8話
ゴゴゴゴ
キュルキュル
メキメキ
バサッ
さっきから約3時間同じ音を聞いている。BGMとか何も無いドライブってとても退屈なんだけど。ラジオとかオーディオ考えた人は天才だと思った今日この頃。
パンッ!
「ん?発砲音か?ナビ、何があった?」
『はい、レーダーでゴブリンを一体確認していたのですが、迎撃自動小銃の射程圏内まで接近してきたので撃っちゃいました。ヘッドショットでしたよ。』
「そうなんだ。了解。……じゃっっねぇよ!!ツッコミ所満載じゃねぇかよ!」
『えっ?何処がでしょうか?全くもって心当たりがありませんが?』
「マジか?お前、マジか?いいか、先ずはレーダーでゴブリン確認してたなら教えて!次にゴブリン倒して良いか聞いて!最後に何可愛く恐ろしいこと言ってんの!?『撃っちゃいました。ヘッドショットでしたよ。』じゃないから!怖いよ!」
『私のモノマネですか?似てないです。出直してきてください。』
「着眼点そこじゃねぇよ!!」
『では聞きましょう。私が貴方にレーダーでゴブリンを確認出来た事を報告したら貴方はその後どの様な指示を行いましたか?』
「ぐっ……。」
『さぁ、お答えください。何て指示を出しましたか??』
「…そのまま監視して、何か怪しい動きしたら迎撃しちゃえと言ったと思います。」
『それで、私の行動は貴方の思考を理解して最適な行動を取ったという事で間違いありませんよね?』
「…いや、でも」
『でももくそもありません。男なら男らしく言い訳せずに、はいorいいえでお答えください。』
「…はい。」
『私のとった行動は貴方を理解して、思いやりをもって行った行動で相違ないですね。』
「はい。」
『そうですか。それなら良かったです。ですが私の心は傷付きました。大切な人から文句を言われるなんて…病んでしまいそうです。謝ってください。』
「えっ?俺が謝る流れなの?」
『謝ってください。泣いちゃいますよ?』
「うっ……。ごめんなさい。」
『ナビさんいつもありがとう。You say』
「ナビさんいつもありがとう。」
『そこまで言うのでしたら許してさしあげます。あっ、あと30秒で会敵です。』
「マジか!?補助ブースト作動準備開始。ナビ!進行方向は!?」
『左に5度旋回、そのまま直進が一番弾き潰せます。』
「了解!ブーストエネルギー充填率90%!あと10%!」
『会敵まであと9秒』
「8」
『7』
「6」
『5』
「4」
『3』
「2」
『1』
『「0」』
『会敵!』
「突貫します!!!」
ブォンッ!!!
ブーストが炎を吹き出し、自宅が急加速する。そして会敵したゴブリンを弾き潰し、そのまま直進して三軒の小屋を押し潰し、止まる。
「次!」
『左旋回60度。一番数が多い小屋があります。』
「合点!!!!」
キュルキュルとキャタピラが金属の摩擦音を上げながら方向転換の為に動く。ナビが示した小屋を正面に捉える。
「ゴー!!!!」
アクセルを踏み込み、ブーストをフルパワーで発動する。
大きな爆発音の後に自宅は小屋に向かって直進し、小屋を押し潰しその場で停止する。
『左に15度旋回。2軒の小屋を押し潰せます。』
「了解!ん?左からゴブリンが接近してる!迎撃任せた!」
『任されました。』
パンッ!
迎撃自動小銃から無属性の魔法弾が発射され、木の兜を被ったゴブリンの頭部が弾け飛んだ。
そしてナビが進路を示し、俺がそれに沿って自宅を操縦し、時間にして15分でゴブリンの里は壊滅した。
「ナビ、どれくらい取りこぼした?」
『約15体くらいになりますね。』
「妥当な数字かな?補助ブースト3分はやっぱり短いね。後半は小屋に近付く前に逃げられたし、近寄ってくるゴブリンもいなかったもんね。あの木の兜被ったゴブリンくらいか?」
『それは会敵した瞬間に武装したゴブリンの大多数を弾き潰したからではないですか?』
「言われてみればそうかもしれないな。ここにいるのも何か気不味いし、元いた場所に帰るか。念の為レーダーの確認もしておいてね。あと、偵察機鳥型も飛ばしておくか。」
『かしこまりました』
偵察機鳥型には上空から自宅に近付く者がいないかを索敵させつつ元いた場所へと移動を開始した。
東の空が僅かに明るくなってきているので夜明けが近いのだろう。
「帰ったら一先ず飯食って寝よう。功績ポイントとカスタマイズはそれからだな。」
こうして俺の初陣は終わった。苦も無く、罪悪感もないままに、呆気なく里の壊滅が終わった。
この戦いを切っ掛けに、繰り返されてきた歴史の歯車が小さく歪んだことを、この世界はまだ気付くことが出来なかった。