第六話 ドラゴンと小悪魔たち その一
ドラゴンの谷へ魔力の実戦を小悪魔たちに経験させてやると、兵士まで連れて城を出て行ってしまった魔王に、半ば私は呆れて溜め息を吐いていた。
「美乃里さま。そろそろ、私が送り込んだ魔女たちからの映像がその鏡に映し出される頃でございます」
「え!? 鏡に魔王たちの様子が映し出されるの?」
私はオースティンに鏡の前に連れて行かれて、じっと鏡を見ていると。魔王と小悪魔たちの声が、聞こえて来てハッキリと映像も映し出されていた。
「すごいねーーー! ドラゴンのたにだよ! イーヴィル!」
「ほんとだ! あっちにドラゴンがみえるよ! ミーア!」
「今はドラゴンたちとは休戦中だからな! むやみに攻撃するんじゃねえぞ!」
ドラゴンを遠くから見てはしゃいでいるイーヴィルとミーアに向かって、魔王はいつもの魔王からは想像出来ない父親らしいことを言っていた。
「ドラゴンにこうげきするんじゃないんだーーー!!」
「じゃー! あっちにむかってなら、だれもいないからいいんじゃない?」
小悪魔たちは顔を見合わせてニヤッと笑うと、両手を掲げて緑色の魔力の玉を頭の上に出して、ゴツゴツとした目の前にある岩山に向けてそれを放とうとしていた。(やっぱり、力がありあまっているのね……)
「ちょ!? ちょーーっと待てって! お前ら!!」
「いたぁーーーーーーい!!」
「いたぁーーーーーーい!!」
小悪魔たちが出した頭の上の魔力を、声を上げて慌てて魔王は消して二人の頭をげんこつで一発ずつ殴ってやめさせていた。
「馬鹿か!? 目の前にある岩山にそんなもんぶち込んだら、お前らもオレ様も岩に飲み込まれちまうだろーが? もう少し先にある荒野へ行ったら好きなだけやらせてやるから! ちょっと、待ってろ!」
「ふぁーーーーい!!」
「ふぁーーーーい!!」
さすがに魔王も力の加減が上手く出来なかったのか? 小悪魔たちの頭には大きなたんこぶが出来たようで、二人は涙目で頭を擦りながら返事をしていた。そう言えばこの先に何者も住んでいない荒野があったから、そこで小悪魔たちに魔力の使い方を魔王は教えるつもりなんだ。
「ねぇ、オースティン。さっきから気になってたんだけど、兵士たちはどこへ行ったの?」
「クククク。さすが美乃里さま。気付かれてしまいましたか? ほら、あれですよ!」
私の嫌な予感は当たっていたようで、オースティンはクスクスと笑って鏡を指差していた。ジッと鏡を見ていると、映し出された谷の向こうの荒野のど真ん中では、兵士たちとどう見ても大きな赤いドラゴンが本物の戦闘を繰り出している。
「ちょっ、ちょっと待って!? もしかして……。魔王ったら、あの子たちにドラゴンと実戦させる気でいるの? 嘘でしょ? オースティン! いくらなんでも危なすぎるでしょ?!」
「ワタクシもベルゼブブも一応、やめるように魔王に話してみたのですがね。あの方も言い出すと聞かない性質なので……」
このことは昨日の夜。ドラゴンの谷の麓の街から、赤いドラゴンが暴れていると連絡を受けてすぐに魔王が思いついたことらしく、オースティンもベルゼブブも反対したけど……。魔王は全く聞く耳を持たなかったらしい。