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DARK HERO  作者: 新田 新
3/3

払拭!かこの思い出

 母さんの天然っぷりは大体のことで発揮される。言い方は悪いが最早認知症レベルで、夕食に使うキュウリを一番最初にカートにセットされた買い物籠に入れたにも関わらず「あ、キュウリ買い忘れちゃった」と言いながら、最初に行われた作業を繰り返したりする。

 例によって今回も、カレーに入れるタマネギを二個買おうとしていた。流石に今回は俺も気づき止めたが。


「遥希ー、今日のカレーに林檎入れてみる?」

 笑顔で言う母さんは、映画館に行くと言われ喜ぶ子供のように、どこか楽しげだ。

「入れてみようか、案外美味いのかも。まぁまず母さんが作るんだから何にせよ美味いけど」

 ちょっと臭かっただろうか、言った直後に恥ずかしくなる。笑われるかな……。

「ふふ、ありがとね」

 ……皮肉めいた笑いを予想していたのだが。相変わらず素直だ。恥ずかしくて赤くなっていた俺よりも、恐らく母さんの顔は赤いだろう。俺は噛み締めるように笑顔を作る。


 そうして幸せを感じていた直後に、前方から騒がしく談笑する若い声がした。母さんの顔から目を離し前方を見据える。ふとデジャヴを感じた。悪い思い出を掘り起こされたようで少し不快になる。

 見据えた野郎共は、クラスメイトのリーダー的存在。ではなくそいつの金魚のフンだ。こちらを指差しながら嘲笑している。歪んだ顔が醜い。恐らく親と同伴して買い物をしている俺を嘲笑っているのだろう。馬鹿かこいつら。

 見せびらかすように、騒がしい二人組に指を差されて疑問符を頭に浮かべている母さんの手を、過去を払拭するような感覚で握ってみた。母さんの頭に浮かんだ疑問符が一つ増えたのを確認し安堵する。

 二人組は俺達の方を怪訝に見据えていた。俺はそいつらを無視し、繋いだ手をやや乱暴に引っ張り、カレー粉のコーナーにそそくさと移動する。明日学校でなんか言われそうだが気にしない。母さんのことで悩まされるなら大歓迎だ、事にもよるが。


 カレー粉のコーナーに着いたところで、痛そうに顔を歪めていた母さんに気づき、我に返る。

「あ...ごめん母さん」

 急いで手を離したせいで、繋いだ手を投げたような形式になってしまった。

「ううん。んー、あの人達は何だったのかしら?」

 母さんの頭に浮かんだ疑問符が更に増えてしまった、いい加減頭がパンクしそうだ。話を変えよう。

「気にしないで良いよ。ところで、カレーライスとハヤシライスの違いってなに?」

「あぁ、それはね────」

 毎度の丁寧な説明。詳し過ぎだぜ母さん。


 最終的に、今日の買い物内での会話はカレーライスとハヤシライスの違いで埋め尽くされた。

 ちなみに家に着くまでまで続きそうだったので話をまた変える、そこがまた長くなるので、何度も変える。この繰り返しであったことをここに記す。

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