5.守護霊と悪霊
翌日、大学が終わると凪と約束した通り 拓斗さんのCafeに向かう。
蔦の葉に囲まれた、趣のあるCafeだ。
内装は、ゆったりとしていて、カウンター席が10席ほどとテーブル席が3席ほどのみ。
ゆっくりするには、もってこいの場所だ。
Cafeの名前は「ikoi」という。ひらがなでも、漢字でもなくローマ字で「ikoi」だ。
店に入ると「カランコロン」という 懐かしい響きと共に「いらっしゃいませ」と声をかけられる。
細身のサラサラの髪を無造作に分けた、穏やかな人だ。凪が恋をするのもわかるような気がする。
『人がいい』とみんなから称されるような人だ。
カウンターに凪が腰を掛けるので、私もその隣の椅子に腰掛ける。
「いらしゃいませ。凪の友達ですか?」
と微笑まれる。
「私がいつも話してる灯だよ。拓斗さん。今日は拓斗さんのおいしいカフェオレを飲んでみたいというから、連れてきたんだけど・・・。」
「凪がいつもお世話になっています。灯さんの事は、聞いていました。信頼できるいい友達だと。」
「・・・だけど、男っぽいとか?」
苦笑いしながら、言葉を拾うと、拓斗さんも意地悪な思いを瞳に乗せて笑う。
「私は、なんてお呼びしていいですか?」
「そうだなぁ?凪の友達だからね。でも、みんなに拓斗って呼ばれてるから、それ以外の呼び名には反応できないかも・・・」
「じゃぁ、凪も了解してね?私も拓斗さんと呼んでいいかな?」
凪と拓斗さんはお互いに顔を見つめあうと、頷く。ちょっと凪の顔が赤くなっている。かわいいなぁ。
恋する者の特徴だわ。
「それで、OKですよ?」
やわらかい物腰の言い方だ。これで、彼女がいなかったのは、不思議な感じがする。
「では、灯さんはカフェオレでいいんですね?凪は?いつもの?」
「うん!ブレンドコーヒーで。」
拓斗さんが カウンター越しに手際よくコーヒーの準備をしている姿を見つめながら、視線をふと背中に向けると拓斗さんを見守っている背後霊に元気がない。
背後霊は、どうやら拓斗さんのおじいさんのようだ。
白髪がロマンスグレーで、拓斗さんに似た穏やかな人のようだ。ちょっと辛い顔をしているように見える。
心でその拓斗さんの守護霊に話しかける。
『おじいさん、こんにちは。拓斗さんの守護霊さんですね?どうしました?元気がないですね?」
『はい。最近強いものに当てられてしまって。私の力も十分に発揮できないのです。
しかし、こんな若いお嬢さんに話しかけられるとは・・・。私の事が見えるのですね。
お嬢さんみたいな若い子に声をかけられたのは、初めてですよ。』
『私は、小さいころからこの手の力を持って生まれたので、慣れっこなんですよ。
ところで、おじいさんの名前を教えていただけないでしょうか?
しばらく、私と付き合うことになると思うんですよ。
呼び名があったほうが、お互いにいいと思うので・・・。
わたしは、灯といいます。』
『お嬢さん、普通の砕けたいいかたで構いませんよ。
灯さん、私の名前は、光稀というんです。
この年にしては、かなりモダンな名前を付けてもらったものです。』
うっすら、微笑んだ顔が、拓斗さんにそっくりだ。そこに、拓斗さんがカフェオレとブレンドコーヒーを持ってきてくれた。
「どうぞ?」
「ありがとうございます。ちょっと拓斗さんに聞きたいことがあるのですが。聞いてもいいですか?」
「答えれるものであれば。」
にっこりと笑顔を返してくれる。
「拓斗さんのおじいさんてロマンスグレーの似合うおじいさん?なまえは“みつき”さん」
「あれ、灯さんは祖父の知り合いでしたか?・・・でも、あれっ?!おかしいなぁ?
祖父は10年も前に亡くなってるのですが・・・。
僕の事をとてもよくかわいがってくれた、とても素敵なおじいさんでしたよ。」
「いえ。知り合いではないのですが。詳しいことは、お客さんがいない時にでも」
そういって、カフェオレを一口飲む。
あ~!おいしい。なんというか、拓斗さんの人柄が現れたように優しい味のするカフェオレだった。
「このカフェオレおいしいですね?今まで飲んだ中で、一番おいしいです。
どこのCafeにも負けない味ですね?」
「光栄です。ありがとうございます。」
一言そういうと、常連さんらしい隣の男の人に視線を移し、世間話を始めたようだ。
隣では、凪が私の左腕を叩いてくる。
「灯・・・見えたの・・・?」
おずおずとした言い方に、アハハと乾いた笑い声をたてる。そして、短い髪の毛に手をやりポリポリと掻いてみればみれば、驚いた顔をした凪がこちらを見ている。
「もちろん♪」
「いま、少しだけそのおじいさん・・・拓斗さんの守護霊になってるのだけど・・・
そのおじいさんと話してみるからね。」
そういうと 守護霊の光稀さんに視線をもどし話しかける。
『拓斗さんがおかしいと拓斗さんの彼女である凪から相談を受けてやってきました。
花見にいってから、おかしくなったと。
私の考えでは、花見の帰りにかなり強い霊にあったようで、この恋を邪魔しに来たようです。普段は見えない凪にも見えたという事なので。
・・・・・拓斗さんは、元々霊感があるようですね?本人に自覚はないようですが。』
『そうです。だから、私があまりにも拓斗が心配で・・・。
とうとう、こうして守護霊として守っていこうと決めて、守護霊となったのですが。
生きている間に、拓斗にはそういう力があることを伝えていれば自覚もしたのでしょうが・・・。
私も、突然の病気であっという間に死んでしまったので。ゆっくりと拓斗に話して、その自覚をわかるように説明していこうと思っていた矢先だった。
小さいころから、霊と話していて、それは私にも見えていたのですよ。
つまり・・・私も霊感があって。だから守護霊にもなれたんですけど。
それを、拓斗だけが受け継いでしまったんですね?
他の人たちには見えないものですから、たまに怪訝な顔つきをするのです。
それをみんなにわからないように いつでも拓斗は自分の手元に置き見守っていたのですよ。
だから、ほかの孫からは“おじいさんは拓斗しか可愛がらない”と言われてしまってね。』
『わかりました。タイプが私とは違うのですが、霊感があるのは同じなので。
ただ、拓斗さんの厄介なことは、自分で自覚がないことですね。
いま、光稀さんが話したことは伝えますよ。安心してください。
拓斗さんに霊感がある自覚を持ってもらわないと 次に進めませんからね。』
カフェオレを飲み、気持ちを落ち着かせる。
さて、どうしたものか??
どこから、切り出せばいいものか・・・
ため息をつくと 隣で美味しそうにコーヒーを飲む凪と視線が合う。
頷きながら
「大丈夫だよ。その憑いている霊を追い払う前に、まず予備準備しないと始まらないからね。
ところで、凪は足は速いほう?」
「うーん。まぁまぁかな?
灯は、元陸上やってたよね?」
「長距離専門!
それも、いつも変な霊に遭遇するから、走って逃げててそのうち走りが早くなってしまって。」
「それで、選手にも選ばれたんだから凄いよね!」
二人でこそこそと会話をする。
「まぁ、だから走りやすさもかねてパンツスタイル。髪も短いから邪魔にはならない。
眼鏡は走るときは、外すよ。」
「もしかして・・・・・灯って視力・・・。」
「両目1.5!!眼鏡は伊達。
メガネかけて予防しないと、余計なものが見えすぎて困るんだよ。
家の中では、眼鏡しないから外を歩く時だけだよ。」
「なんか、大変なんだね。」
しみじみと言われた。そんな会話をしているとお客さんもいなくなり、店内の雰囲気がぐっと暗いものに変わりつつある。
『そんなに、強い力発揮しないでよ。あなたは、寂しい人だったんだね?
拓斗さんの幸せな姿が許せない?
あなたも拓斗さんも幸せになってもらいたいのだけど。
あ・な・た・も・し・あ・わ・せ・に・な・れ・る
としたら、どう?』
一時づつ区切って話すと、その言葉を聞いた若い男性が姿を現す。
『ウソだろ?だれも、そんな手助けをしてくれる奴なんかいなかったんだぜ?
こんな霊になってしまって今さらだろ??』
『時間はかかるけど、約束するよ。
だから、いま拓斗さんを支配しないで。』
そういってその男性に手を伸ばすと、私の指先からそいつに向かって光が伸びる。
『わかった・・・。
おまえ、並大抵の力を持った奴じゃないな?
今まで会ったやつの中で、こんなに強い力を持った奴に会ったことなかったよ。』
『消すのは簡単だよ?
でも、消してもあなたの深い闇は解消できない。
だから、幸せにしてあげる。
幸せにして、昇天させてあげる。』
『なるほどね!
俺は、トーヤだ!よろしくな』
『じゃぁ、トーヤはおとなしくししてて。』
話している最中にトーヤが消える。
店の雰囲気も元通りに戻る。
やっぱり、トーヤが原因だったんだ。
さてと。
拓斗さんについているトーヤも見れたし、さてさてこれからは拓斗さんに向き合って話をしなければ。
そう思い、カウンターの中で洗い物をしている拓斗さんに目を向ける。
「拓斗さんにお願いがあります。
凪の同席のもと、私の話を聞いてほしいのです。
これは、おじいさんの光稀さんにも頼まれたことなんです。」
真剣な目で訴えるように話すと、軽く頷かれる。
「凪の友人ですからね?拒否はしませんよ。片づけが終わったら、聞きますよ。」
相変わらず、穏やかな人だ。
私は、深呼吸を1つすると凪に微笑んだ。
「時間はかかるけど、きちんと解決して見せるから。」
いたずらするみたいにウインクして見せる。
凪もほっと溜息をし、いつもの様にもどったようだ。




