31話
司令室から観察するモニター越しに俺は驚愕していた。俺の知ってるファタジーのゴブリンよりもこの世界のゴブリンは知能的に上なのだろう。それはただの物量に任せたゴリ押しじゃない方法で、奴等は自宅の庭へと侵入を果たしてきたからだ。
ゴブリンは大勢で自宅へと押し掛けてはいるが、その侵攻は堅実に盾を構えゆっくり一歩ずつ迫ってくる。当然、迎撃用の固定式自動小銃が範囲内に入った一番近い生命体に向けて魔弾を放つが、盾に阻まれ、人数に押されていた。それに加え、一部のボブゴブリンが地面に手をつけ何かを唱えると発光と共に土の壁がせり出し、土壁が魔弾を耐えている隙に、他のボブゴブリンがその陰から兵士のゴブリンを踏み台にして庭へと飛び乗り始めたのだ。
そしてあろうことか、追跡者の最後の1人は空を飛んで楽々庭へと降り立った。
「魔法…反則だろ…。」
次回のカスタマイズでは何かしらの対空防御手段を検討する事にした。
アラクネとスライムの為にコハクの操作で可動式自動小銃を庭の戦いに参戦させたのは失敗だったかも知れないと、思案してしまう。だが実戦経験など皆無なマコトにとってその答えを出す事は叶わない。それは本人も自覚しているため、すぐに思考を切り替えるが、正直あとは各々の頑張りに期待するしかない。艦長としてやれる仕事はもう残されていない。だからマコトは現状の把握に努め、いざという時の為に思考を巡らせる。
庭ではアラクネとスライムは苦戦を強いられていた。魔導役の参戦により、スライムの弱点である火の魔法が放たれ、それを本能で恐れるスライムの動きが消極的になり固くぎこちないものへと変貌した。そこにボブゴブリンの攻撃も加わり、混乱と言っても良いくらいに動揺をしてしまっている。
アラクネもまた人間の近接役と、ボブゴブリンのゴルダンと連携して攻撃を仕掛けてくるゴブリン兵達により思うように動けずにいた。当然、機動性や蜘蛛と人との視野の多さと広さを活かし、回避や反撃を行ってはいるが決定打がない。
初めての窮地にアラクネもスライムも実戦経験の少なさがジワジワと滲み出てしまった。それは数少ない兵器達の連携を取るという行為を忘れさせ、各個撃破という愚を犯すこととなっているのが証拠だ。
ジリジリと決定打を与えられないまま時が過ぎていく。それは兵器も含めた多くの者の体力を削り、刃を欠けさせ、盾や装甲を歪ませることとなる。当然、集中力もまた同じように。
「オラァァァア!!」
『クッ!?』
満遍なく配っていたアラクネの意識が一瞬、気合の咆哮を上げ、突撃してきたボブゴブリンに奪われ、反撃に必要以上に力んでしまった。その結果突撃したボブゴブリンの腹部はアラクネの腕に貫かれる。だが貫かれたボブゴブリンは血を吐き出した口を歪めニヤッと笑い、アラクネの腕を掴んだ。
「テメーの覚悟受け取った!!」
斬ッ!!
ボブゴブリンの覚悟に応えるために、ボブゴブリンの体ごとゴルダンはアラクネを叩き切った。それによりアラクネの体には胸から下腹部にかけて大きな切り傷が刻まれ、大量の紫色の血が噴き出す。
司令室ではその光景を見ていたマコトが叫んだ。その言葉に反応してコハクが可動式自動小銃を動かすがその動きがあまりにも遅く、スローに感じられるほどだった。だが戦いはその速度を超えた先で進んでいく。
致命傷を受けたアラクネはそれでも倒れない。兵器としての矜持がそれをさせない。半身がなくなったボブゴブリンの体ごとゴルダンを殴りつける。
ゴルダンは渾身の一撃を放った直後の為に、アラクネの振り下ろされた拳を避ける事も防ぐ事も叶わず、顔面にめり込ませた。ゴルダンの体とボブゴブリンの半身は威力に飛ばされ、地面にバウンドし、何度も転がる。
その強力な一撃には当然隙が生まれ、その隙を近接役が見逃すわけがなかった。
「止めはもらった!!!」
アラクネが虚ろになりかけた瞳で捉えたのは近接役。
そして…
3機のルンバ君達だった。
『ピピッ(若い奴から死なせる訳にはいかないんだよ!)』
「邪魔をするな!!」
近接役は突然の乱入者に向かい、一撃を繰り出し、先頭のルンバ君を斬り捨てた。その直後の2機目は蹴り上げられ何個ものパーツと紫の血を散りばめながら地面を転がる。そして3機目のルンバ君は2機の陽動により近接役に取り付くことに成功した。
その時、艦長席のモニターにルンバ君からの通信が映し出された。
『マスター、我等が存在意義を示します。』
彼等の兵器名は“警備兵器(6脚ル◯バ君〜自爆しちゃうぞ〜)”
侵入者に対し、自爆を行う兵器。
「やめろぉぉお!!」
『ピピッ』
マコトの制止の叫びに止まることなく、ルンバ君は独特のデジタル音を発した。直後にルンバ君は自爆による爆発を起こす。そして次の瞬間、発散された爆発は1メートル程で中心に吸い込まれるように球体を作り消滅した。これは室内で対処者を含めて自爆した時のために、爆破魔法とその直後に全てを吸い込む重力魔法を発動させるものだった。言うなれば、ビックバンとブラックホールをコンマ1秒以下の速度で発生させるものだ。
当然、近接役の体は膝から下を残して世界から消滅していた。
近接役の咆哮の後に爆発が気になった魔導役は後ろを振り返った。するとそこにはゆっくりと倒れるアラクネの姿と、膝から下だけを残した近接役の足が地面に立っている光景だった。
「……く、くくくははは!相討ちとは情けないですね!近接役は僕とは違い英雄の資格がない弱者でしたか。」
その言葉を聞いた斥候役は計算する。そして後はあの黒い液体を消せば、あとは消化作業だと目処を立てた。そしてそれは正解だった。
「魔導役、あとはあの黒い液体を消せば終わる。あれは火が弱点らしいからな。蒸発させてやれ。」
「言われなくてもそうするさ!」
魔導役はスライムに向けてファイヤーボールやフレアアローなどの火の魔法を連発する。下級と位置付けられる魔法なら無詠唱で連発も可能だった。しかし、ゴルダンが倒れたことで他のゴブリン達はゴルダンの救出を第一と考え、戦闘からは退いていた。一部はゴルダンを安全圏へと脱出させるために、自宅艦から飛び降りたほどだ。
だがその結果スライムは人間2人に集中することとなり、魔法の攻撃を回避し続けることに成功している。
その間、マコトは歯を食い縛りながらコハクに指示を出し、可動式自動小銃はアラクネに敵が近付かないように展開させ、ナビにバーニアとブーストの充填完了までの時間の確認を行う。
「あと3分か…。これ以上、誰も死んでくれるな。」
マコトは祈るように手を固く握った。
スライムの必死の回避により中々魔法が当たらないことへ魔導役は苛立ちを募らせていた。
「斥候役、このままではラチがあかないと思うんだ。だから僕は強力な魔法を唱えようと思う。」
「わかった。時間稼ぎはしてやる。」
「頼んだよ。」
魔導役は下級魔法の連発を止め、中級魔法フレイムトルネードの詠唱を唱え始めた。嫌な予感がしたスライムが魔導役に触手で攻撃を仕掛けるが、焦りと不安から攻撃が荒く単調だった。それを残された武器を器用に使い、切り落とし、阻害する斥候役。あと僅かで勝負が決しようとしているように見えた。
その光景を動けなくなった体で、眺めていた最後のルンバ君がいる。
『ピッ…。』
共に生まれ、共に過ごした兄弟が自分達の存在意義を示した中、ただ地面に転がり血を垂れ流しながら死に行く時を待つ悔しさに震えていた。
バサッ
何かが羽ばたく音がすぐ近くから聞こた。
『クワッ。』
『ピッ?(カラス1号か?)』
『クワッ。クワ?(あぁ。お前はまだ戦いたいのか?)』
『ピピッ!(当たり前だろ!動くことさえ出来ればスライムを守ってやれる!)』
『クワ…。クワッ!カァー!(そうか…。ならば我が羽を貸そう!我等は先輩だ!若い奴から死んでいい道理はない!)』
『ピピッ。(恩にきる。)』
カラス1号がルンバ君2号の体を足で掴むと、必死で羽ばたき空へと舞い上がる。
『重いぞ!もっと痩せとけ!』
『これが健康的な重さだ!』
死に行く2機は皮肉を言い合う。そして魔導役に向かって飛んでいく。当然その光景はモニター越しに司令室にも映し出される。
「なっ!?カラス君!ルンバ君!お前達は戦えないだろ!?動くな!止めろ!」
しかしその言葉に返答はない。2つの兵器はただ真っ直ぐに倒すべき敵へと直進するだけだった。
『『我等が守る』』
その決意だけを胸に秘めて。




