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悪霊が精霊になるとき  作者: 旬麗
16/19

16.戻った日常

最終話になります。

城山家に行った翌日、凪は一人でCafe【ikoi】に来ていた。もちろん拓斗に会うためだ。

いつものカウンター席に座り、いつものコーヒーを注文して拓斗を眺める。至福のひとときだ。

いつもは、必ずお客さんがいる時間なのに、今日は誰もいない。2人だけの時間となる貴重な時間だ。


「やっと、終わったって灯が言ってたよ。ありがとうって。」


「・・・長かったような、短かったような・・・でも、充実した時間だった。」


「拓斗さんの高校時代も知ることができたし、得した気分も味わえたよ。」


拓斗が笑うと、凪も笑う。


「・・・結局、昨日会った人たちとは、今後も付き合っていくことになりそうだ。ここに顔を出すって言ってたから。」

「・・・・・・・それと、凪・・・・。俺達って2人きりのデートってしばらくしてないよな?

今度、デートしよう!トーヤの事も解決したし、店を臨時休業にして、出かけよう!」


と、半ば拓斗が強引に決めたデート。

まだ、夏の日差しも強く、あちらこちらでは蝉の鳴き声が盛んだ。


待ち合わせの時間よりも早く待ち合わせ場所に凪がいくと、すでに拓斗は自分の車に体をもたらせて待っていた。

今日の拓斗は、スカイブルーのポロシャツにベージュのパンツといった姿。

一方凪は、うすピンクの小花模様のカシュクールワンピースに薄い白のカーディガンを羽織っている。いつもの茶色の髪の毛は、やわらかくカールがしてある。


「おはよう!凪。早いね。」


「拓斗さんだって。まだ、約束の30分前・・・。いつからここに居たの?」


「ハハハ。内緒だよ?」


笑って、凪に拓斗が話しかけると凪は顔を真っ赤に染めている。


「さて・・・。今日は行きたいところあったかな?そういえば、何にも聞いてなかったね?」


そういって、拓斗が凪を車の助手席に乗るよう車のドアを開ける。


凪も素直に乗り込みながら、伝える。


「何にも、考えてなくて・・・。」


「じゃぁ、今日は俺のおすすめでいいかな?」


コクンと頷く凪。運転席に、拓斗は乗り込むとシフトレバーを動かし、車を発進させる。


「ちょっと、時間がかかるんだけど、好きな景色なんだ。凪も気に入ってくれると嬉しい。」


車を走らせると、心地よい風が車の中に流れ込む。しばらく外の景色を見ていると住宅街を外れ、大きい道路を走り始める。拓斗は世間話のように、静かに話し始める。


「霊が見えてるって、最初分かったときはかなりびっくりしたよ?それに、かなり落ち込んだ。

でも、隣に凪がいてくれたから。

安心していられたんだ。

霊なのか、人なのかの判断がつかなくて戸惑っていても、凪が導いてくれた。凪がいてくれたおかげで、俺は心が正常に保てたのかもしれない。

今は、見えるからこそじいちゃんとも会話できるし、この力があることに、後悔はしていないよ?」


そういうと、そっと左手で凪の右手を握る。

車窓は、緑の景色しか見えなくなってくる。それを見ていた凪は、段々瞼が重くなる。

昨日は、久しぶりのデートのため緊張して、睡眠不足なのだ。会話をしていたが、口数が少なってきた凪を心配して、凪に視線を移せばうつらうつらしている。


「凪・・・眠いの?到着まで2時間くらいかかるから寝てるといいよ。」


そういって、左手で優しく頭を撫でる手が気持ちいい。拓斗の言葉を合図に眠りの中に入っていった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「凪・・・凪・・・」


凪の呼ぶ声で眠りから現実へと引き戻される。体も揺さぶられている。ゆっくり瞳を開けると、拓斗の顔が見える。


「着いたよ。凪・・・。気持ちよさそうだったな?ほら!降りるぞ!」


拓斗に促され、体を起こす凪。しばらく眠っていたようだ。

車から降りると、凪たちの住んでいる街よりも暑さが和らいでいる感じだ。周りには森林が見える。


「心地いいね・・・」


凪は深呼吸する。それを見て、拓斗は笑う。


「俺のお気に入りの場所なんだ。ちょっと散歩もしたいんだけど、まずは腹ごしらえだな?お腹すいただろ?」


そういって、レストランに入っていく。

小高い山の麓に建てられたレストラン。遠くに海も見渡せる。店先にもいくつかテーブルがあり、外での食事も楽しめるようだ。癒される風景だ。

凪と拓斗は、外のテーブル席に座ると、ランチを注文する。今日のおすすめランチは、クリームパスタだ。

パスタを口に入れると優しい味がした。




食後、凪は拓斗に手を握られ、外に出た。久しぶりに手を握られ、緊張する凪。心臓の鼓動が早くなり、耳まで真っ赤になった。


「凪、ゆっくり散歩しよう?」


そういわれ、着いたところは海だった。


「こっち回ると、海に出れるんだ。ゆっくり話ししようか?」


海からの潮風を受けながら、二人は腰を下ろす。


「ここしばらくトーヤの事で大変だったけど、いろいろ考えさせられたよ。

凪はどうだった?両親の事、友達の事、近くに居ても気が付かないことが多くて。

男ってさ・・・・・口数少ない分、相手に伝わらないことも多いんだよ?

だめだよなぁ?このままじゃぁ。」


一度言葉を区切り、短い溜息をこぼす。


「凪には、俺の気持ちは伝わっているんだろうか?と不安になったよ。

・・・気持ちは、きちんと伝えなきゃトーヤみたいになるしな?

お互いに気持ちは、言葉にしていこうと思ったよ。」


優しく微笑みながら話す拓斗。


「うん。そうだよ!話してくれなくちゃわからない。

私はいつも側にいて、いいんだろうか?と思う。会いたくてお店に行ってしまうけど、邪魔になってないんだろうか・・・とか。

拓斗さんの側にいても不安なの。」


俯きながらの凪の告白に驚く。“そんなこと考えていたんだな。いつも嬉しそうににこにこしていたから分からなかった。”

そっと、凪の肩に手を置き、“大丈夫だよ”というように優しく抱きしめる。

そのままゆったりと二人で海の景色をで眺め穏やかな時間が流れていった。





いつの間にか、夕日が沈もうとしていることに気がつく拓斗。そっと立ち上がり凪に手を差し出す。


「凪。今日はゆっくりできたか?もう夕方だ。帰ろう。」


車に戻ると、太陽は半分以上沈んでいる。オレンジ色の夕日が眩しい。それを背に抱えて、車は凪たちの住む町に向けて走り始める。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1時間ほど走ったところで、どこかの駐車場に車が止まる。


「ここ、夜景のきれいなところなんだ。少し歩くけどな・・・。」


階段を上り、肩を並べて歩き始めると、拓斗が


「そういえば・・・」


と話し始める。


「蒼人なんだけどさ・・。どうやら灯ちゃんに気があるらしいぞ。知ってたか?」


「えっっ?そうなの?」


「長い付き合いの蒼人の事だからな?見てればわかるよ?

・・・あいつ、どうするんだろう?・・・まぁ、あいつの事だ。しばらくはこのまま様子みるんだろうな?

灯ちゃんには全然気持ちないみたいだしな?このまま告白しても、振られるのが目に見えているからな?

・・・・今度は、蒼人と灯ちゃんのキューピット役が回ってくるかもしれないぞ。」


「悪霊に憑かれるより全然いいよ。」


凪が笑って答えると、拓斗が笑う。


「じいさんも、笑ってるよ。お世話になった灯ちゃんにも、心を許せるようになる人ができるといいなだってさ。」


そんなことを話しているうちに、眼下に街並みが見渡せる場所に着いた。


「ここだよ。凪・・・きれいだろう?」


「・・・綺麗・・・」


凪は言葉を失う。


「こういうデートはあまりできないけど、それでも俺の隣にいてほしいんだ。

凪・・・これからもよろしくな?」


そういうと、向かい合って凪の体にそっと手を回す拓斗。それに応えるように、凪も拓斗の体に手を回す。


「こちらこそ。拓斗さんの側にずっといたい・・・」


凪が、そっと呟くと拓斗の顔が凪に近づき優しい口づけが落とされた。



                fin




書き足りなかった話は、番外編・スピンオフで書きたいと思っています。

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