プロローグ
昔から人見知りで、緊張に弱いくせに見栄っ張りな俺は社会で適応できずに病んでしまった。齢三十路を越えた今の俺はニート、所謂“自宅警備員”だ。
毎日の日課は朝、家族が起きる頃に目を覚まし、PCとスマホで情報収集、テレビをBGMにアプリゲーム、家族が出掛けて誰もいなくなってからご飯を食べて、そのあとはひたすらネットサーフィン、家族が帰ってくるまでに夕食と風呂を済ませて家族が寝静まるまでまたネットサーフィン。
はっきり言って自分の穀潰し加減に飽き飽きしてるし、嫌気がさしてるが、それ以上に外が怖い。まるで俺を全て否定してくるような目線、信じていても簡単に裏切る人、知らぬ間に変わる街、全てが怖い。
「もう疲れたよパト◯ッシュ…」
いつも見る、いつものサイトに飽きた俺は適当に現実逃避をし始める。
「異世界…新世界…リセット…死にたい…やり直したい…部屋から出たくない…外怖い」
思いつくまま、検索ワードを羅列して入力して検索をクリックしてみた。
「はは、何もあるわけねぇわな…。」
あるわけがない羅列の検索が終わると一件検索結果が表示されていた。
「嘘だろ?あるんかい!えっと…自宅警備員からの出世……何じゃこりゃ?覗いてみるか?」
これが俺の運命を、いや、世界の全てを根底から覆すことになるとは思いもしなかった。
ワードをクリックした瞬間俺は真っ黒な空間で椅子に座っていた。真っ暗ではなく真っ黒なんだ。人は驚き過ぎると言葉が出なくなる。鯉のように口をパクパクさせるだけで脳はフリーズして真っ白だ。
その時、真っ黒な空間が歪んで1人の美少年が目の前に現れる。その顔は美しいと思うのに、その表情は性根が歪んだ様な狂気的な笑顔だった。
「やはは!あんなアホみたいなキーワードで検索するなんて君は面白いね!良い人材拾ったよ!!あぁ、安心して!君のいた世界で君の存在はなかったことになってるから!だから君がこれから向かう世界を存分に楽しんでくれたまえ!!そして…私を退屈させてくれるなよ?」
「えっ?」
やっとの思いで絞り出せた言葉はこれだけで、俺の体は浮遊感に襲われる。そして足下へと落ちていく。
「期待してるよ!私の新しい玩具!今日から君は自宅艦艦長だ!!新しい世界の大海原を自宅からどう過ごす!?おまけも付けといたからあとはナビにでも聞いてくれ!あっ、そう言えば名乗ってなかったね?私は快楽と享楽を求める悪戯の神だ!名は…地球ではロキと呼ばれていたかな?まぁそんなことはどうでも良いんだけどね。それじゃ出発進行!ヨーソーロー!!」
落ち続けているのに耳元で話しかけられる感覚を、神とやらが独白を満足するまで聞かされた俺は…思った。
何これ?どういうこと??
クリックしてから1分、俺は真っ黒な空間から落ちていた。この状況で何かを理解して思考するなんて無理だと思うんだ。誰だって。