青年は夢を見た
鳥のさえずりが聞こえ、カーテンの端から光が零れて見えた。
なんだ、もう朝か。
しっかり寝た筈なのに重たい体を起こし、眩しさに細まる目を瞬いてふと思う。
何だったか変な夢を見た気がする。何だっけ?こう…何か寒い感じだった。まるで、自分がその場に居るかのような感覚で。
考えても考えても霧がかかったかの様にしか思い出せなくて、仕方なく思い出すのを諦めた。
起きただけの筈なのに何故か疲れて溜め息を吐きつつ、いつも通りにクローゼットの扉に手をかけて、今日は何曜日だったかとカレンダーに目を向ける。
木曜日、だがカレンダーには赤い丸で囲ってあった。
はて、何の予定が入っていたっけか。
寝起きでボンヤリとした働かない頭で暫く考え、そして思い出した。
そっか、昨日先生が休みだとか言ってたな。あのエロジジイと異名の付けられた先生も、たまにはいい事を言う。
よし、昨日は忙しかったからな。今日はのんびり気ままに過ごそう。
あ、服はジャージでいいか。
廊下を、欠伸を噛み締めながら歩く。
体が重いが、もしかしたら風邪でも引いたのだろうか。今は丁度季節の変わり目だ、風邪を引いたっておかしくない。
その上、昨日は確かいつも使っている布団を洗濯していたため、普段より薄めの布団を被って寝たんだった。全く、昨日の自分を叱ってやりたい。
一応後で体温を測ろう。放っておいて酷くなっても困るだけだ。
そう決め自室を出て一階に下りると、微かに聞こえるのは楽しそうな家族の話し声。
朝から元気だなぁと何処か他人事のように感じる中、リビングへのドアを開けた。
「あ、おはよう兄さん」
高めの位置に一つ縛りにした肩程までの髪を揺らして、振り返るのは我が家のアイドル、妹の綾。
今年中学に上がってから、朝食作りを手伝うんだと張り切っていたな。早起きはそのためか。
思わず顔が緩む。
「よう、おはよう。朝食作りどうだった?」
「うーん…微妙かな?」
「そっか、まぁ慣れてないからなぁ」
苦笑しつつそう言うと、綾はそうだねと笑って返してくれた。
誰だって失敗はするものだと、席に着いて朝食を見る。
何だ、微妙って言ってたけど良く出来てるじゃないか。
因みに今日の朝食はパンに目玉焼きとベーコンとレタス。腐った女子の大好物、BLではない。断じてない。
そして同じように席に着いた綾が目の前でベーコンとレタスを見てニヤついてるのも、きっと気のせいだ。
綾と母さん合作の朝食を突きながら、本当に上手く出来ているなと感心した。料理をするのは初めてではないものの、やり始めたばかりなのに美味いなんて凄いと思う。流石は俺の妹だ。
俺が作れば、それこそこの世の物とは思えない物体Xが出来上がるだろう。
これは褒めてやらなくては。
「これ、美味いな」
「本当っ!?それは良かったー!」
そう言ってふわっと笑う綾は、家族云々の感情を抜いても可愛いと思える程美人だ。それに他人に気配りの出来る、とても優しい子だ。
だが勘違いしないで欲しい。俺はシスコンではない。
確かに綾に彼氏が出来たと聞いた時は煮えたぎるくらい怒りを覚えたし、友人曰くそれはシスコンだと言われたが、そんな事はない。自分がシスコンでないと言えば違う事になるのだ。
因みに、その彼氏とはもう別れたそうだ。彼氏ざまぁ!
そう思考しつつ気が付けば食器の中は空だった。
全くもって思考力とは恐ろしいものだ。
食器をシンクに置けば、多分綾か母さんが洗うだろう。と言うよりも俺がやれば何故かは分からないが、皿がパリンパリンと割れるから逆に怒られるのだ。
今日は休みだが、コンビニへ行って綾にデザートを買って来てやるのも悪くない。きっと喜ぶだろう。
一旦部屋へ行き、サイフと家の鍵を取って来てから玄関へ向かった。
「あれ?兄さん、今日大学休みだったよね?」
振り返ると食器を洗っていたのか、エプロンをつけた綾が駆けて来た。
エプロン姿も可愛すぎるな。他の男に見せるのは勿体無い。
「あぁ、ちょっとコンビニまで出掛けるんだ」
「そっかぁ。家の鍵は持った?今日休みなのは兄さんだけなんだからね」
「ちゃんと持った。綾も気を付けて学校に行くんだぞ?」
「はーい!」
いってらっしゃいと言う声に見送られ、俺は家を出た。
何だか今日はいい事が起こりそうな気がする。
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