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隣人が魔王でした。  作者: なずく
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決起の朝に

時は朝7時。僕はユーコさんと待ち合わせをしていた。


「ちょっとお母さん!卵はレンジにいれちゃだめだって!」

そんな叫び声が聞こえてくるこの場所は圭太の自宅、つまりユーコさん宅の隣だ。ドタバタと走りまわる足音と小鳥のさえずりが奇妙なハーモニーを奏でていた。窓から差し込む眩しい朝日が布団に当たり、暖かい匂いをほのかに運んでくる。

 圭太の家族は基本朝早くに仕事に行ってしますので圭太が起きるころには家の中には圭太一人しかいない。そんな静けさの中に響く隣の家庭音。いままで気にしたことがなかったが、こう聞いてみると今まで隣人の存在を意識しなかったことが奇跡に思えてくるほどだ。微笑ましい騒音はその光景をありありと思い浮かべられるリアルさを圭太に教えてくれる。


ユーコさんと出会って数日だが、彼女の存在感は初対面の印象よりずっと上がっていた。というか初対面の河童姿が迫力がなさすぎた。魔王っていう名前のくせして魔族として失格だと思う。そういうとまだ発達途中なだけだと怒られそうだが、聖子様のようなド迫力の見た目になられてもちびってしまうだけなので助かったともいえる。というかあっという間に魔族という存在になじんでしまったが、これはどこでもドアが存在する並にとんでもない日常なのではないかということだけは圭太は実感していた。いまのところ魔族の情報としては見た目がヤバいということだけだったが。人を殺せるくらいの外見を持ち、それを隠匿する技術を持つということは脅威だった。そして凶悪な外見を隠し持っていると知ってもなお聖子様への信仰を続けられる圭太の精神力もなかなかのものだといえる。


「卵焼きにメイプルシロップはだめだって!」


 今日も平和だなぁと隣人の声に眉が下がる圭太であったが、今日の待ち合わせの目的を考えると平和というわけでもない。なにせ先日の声明からネットに広まった魔族の決起集会に今から赴くのだ。休日に美少女とお出かけと考えるとついにやりとしてしまうところもあったが残念山田少年も一緒だった。隣の騒ぎ声が鳴りやまないうちに身支度を整え、ネットで噂の掲示板を確認してみる。

 そもそも魔族の声明というだけで眉唾ものだったが、実際にこうして魔族の存在がとてつもなく主張してくると信憑性も増してくるというものだ。魔族が実際に存在するわけだし、この前の放送も実際の魔族が本当に同志たちに声をかけるためのものだったと考えるのが妥当だろう。実際画面上でおそらく結界を解いて、同志だけにわかるよう素顔を晒したのだろう。ということは実際に世間のどこかにいる魔族たちに働きかけて行動を起こすだろうことも想定できる。公共放送をジャックできるほどの技術をもっているのだから、それなりに行動力もあるはずだ。ネットの書き込みも全くの無関係というわけではないだろう。そう考えると、今から魔族の決起集会に参加することになる。どんな魑魅魍魎が集まるのか、今から吐き気がしそうだった。これが美少女とのデート付きというおまけがなかったらすぐにでもボイコットしたいところだ。


さっと支度をして玄関に向かう。待ち合わせの時間が近づいていた。待ち合わせといっても、家の前に行くだけだが。隣の騒音も支度をはじめたようでいってきますと声が聞こえたのを確認して外にでた。


「あ、おはよ」

「おはようユーコさん」


ユーコさんはベストタイミングで出てきた圭太に一瞬びっくりしながらも挨拶を交わした。その長い髪は風に吹かれてさらさらと綺麗な音を立てているようだ。端正な目鼻立ちが美しく、日本人離れした風貌で周りを圧倒する。まさに聖子様の娘というべき美少女だった。朝日に照らされて白い肌が眩しく光っている。思わず見とれてしまった圭太の動きに首をかしげながらユーコさんは口を開いた。

「今日のは私にも関係があるかもしれない」

「え、えっとどういう意味?」

「魔族が集まるんだったら、魔族である私には意味のあることになる。そこでどんなことが行われるかはわからないけど、私に何か関係がある事態がおきるかもしれない」

「魔族がクーデターを起こしたらユーコさんも魔族の人権確立に参加するってことですか?」

「いや、私は平和に過ごせればそれでいいんだけど」

 でも、と少し言いよどんだユーコさんはその先を言葉にして告げることなく話を切り替えた。

「魔族の人権運動がたとえおこったとしたら傍観する立場にいるつもり。でも魔族狩りが行われたら対処しなきゃいけないってこと」

「あの放送だと魔族に力を取り戻せって感じでしたけど、なにか変わるんです?」

「魔族には魔法が使える」

「えっ!?」


ここ一番で素っ頓狂な声がでた。いや、十分想定できたことだが、実際にできると言われるとどうしても驚かざるを得なかった。そもそも凶悪な見た目を隠すことのできる結界自体魔法のようなものだったが。


「魔法っていっても、RPGででてくるような魔法らしくはないよ。ただ人の意識に左右したり、危険な魔法もあるってこと。だから魔族が本気で革命を起こそうとしたら大変なことになる」

「それは、一体どうすればいいんです?」

「止めるよ。それが私の役目だから」

「役目?」


聞いてもユーコさんは返事をくれなかった。凛とした横顔には複雑な感情が渦巻いているように見えた。ユーコさんが何を考えているかはわからない。しかしこれが重要なことというのだけはわかった。出会って数日だったが、そんなユーコさんの手助けをしたいと心から感じたのだった。

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