表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪霊が精霊になるとき  作者: 旬麗
9/19

9.短い愛情

トーヤの生まれた病院での情報をもらった後、しばらくは河田師長さんから言われた言葉に頭が占領されてしまった灯。

灯が、人の言葉で左右されるのも珍しい。

灯の心が不安定だと、いわゆる『悪霊』と言われるものも寄ってきやすくなる。

眼鏡をかけると、かなりのガードができるはずなのだが。


『灯、心が揺れてるよ?灯の周りに悪いものがウヨウヨ・・・しっかりして!』


『ありがとう。彩加。最近多いよね?みんな私を守るのに出動してる・・・。

ごめん・・・。』


灯の周りによって来る悪霊たちは、祐、伶、歩生の力によって弾かれている。直接灯に被害は及ばないものの、こんな生活をずっと続けていると5人の力があってもさすがに力の限界はある。


『じゃぁ、心を入れ直すためにも散歩でもしてきますか?』


うふふと彩加が笑って


『付き合うわよ?』


と心に言葉を伝えてくる。

今日も灯は、パンツスタイルに上はTシャツを着て外に出る。眼鏡はもちろん必須アイテムだ。


10分ほど歩くと、緑が残る森林公園が見えてきた。ベンチに座りしばらくぼんやりと考え事をする灯。

すると、サラサラと暖かい風が灯の体を包む。


『あっっ!この風・・・』


見ると、目の前に灯の祖母の姿。いつみても、きちんとした身なりをしている。


「まぁまぁ、この子ったら」


ほのかに笑顔を浮かべている。


「どの親も、わが子はかわいいものなのよ?もちろん灯の両親もトーヤの母親のようにあなたへの愛はあるわよ?

ただ、あなたの力をなかなか受け入れられず素直に愛情を出せなかっただけ。今回の事が解決したら、あなたも一度家族に会いに行くことね。」


そういいながら、灯の隣に腰を下ろす。


「ふふ。どうして知っているって顔してる。私にも精霊になったあなたの周りにいる霊たちとの会話くらいできるのよ?あの子たちが、わざわざ教えてくれたわ。」


「今日、あなたがここにいることも・・・。親への愛を聞いて戸惑っていることも・・・」


言葉を区切りながら、話を進める祖母。


「この件が解決すれば、あなたからあの家に会いに行っても、あの家には危害は及ばない。あなたの力もずいぶん安定してきている。あなたの周りには精霊たちがいるから、あの子たちが守ってくれるわ。

もう一つ付け加えるのならば、あなたの家族はもう何年も前から、灯に会いたくて寂しがっているわ。

どうして手放してしまったんだろうって後悔までしてる。どうして守ってあげられなかったんだろうって。

どういう暮らしをしてるのか?友達は居るのか?学生生活は楽しんでいるのか?一番心配なのは、食事らしいわ。

伝えておいたわよ?

灯は、そんな弱い子じゃない。ご飯だって自分で作れるし、掃除や洗濯も大丈夫。友達もいるし。

いつお嫁に行っても、困らないわって。」


驚いている灯をよそに、最後は、にやりと笑って見せ灯をからかう。

灯は、ベンチから立ち上がるとその胸いっぱいに新鮮な空気を吸う。そして、目を瞑り自然のエネルギーをその体全体に吸い込ませるように手を拡げる。

・・・・・・しばらくして、目を開けるとまた話しかけられる。


「充電完了・・・といったところかしら?

今度は、トーヤの居た施設にでも行ってくることね?

それから、あなたの友達の彼氏さんも眼鏡しないと霊たちの防御ができないわ。

あなたの大切な友達が苦しまないように、祈ってるわ。」


そういうと、森林公園を出ていく。


『あ~ぁ。おばあちゃんにはかなわないよ。』


『ほんとだな!』


珍しく伶が現れる。

“ほんと伶ったら・・・。冷たいくせに私が困ってると必ずそっと手助けしてくれるんだから。

今回も伝えに行ったのは、伶しかいない。”


『ありがとう。伶・・・』


せっかくお礼を伝えたのに、消えてしまう。照れくさいのかな・・・?

ポケットから、携帯電話を出すと凪に電話をかける。もちろん内容は、トーヤの住んでいた施設へ訪問する日程の相談と、拓斗の眼鏡の件についてだ。

予定は三日後。眼鏡の件については、これから用意するから安心してと言われた。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・三日後・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今日は、眼鏡をかけた拓斗と凪、そして灯。

門の所には『クローバー児童院』の表札がかかっている。トーヤにとって深いかかわりがあったであろう児童院だ。

中に入り、名前を告げると


「待っていました。どうぞお座りください。」


と会議室用の部屋の椅子に勧められた。


「こんな部屋しかなくて・・・。」


長身で白髪頭の望月と名乗った施設長が話し始める。


「え~と。確か長谷川 斗哉君の事でしたね?どんないきさつでここに来たかと、ここから出て行った状況。行き先の情報ですか・・・」


「あと、ここでのトーヤの様子も知りたいのですが・・・」


灯が付け加えるように言うと


「順序立てて話しますよ。」


といい返事をもらえた。


・・・トーヤの母は、トーヤを置いて出て行ったらしい。

いや・・・出て行ったのではない。正確には父親に見つかり連れ戻されたというのが正しい。

子供がいるのも確認しておきながら、トーヤの祖父は“子供がいるとこれから不利になることが多い”トーヤの母から、子供を奪い去りトーヤの父親に預けたらしい。

トーヤの父は、それから引っ越しもせず同じところに住みつづけ、仕事をこなし、トーヤを育て大変な数年間を過ごしたらしい。トーヤと母親が別れたのが、生後半年。ここの施設にやってきたのがトーヤが4歳の時。

もうその時には、トーヤの父は体がぼろぼろで立っているのもやっとの状況だったという。それでも、トーヤを手放したくない一心でここまで育ててきた。

必ず、トーヤを迎えに来ますからと泣きながら、何度も同じことを訴えトーヤを預けるまでかなり躊躇したようだ。

トーヤが居たから、ここまで頑張ってこれた。トーヤは生涯ただ一人好きになった人の子供だから本当はこんなことはしたくない。トーヤを見つめながら、トーヤの母親であろう人物を思い浮かべているようだったと話してくれた。

いつでも、様子を見に来ていいと伝えると満面の笑みを浮かべ、何度も何度もトーヤをお願いしますと頭を下げて帰っていったようだ。

それから、一週間がたったころトーヤの父親が面会に来て『お父さん、入院しなければいけなくなってしまったんだ。トーヤに会えるのは、しばらくおあずけかなぁ?なぁ。トーヤはお父さんの事好きか?』と穏やかに話しているのを耳にして、トーヤの父親の愛情深さを感じたと話した。

しばらくは、外泊や外出で“また来ました。”といっては、トーヤと面会をして朝から晩まで納得するまでここで過ごしていたという。別れ際は決まってトーヤの頭を撫ぜて『また来るからな?それまで、いい子にしてるんだぞ。』といい、施設の人たちには、深々と頭を下げて帰っていくのがトーヤの父親の姿だったと・・・



「それが、段々と顔を見せられなくなって。斗哉くんの表情も日に日に寂しいものになっていきました。

たまに、病院からこちらにも斗哉君の様子を聞く電話がありましたが・・・。

それから、1か月後嬉しそうな顔で面会に来たのが最後でした。ここにきて1年後、斗哉君のお父さんは亡くなってしまったんです・・・。

でも、最後の面会の時の斗哉君の笑顔とお父さんの寂しそうな顔と嬉しそうな顔がごちゃまぜなった顔は今でも忘れることができません。

“今日は、多分斗哉に会うのも最後になるかもしれません。なるべく長い間居させてください。”と言って長い時間を遊んで過ごしていきました。

帰るときに“どちらかに引っ越しですか?”と聞いたら“僕の命が残念ながら限られたものになってしまいました。もう手遅れだったみたいです。この手でトーヤを大人になるまで育て上げたかった”とぽつりと言葉をこぼし、しばらく自分の手を眺めていましたよ。

私たちも、その一言にはショックでした。それから、2か月経ったある日斗哉君のお父さんが亡くなったと連絡が来ました。その一言を私たちは、斗哉くんに言うことができず。

それが原因で斗哉くんは、ここで寂しい時間を過ごすことになってしまったんです。影ではいじめられてもいたようで。本当に申し訳ないことをしてしまいました。」



「それから、しばらくたって亡くなる前に斗哉君の事をお願いされたと、榎元と言う男性が引き取りに来ました。

聞くと、斗哉君のお父さんの親戚と言う事でした。親戚であることなどから、斗哉君はここを出ることになり、その榎元さんに正式に引き取られることになったのです。

私が知る限りの斗哉君のことはこれだけなのですが・・・」


「分かりました。ありがとうございました。トーヤは父親に捨てられたみたいに思っていたようなのです。

どうしても、ここにお世話にならなくては無理だったことよくわかりました。」


灯がいうと


「素敵なお父さんでしたね?僕も将来、自分の子供をきちんと愛せる父親になりたいです。」


と拓斗が言葉をつなげる。凪は、赤くなっている。


「ぜひ、そうしてください。ここは、心を閉ざした子供が多すぎる。そんな子供の姿を見るたびに僕たちの心は痛むばかりですよ。」


望月さんは静かに微笑みをもたらす。


「では、これで。お話してくださってありがとうございました。」


三人で頭を下げ、クローバー児童院を後にした。




「なんだか、トーヤが思っていた両親じゃなかったよね。捨てられたみたいに思っていたみたいだけどさ!」


「かなり誤解して育ってるよね?」


と灯と凪は会話を始める。すると、するりと現れたトーヤ。

『俺、おじさんにはことあるごとに、お前の親は自分の子供を捨てた最低の人間だ!俺たちがこうして世話してやっているだけでもありがたく思えって言われてきたんだぜ?』


『トーヤ??覚えてないんじゃなかったの?』


『さっき、思い出したんだよ!悪いか?!!』


照れくさそうにしているトーヤ。


『ふうん。じゃぁ、お父さんの事も思い出したんだ?』


からかってやれば、すぐに消えてしまう。かわりに、彩加が姿を見せる。


『あれは、照れてるんだよ?からかうとかわいそうだよ?灯、この件は灯の宣言通りになりそうだよね?トーヤは幸せになれるね?』


『何も知らないで育ったトーヤがすべてを知れば大丈夫。』


自信満々に答える灯。


早くトーヤの件を解決して、凪と拓斗に平穏な時間を早く過ごして欲しいなと思ってしまう灯だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よろしければ 評価などしていただけると 嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ