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不吉な風

もうすぐ冬になる。

冷たい風が吹く中、俺はぶるりと微かに震えた体に鞭打って、歩道を歩いていく。

家からコンビニまではほんの数分で着くが、しかしそれでは運動不足になってしまう。そう言う意味も込めて、態々遠回りしてコンビニへと向かっていた。


しかし、デザート何がいいのか聞くのを忘れたな。

俺を除いた家の家族は皆甘党だ。

生クリームが沢山塗りたくられたショートケーキなんて大好物で、一人二切れ食べるなんてザラにある。

本当、どうして甘い物が苦手な俺が産まれたのか常々不思議に思うな。

だからまぁ、甘ければ基本的には何でもいいのだろうが、それでも好みと言うのはある訳で。


「悩んでも仕方ないか。新作があればそれを買おう」


うん、それがいい。そうしよう。

そう自己解決をし、元々速めの歩調をさらに速める。別に急いでいる訳ではないが、目的があると何となく歩調を速めてしまう癖が俺にはあるのだ。

まぁ、寒いのもあるんだがな。


歩き始めてどれくらい経ったか。

ふと目の前の信号に目を向けると、青色が赤色に変わっていた。動きを止めたからこそ分かるが、本当に今日は寒い。

マフラーをして来れば良かったか。確か綾が編んでくれた手編みのマフラーがクローゼットにあった筈だ。

兄さんプレゼントだよ、なんて言ってマフラーを差し出した時の綾は、素晴らしく可愛かった。

使ってねとも言っていたし、本当にマフラー持ってくれば良かったな。

まぁ、そんな事を今更言っても遅いのだが。

ふぅっと息を吐くとそれは白くなって視界を微かに覆った。


風が冷たいからか手も冷たくなってきて、ジャージのポケットに手を突っ込んだ。

と、中に何かが入っている事に気が付く。それは何か線のようで、試しに引っ張り出してみると、線だと思っていた物はウォークマンとそのイヤホンだったようだ。

中に入れっぱなしにしていたのか。道理で部屋には無い訳だ。

いつだったか、ウォークマンが無いと部屋中を探し回ったのだ。あの時の苦労は何だったのか。


「丁度いい、ただ歩くだけじゃ暇だったからな。音楽聞くか」


イヤホンを耳に付けて暫くすると、信号は赤色から青色に変わった。イヤホンからは軽快なリズムが流れ、思わずそれに合わせて歩きそうになるが、そこは自重しよう。


だが、それらの行為がいけなかったのだろうか。

風の音で聞こえにくいからと、普段より音量を上げた音楽に被さるようにして聞こえた、パッパーッとなるクラクションの音。

確かに変わったその場の雰囲気。

ふと横を見ると赤信号を無視して俺の方に突っ込んで来る黒い車がいた。

は?何だあれは?

いきなり過ぎて何が何だか分からなく、そんな疑問しか浮かんでこない。

急展開に頭が真っ白だ。

まるでスローモーションのように、驚く通行人など周りがゆっくりと動いて見えて、その間にも車は迫ってくる。

それなのに体は何かに固定されたように動いてくれなくて、指先もピクリとも動かない。

間抜けに口を半開きにしていても、声が出てくれない程、その光景は衝撃的なのだ。


「……え?」


やっと出た言葉もそれだけ。

ゴンッと言う鈍い音と共に、視界は真っ赤に染まった。

最後に見たのは眠気から覚めたのか、目を見開いて顔を青く染めた運転手の顔だった。




サァッと私の頬を風が撫でる。

何だか今日は変な感じ。


「綾ーっ!どうしたのー?早く行かないと遅刻だよーっ!」


思わず立ち止まってると、友達の声が遠くから聞こえた。

そう言えば今日はギリギリまで家にいたから時間に余裕がないんだっけ。

私は友達の方を見て笑う。兄さんが私の笑顔は凄く可愛いって言ってくれたから、それが嬉しくって私は笑うんだ。


「ごめんっ、今行くー!」


学校の帰り道、最近新しく出来た和菓子屋さんで和菓子を買って行こうかな?

兄さん洋菓子は苦手だけど、和菓子は大好きだもんね。

兄さんの喜ぶ姿を想像すると、にやけそうになった。

あぁ、ダメだ自重しないと。これだから私は皆にブラコンって言われるんだ。

にやけそうになるのを堪えるためにと、ふと空を見上げて思う。


「雨、降りそう………」


どんより曇った空、さっきまではあんなに晴れてたのに。

あぁ、やっぱり今日は変な感じ。


「兄さん……」


呟いた言葉は、突然吹いた風によって消えた。




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