた口がふさがらない。ていうかこんなコーヒーカップサイズのアヒルどこで手に入れてきたんだ。


「それで、新聞部では普段どんなのを記事にしてるの?」

全くアヒルのことを気にしない様子のユーコさんはソファにもたれ掛かりながらコーヒーを啜った。

「あ、ああ、基本は生徒の間で話題になっている噂とか人気のニュースをとりあつかってます」

若干面食らいながらも律儀に答える山田少年、君なかなか見ごたえのあるやつだな。

それじゃあ、と口を開いたユーコさんを遮るようにして突然テレビがついた。ざざざと砂嵐がおこったあと、画面に一人の男が現れる。


「なにこれ、母さんテレビつけたの?」

「つけてないわよ?どうしたのかしら急に、ニュース?」


『全国の皆さん。私は魔族です』

画面の端正な男はそう言い放った。へんなドラマかなーと思ったが、何か演出がおかしい。

「あれ、リモコンきかないんだけど。なんでチャンネル変えられないの」


『私は魔族としてかつての魔族の王国を再建することをここに定めました』

「もしかして電波ジャックってやつではないですか?」山田少年がそわそわしながら言う。確かにそうと信じても仕方のない状況にあった。


『皆さんには今までとは違った世界を見せて差し上げましょう』


そういうと男は着ていたマントをばっと脱ぎ去り、再び画面に映った男の顔は、異形の形をしていた。


「ひっ!」

思わず声をあげてしまう凶悪な顔。同時にユーコさんと聖子様に緊張が走ったのがわかった。一人なにごともないように、CMかなぁ~?とまじまじと画面を見続ける山田少年の姿を見ると、見える者にしか見えないらしい。

「嫌な予感がするわ」

いつになく真剣な表情でそう言った聖子様を背に、圭太も嫌な予感をひしひしと感じていた。人生で二度目の異形目撃がこんなすぐに訪れるなんて。身震いした圭太の姿をユーコはじっとみていた。圭太の運命、これいかに。

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