桃源郷を探す子供たち
第二回小説祭り参加作品
テーマ:桃
あるところに4人の子供がいました。
4人は特に仲が良く、周りからもいい子だと評判の子供たちでした。
ある日、そのうちの一人がこう言います。
「桃源郷を探しに行こう!」
残りの3人は首をかしげます。
「ねえ、桃源郷って、何?」
3人のうち一人が最初の子に聞きました。
「理想郷だよ。すごいところはどこにあるかは分からないけど、地続きになっていて歩いていくことができる場所にあるんだって!」
「物語の中だけの話だろう?」
眼鏡をかけた如何にも頭が良さそうな子が反論します。それでも最初の子はめげません。
「あるもん! もしあったらどうするの?」
「そのときはそのときさ」
眼鏡は当たり前のように答えました。
「桃源郷……、いいかも」
最後の一人はそう呟きました。
「そうだよっ! そうだよね? 私たちで桃源郷を探そう!」
それから、何年もの時が過ぎ――。
「久しぶりだな、桃子。今でも桃源郷を探しているのか?」
隣にいる女の子に尋ねる。
「まあね……。ちょっと思うところはあるけれど、ちゃんと探しているよ」
俺たちは小学生を卒業したあたりから離ればなれになり始めた。
1番の原因は、俺の隣にいる桃子が転校してしまったことだろう。
リーダーである彼女がいなくなってから、俺たちは会う機会が少なくなってきてしまった。
彼女が、俺たちを繋ぐ役割を持っていたんだ。
その彼女が今、隣にいる。全員の時間がちょうど空いた上に、彼女がこの近くまで来ているということなのでこれから久しぶりに集まることになった。
「もしかしたら、見つけたかもしれないの。桃源郷……」
彼女――桃子は消えそうな声でそう呟いた。
「本当か?」
「分からない……、まだ分からないの」
再開した時、桃子はあのころの勢いを失ってしまっていた。それでもまだ、はきはきとしたところは残っており、再開した時に。
「久しぶり。この場所も懐かしいね」
と言われた時は、何故だか安堵感に包まれたものだ。
「ところで、みんなはまだなのかな?」
首をかしげて桃子が訊いてくる。
「ユキはもうすぐ来るって、梓は……本当に来るのか?」
梓自身は忙しいとのこと。来るとは言っていたが、ドタキャンの可能性は多分にある。
「みんな集まれるといいな。久しぶりに来れたからみんなで遊びたい……」
やっぱ、桃子の『みんなで楽しみたい』という気持ちは変わっていないのな。
彼女は昔から一人で遊ぶことよりもみんなで遊ぶことが好きだった。そのせいかは知らないが、彼女の周りにはいつも誰かがいたのだ。彼女の一つの才能でもある。
そんな桃子が、俺達には羨ましくもあり、誇らしくもあった。
「ちょっと電話」
桃子にそう言って、ポケットの中にある携帯電話をとる。ユキからだ。
「……そう、分かった。……ユキはこの近くのファミレスにいるって、そこに行こうか。桃子」
「そうね。行こう、ユキ君が待っているよ」
俺たちはすぐ近くにあるファミレスへと向かう。
「久しぶりだね。桃子ちゃん、白人君。元気そうで何よりだよ」
ファミレスの端っこにある席で、ユキが俺たちを待っていた。
「久しぶり、幸吉。ユキも相変わらずね」
再開の挨拶を済ませ、俺たちも席に着く。俺の向かい側にユキ、隣に桃子という席の位置だ。
「梓ももうすぐ来るよ、やることは全て終わらせたって言ってた」
「そう、全員そろうのね……」
やっぱり、桃子はどこか――もう5年も会っていないのだからどこか変わっていてもおかしくはないのだが――違和感を覚える。あのころに無かった影を感じるのだ。
「なあ、桃子。お前どこか――」
だが、俺の言葉を桃子は無理やり遮った。
「ねえ、二人とも。何頼む? 私はケーキとドリンクバーかな」
「僕もドリンクバー以外にも何か頼もうかな。白人君はどうする?」
「俺はドリンクバーでいいや」
三人が三人、別々の飲み物をもらってきて、とりあえず一息。
「三人とも久しぶりだな」
そんなことを言っているうち、最後の一人、梓もやって来た。
「懐かしいな、俺を含めたこの4人が集まるのも」
そう言って、梓もドリンクバーを頼み――コーヒーをもらってきた。俺は顔を歪める。
「なんだ、白人。お前まだコーヒー飲めないのか」
梓は昔のようにそう言ってくる。俺は未だに砂糖とコーヒーを大量に入れなければコーヒーを飲めない。
「いいだろ、別に。俺は甘党なんだよ。そんなことより桃子、俺たちを会いに来た理由って何だ?」
「え? みんなに会いたかっただけだけど?」
そう言って首をかしげるのは彼女の癖だ。だが……。
「嘘つけ。桃子、お前何か俺たちに隠しているだろ」
「悩みがあるんだったら話してよ。離れていても僕たちは友達だから」
「俺たちにできる範囲ならアドバイスもしよう。作戦参謀が俺の役目だしな」
桃子に俺、幸吉、梓と次々に声をかける。
『助けたいと思った人がいたら、誰が何と言おうと力を貸す』それが俺たちの約束だろう?
俺たちの言葉に桃子は俯いてしまった。なにか悪いことでも言ってしまったのか、彼女を傷つけてしまったのだろうか。
顔をあげた桃子の頬からは雫が伝っていた。
「みんな……、ありがと……。そうだね、じゃあちょっとだけ話すよ」
袖で目元をぬぐいながら桃子は俺達に話しだした。
「あの後ね。私も中学生になって最初のころは何もなかったんだけど……。私ってほら、他の人から見れば結構うざいでしょ? それでね……、クラスメイトに無視を決め込まれたりしたんだ……」
「いじめか。確かにあの頃の桃子の性格では少々生きづらいよな。それで桃子は折れて、おとなしめになったのか」
「おい、梓」
俺は梓の肩をつかむが、本人は全く動じちゃいない。
「客観的に述べているだけだ。本心を言うのならば、俺だって昔の桃子のほうがよかったと思う。が、白人。人は変わっていくものだ。どんなものにも変化の時は訪れる。変わらないものなんて幻想だぞ」
「分かってる。分かっている……。けど!」
「二人とも落ち着いて!」
俺と梓でいい争いに発展しかけたところを桃子が仲裁に入る。
「……でね。直接的な被害は一度もなかったけど、地味な嫌がらせはあったのよ。無視の他にも、話を聞いてくれなかったり、私に責任を押し付けてきたり、その他にも色々ね。……私はここに逃げてきたの」
彼女みたいな……、みんなと楽しいことをするのが一番みたいな子は、無視されるのが一番耐えられないのだ。……ずっと、さびしかったんだな。
「僕たちは……昔から一緒にいたから、桃子の気持はよくわかるよ。一人でいるのが辛かったらいつでも、戻ってきていいんだよ?」
「逃避し続けるのはよくないことだが、一時的に逃げることは決して悪いことではない。むしろ良策であることのほうが多い。……たまには顔を見せに来ればいい」
「俺達はいつだって桃子の仲間だし、味方だ!」
彼女はもう一度目元を拭うと昔みたいな笑顔を見せた。
「うん! 私、もう一度頑張ってみるよ! みんなに勇気をもらったから」
「そういえば、桃子は桃源郷を見つけたのか?」
少しからかうような――でも確かな温かさを含んだ――口調で梓が訊く。
「まだまだ、そんな簡単には見つからないよ」
元気を取り戻した桃子は苦笑しながら答えた。
「何せ、理想郷だよ? すぐに見つかったら面白くないじゃない。ところで、みんなは探していたりする」
俺は桃子を除いた二人を見る。どうやらそれぞれの方法で探していたみたいだな。
「おれは、別に……」
梓は目をそらそうとしたが、俺が背中を叩いてそのものを失敗させる。
「こういう時に照れるなよ。お前らしいけどなっ!」
「脳筋な白人ほどではない」
「なんだとっ!」
「……はははっ、やっぱ、たのしいっ!」
俺と梓の言いあいに桃子が吹き出した。
桃子はまた目元を拭う。――でも、それは悲しいからでも寂しかったからでもなく心から笑ったからだろう。
「私が求めていたものって、こんなに近くにあったんだね。……もしかして、ここが私の、私たちの桃源郷だったのかな?」
彼女の問いに俺は首を振った。
「違うさ」
『え?』
桃子と幸吉が聞き返す。
「ここは桃源郷への出発点だ。ここをもっと凄くした場所に桃源郷はあるんじゃないかな。な? 梓」
「一理あるな。確かに俺たちは楽しかったし居心地が良かった。でも、それは俺たちのだけの世界なのだろう? ならば、桃子がしなければならないことは一つ――」
「僕達だけじゃなく、それこそたくさんの人たちが笑顔になれる場所を作ればいいんだよ!」
「幸吉、一番いいところを持っていきやがって」
「桃子に自ら言わせようと思ったのだがな……」
「ええ!?」
そう言うなり、幸吉は肩を落として落ち込んでしまった。
「ねえ、みんな」
桃子が俺たちの前に立つ。一瞬、何か決心をしたような顔をした後、微笑みながら口を開く。
俺たちは真っ直ぐに桃子を見つめて、彼女の言葉を待った。
「私は……、みんなといるのが好きっ! 大好きだよっ! だけど、ちゃんと私の目指す桃源郷も見つけたい! そのために……みんなも力を貸してくれる?」
あのころに戻った彼女に、俺たちもあのころに戻った気分で返す。
きっと、もう、だいじょうぶ。
そんなことを願いながら……。
『当たり前だろ。僕たちみんなで桃源郷を探すんだ!』
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