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隣人が魔王でした。  作者: なずく
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魔王の正体

「お前、何?なんでここにいるの」


説明しよう。振り返った先には全身緑色でざらついた肌をした、頭に皿を載せている奇妙な人間のような生命体がいた。大きく鋭い目をこちらにじぃっと向け、訝しげに睨んでいるその顔は怖くはないが、奇妙な感じがした。

「え、河童?え?なに?」

「は?河童だって?・・・そうか」


河童はこちらの慌てぶりに暫く考えてから、はっと合点がいった様子で身構えたようだった。それにしてもこの河童、まさしく河童然とした河童としている。それはもう感心してしまうくらいの出来栄えだ。肌は水を弾きそうないい肌をしてるし、お皿もつるつるでとても綺麗だ。顔は人間に近く、少し吊り上がった目が怖いとも可愛いともなんとも言えない風貌にさせている。いやぁ、すごい河童。マジ河童。と一人で感心していると、不機嫌そうに細められた目が圭太を射抜き、そして後ろから再登場してきたお盆を持った魔王がのしのしと音を立ててやってきた。人間と河童と魔王の三重奏だ。


「お待たせしました~ってあれ?起きてきたのあなた。今学校のクラスメイトさんが来てらっしゃるのよーほら、挨拶なさい」

「それより母さん、あいつさ」

「お客様をあいつ呼ばわりしないの!礼儀はしっかりするって約束でしょ?しっかりなさい」


どうやら魔王は河童の母親らしい。それだけは分かったが、耳から入ってくる若い女性の声、河童のものだ、と中年女性の平和な掛け合いと、目から入ってくる魔王と河童のセットのギャップがどうにもおかしい。このセットだと魔王の恐ろしさも薄れて見れる。見てもちびらない程度には見れる。


「あ、あの、僕同じクラスの榊圭太といいます。はじめまして。勇子さんに書類を渡しに来たんですが、勇子さんはどちらに・・・?」


2人を交互に見やってお伺いを立ててみる。出来ることならこんな変ちくりんな場所からはすぐにお暇したいところだ。早く帰って家で寝てすべて夢だったことにしたい。


「勇子は私だけど」


河童が喋った。うん、河童が喋った。え?思わず圭太は聞き返した。だってそんなはずが、今はないとは言い切れないところが辛い。まさか目的の人物まで、クラスメイトまで異形の怪物だなんてちょっと信じたくはない。


「あと、母さん、こいつ見えてるよ私たちのこと」


圭太の反応に不貞腐れながらついでにと続ける言葉に魔王はびくっと身体を震わせ、ゆっくりとギギギと音が鳴るように首を回してこちらをみた。嘘でしょ・・・?そう零す魔王はお盆をテーブルに置き、緩慢に体を起こしたあと、突然絶叫した。


「キャーーーーーーーーー!恥ずかしい!恥ずかしいわ!あなた私のこと見えてたのね?どうりで様子がおかしいと思ったわ。私ったら勘違いしちゃって!やだ、どうしましょ!ごめんなさいね、びっくりしたでしょう?結界を張り忘れるなんて、私馬鹿だわ!化粧の途中だったってこと忘れてたわ!!」


女性らしく顔を覆ってきゃあと叫ぶ乙女チックな行動をとった魔王の血に塗れた口からどんどん叫びが溢れていく。それを呆れたように見やる河童はたじろぐ様子もない。見た目から言ったら河童なんかこの魔王に一口おやつ感覚で食べられてしまいそうなのに。というか見えてるってなんだ?姿が見えてるのは当たり前だと思っていたが、まさかステルス機能でも搭載しているのか?


 怪訝な顔で二人を見る圭太を察して河童がいやそうな顔をしながら圭太の求める答えを教えてくれる。

「あんたには私と母さんが人間じゃなくみえるんでしょ?」

何も言わずに圭太をソファからどかしどっかりと座って魔王が持ってきたお茶を啜りだした河童はめんどくさそうに続ける。

「それは心眼を持った人間にしかみえない姿なんだ。普段生活してるときはこんな見た目だよ」

 ほら母さん、と河童が促すと魔王は頷いて何やらぶつぶつと呪文のようなものを唱え始め、周囲のぱぁっと光が溢れた。眼前いっぱいに光が包まれ、眩しさに思わず目を瞑る。


「ほら、目開けてみなよ」

河童に言われるがままに目を開けるとそこには。

少し猫目の髪の長い美少女がソファに座り、その横でピンクのエプロン姿の可愛らしい女性が立っていた。


「な、な、な、なんと!?」


圭太は大変驚いていた。目の前で魔王と怪物が一瞬にして見目麗しい少女と女性になったのだから。しかし言うべきはそこではなく、特に圭太が驚いたこと、それは。


「せせせせ聖子様じゃないですか!!!!!」


かの有名な往年のアイドル、聖子様がピンク色のエプロンを着けてにっこりと笑っていたのだ。何を隠そう、圭太が大ファンである天下の大アイドルで、天使とまで呼ばれた聖子様に1ミリたがわぬ愛らしい顔で、とても中年女性とは思えない美しさを備えている聖子様。そっくりさんというレベルではなく、間違いなく本人だった。


「あらやだ!私のこと知ってるのね嬉しいわ!あ、でも化粧の途中だから恥ずかしい!」

ふっと顔を隠す仕草をするところも天下一品の可愛さであったがそこで圭太は目を背けていた重要な事実に直面しなければならなかった。


つまりだ、河童がいまソファに座っているツンデレっぽい美少女なわけで、この聖子様が、つまり。


「聖子様って魔王だったんですか!?」


信じがたい、信じたくない事実を叫んだ圭太の声が平和なリビングにこだました。

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