歓喜!でーとのお誘い
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「遥希ー、一緒に買い物行かない?」
母さんがそう言った。
......俺はこれを、母さんからのデートのお誘いだと思って良いのだろうか。
たかが母親との買い物、されど母親との買い物だと言う人も居るかもしれない。まぁそれが普通であることを俺は理解しているし、同時に異端であることも理解していた。
俺は母さんが大好きだ。俺も今は良い歳で、もう高三である。その二つを前提として考えれば一分かからずに結論が出てしまうだろうが、母さんを異性として見ている。
悲しいことに、母さんはそのことについて一切気付いていない。まぁバレたらバレたで家族会議ものだ。家族会議と称せるほど家族は居ないのだけど。
兄弟姉妹は居ない。だけどそれは別に死んだとか、そういう重苦しい理由ではなく、ただ単純に存在しないだけだ。そしてこれからも弟や妹が出来る予定はない。言わば俺は母さんのボディーガード。ガガガードゥ。ドゥドゥ。
そして父親。俺の父親と呼べる人物は現在、存在していない。俺が中学三年に離婚して、苗字も変わっている。俺と母さんが蒼井で、あちらが藍川。
こいつのせいで母さんが泣いた。
次に見かけるような機会があったら、出会い頭に一発殴る。そう決めたことを思い出した。無意識に握り締めてい拳を、意図的に緩める。
閑話休題。
そんなわけで、マザコンな俺が母さんからのデートのお誘いを断る理由もなく、当然行くことにした。まぁ理由や用事があっても、母さんのお誘いが最優先なのだけど。
振り返りもそこそこに、俺は「行くよ」と短く返事したのだった。