13.つかみかけた幸せ
この章は、いつもより長いです。
トーヤが亡くなるまでの話は、この章で終了となるはずです。
珂李が玄関を開けると、そこには予想通りの人物ーりんーが立っていた。
りんは、トーヤの最初で最後の彼女だ。
身長は小さく、ぱっちりの瞳に肩まである黒のストレートヘア。命日らしく黒のスーツを着こなし、パンプスまで黒だ。
「お久ぶりです。珂李さん。今年もお線香を上げに来ました。」
にっこり笑って微笑むりん。
「1年間、元気にしてた?新しい彼氏はできた?」
毎年、同じフレーズが交わされる会話。決まって返事も同じ。
「まだです。トーヤを失って、少しづつ前向きには進み始めているんですけど。まだ、トーヤを忘れきれません。」
「・・・そう。どうぞ?入って・・」
中に入るように勧めると、仏間に赴くりん。
仏壇の前に正座をして座ると、お線香をあげ手を合わせている。しばらく、手を合わせて何か報告をしているようだった。気が済むと、珂李のほうを向く。
「今年もお線香を上げさせてくれてありがとうございます。」
いつもは、ここで終わる会話。だけど、今年は違う。
「りんさん。今日はこの後予定ある??」
「いえ。ありませんが・・・」
「トーヤが亡くなって今日で4年だね?6月10日の命日の今日、思いがけない訪問があってね。
トーヤに関係のある人が集まっているんだ。りんさんさえよければ、会ってみない?」
「トーヤに関係のある人たち?」
ちょっと考え込んでいたりんだったが、頷く。
「会いたいです。」
「ついてきて。みんなトーヤの部屋に集まっているんだ。」
りんを連れてトーヤの部屋に戻ると、今日会ったばかりの人たちなのに昔からの知り合いのように会話が弾んでいる。
珂李が部屋の中に足を踏み入れると、みんなの視線が珂李とりんのほうに向く。
「紹介するよ?トーヤの彼女、りんさんだよ。」
珂李が、みんなの自己紹介をする。
りんは、ぐるりと部屋を見渡すと一人一人の顔を確認する。
「トーヤはいつも孤独だと言っていたけど、こんなに友達がいたんだ・・・」
灯が口を挟む。
「少なくとも、私たち3人は、ちょっと違うかな?私たちは最近トーヤを知ったの。」
灯の会話は、聞こえていないのか同じような言葉を口にする。
「・・・でも、こんなに。トーヤは幸せだね?孤独じゃなかったんだ。トーヤは・・」
りんは、トーヤとの思い出に浸り始める。
・・・が、灯がりんを現実に戻し、“信じられない話だが・・・”と前置きした後で、今のトーヤの現状と珂李と蒼人にした事実を伝える。
「りんさん!トーヤの話を聞かせてもらうこと出来ますか?私たち、トーヤの全てが知りたいんです。
・・・トーヤを救ってあげたいいんです。」
灯がそう言い、トーヤを見つめると
『俺とりんの話しを聞いたって・・。』
ちょっと照れくさそうにしているトーヤ。りんはトーヤが、トーヤはりんが好きだった。もちろん今も好きでいるということが、窺い知ることができた。
「今日は、命日だし、みんなでトーヤの思い出を共有しよう。トーヤが無事に昇天できるように!」
拓斗がみんなの顔を見ると、頷き返す面々。それを、りんは見つめると、深呼吸を1つして決心したように話し始めた。
----------------------------------------------------------------------
りんと、トーヤが知り合ったのは、りんがトーヤのバイト先【食堂 KODA】に食事に行ったのがきっかけだった。
りんには、家が隣通しの幼馴染がいて、その日もその幼馴染の腹ごしらえに付き合ったのだった。
「安くて、美味くて、腹いっぱいになれる」
という言うとおり、食事は美味しかった。オーダーを取りに来た男性は、ちょっとぶっきらぼうな男性だったが、なぜかりんには気になる人物となったのである。
それから、りんは美味しい食事が食べたくなると、1人で食堂に行く日が増えていった。
もちろん店主とも顔なじみになり
「よう!りんちゃん、今日もありがとうな?」
と気軽に声をかけられる間柄になった。でも、トーヤは相変わらず。なかなか、りんには笑顔を見せない。
よく、トーヤを観察するとどの客とも仲良く話しすることはない。だが、店主やその奥さんと話すときは、穏やかな表情になる。
その笑顔に、りんはだんだん惹かれていった。トーヤの行動を目で追っていると、店主、古田純平に声を掛けられる。
「りんちゃん?トーヤのことが気になる?」
ぼそっと言われ、真っ赤になるりん。小さな声で、囁くように話しかけられる。
「トーヤには言わないよ?・・・うん、でもなぁ、トーヤに彼女でもできればあいつも変わるのにな?
俺たちが弟のように可愛がっても、あいつはどこか一線を引くからな?りんちゃんだったら、大歓迎!!
応援するよ。」
にっこりとほほ笑む純平に、りんは笑顔で返す。
そして、食堂に度々りんに、トーヤも次第に話すようになっていった。りんがこの店に通いだしてから、3か月も経ってからの事になる。りんが最初に食堂に来店したのは夏の盛りだったが、季節は移り変わり秋になっていた。
お客さんがいない時にお互いの事を話し、同じ年であることを知った。
学校での出来事、勉強なども気軽に話しできる間柄になった。
楽しいひと時を過ごすたびにりんは自覚する。
“やっぱり、トーヤの事が好き!!”
いろいろ、悩んだ結果、冬の最大イベント・・・クリスマスにトーヤに告白することを決意する。
昼の営業が終わり、夜の営業になるまで、3時間ほど休憩ができる。その時間にトーヤに時間をもらったりん。
「トーヤ!私の気持ちを聞いて欲しいの。
私、トーヤが好きなの。トーヤと一緒にいたいの。
もし、今、彼女がいないのなら、付き合ってください。」
「・・・りん。ありがとう。・・・でも、オレは付き合えない。
彼女はいないんだけど。今までも、彼女がいたことはないんだけど・・・・・。
ごめん!りん。オレ・・・りんは本当に大切なんだ。でも友達としか思えなくて。
・・・きちんと答えてあげられなくてごめん!」
きちんとした答えに、りんは振られたはずなのに、嬉しさがこみ上げてきた。真剣に向けられる言葉に。
そんなことがあっても、りんは食堂に通い詰める。
まっすぐなトーヤが好きで・・・
まっすぐなトーヤを見つめていたくて・・・
そんな思いが通じたのか、それから2か月後ー。
女の子にとってのイベントがまた、やってくる。
2月14日。バレンタインディー
その日は、りんは食事にはいかず純平に協力してもらい、裏口にトーヤを呼び出してもらった。
「振られたのは、分かってるんだけど、諦められなくて。
しつこくてごめんね。でも、トーヤが好きな気持ちは何ひとつ変わらないの。
受け取ってくれると嬉しい。」
そういって、小さな紙バックに入れた手作りチョコレートを手渡す。りんが、頑張って作った生チョコだ。
一瞬、びっくりしていたトーヤだったが。
「そうか?今日は、バレンタインディーだったな。帰ってきて、仕事していたら忘れていたよ。
りん。ありがとう。」
そして、受け取った紙袋。
りんが驚いていると
「しばらく待たせてしまって、ゴメン。
オレも、りんが好きになんだ。振った相手なのに・・・。今さらだよな?
・・・・・。りんに気持ちがまだあるならば、付き合ってほしい。」
その言葉に、涙を流すりん。
「泣くなよ・・・」
そっと、頬にふれたトーヤの指。
「泣かせるつもりもなかったのに。」
すると、裏口の扉が開く。純平の妻である明子だ。
ちょっと太めの笑顔の似合う女性だ。いつもTシャツにジーンズ、それにエプロンという姿だ。
「あら、あら、りんちゃん。トーヤに泣かされたの?」
顔を覗き込む明子。
「うふ。よかったわね?りんちゃん。
トーヤ!今日はお休みあげるわ。せっかく恋人同士になれた日に仕事なんかしている場合じゃないわよ?
今日はりんちゃんとデートしてらっしゃい?」
「えっ??でも・・・」
「なに、遠慮してるの?トーヤはいつもお休みしないんだから。
今日ぐらい休んだって、いいじゃない?純平さんには話しておくわ。
きっと、大事な弟に彼女ができた日に仕事なんかするんじゃない!っていうわよ?
りんちゃん、トーヤをよろしくね?大事な弟をこれからもよろしくね?」
ウインクまでみせる明子。トーヤはなかばあきれ顔だ。明子は話を続ける。
「トーヤの気持ちも、もちろんりんちゃんの気持ちも知っていたもの。
外は寒いから、リビングに案内してあげて?とーや!」
「はい・・・」
そういうと、2階の階段を上る。この食堂は1階が店舗。2階・3階が住居になっていた。
リビングに入ると、早速紙袋開け包みをほどくトーヤ。早速食べ始める。
「うまい。これ、りんが作ったの?」
「うん。受け取ってくれてよかった。」
ようやくりんの顔にも笑顔が戻る。
そうして、付き合い始めたトーヤとりん。バイトがない時は、一緒に喫茶店に行ったり、ウインドウショッピングを2人で楽しんだり・・・。そんな日々を送っていた。
あの、交通事故が起こるまでは・・・
「付き合って、4か月後にはトーヤは亡くなってしまったんです。
すぐには、知らされず・・・いきなり連絡が途絶えてしまって、古田さんと心配していました。
1週間すぎたある日、店に珂李さんが来て古田さんたちもトーヤが亡くなったことを知りました。
私は、古田さんから話を聞かされたんです。」
寂しそうに話すりん。そのりんを悲しそうに見つめるトーヤ。
りんと、トーヤを見つめて心を痛める灯。
「これから・・・という時にトーヤは亡くなってしまったんです。古田さんはショックのあまり店を休業するくらいだし、私も立ち直れずに学校に行くだけの日々を送りました。
やっと立ち直れた時には、もうトーヤの49日でした。」
沈んだ空気が部屋一面に広がる。沈黙を破ったのは、拓斗だ。
「りんさん。古田さんとは今も付き合いが?」
「はい。あります。」
「古田さんが今どうしているか、聞いても大丈夫?」
「はい。今は元気に、食堂をやっていますよ。
古田さん夫妻はトーヤの写真に毎日手を合わせ、お線香を上げていますよ。今も・・・・・。
古田さん夫婦にとって、トーヤは弟だったといつも言っています。
朝起きたら、トーヤに挨拶して一日が始まり、寝る前にもトーヤに挨拶しないと一日が終わらないと。」
珂李が話す。
「古田夫婦は、トーヤがなくなって話をして49日に夫婦してこの家に1回来たんだ。その時にトーヤの写真を貰いたいと言ってきて。うちには何にもなかったから、蒼人に相談したら、スナップ写真が見つかってな?
それを、蒼人と店に行って渡してきたんだよ。まだ、線香をあげてくれているとは。優しいな?」
「それは、そうですよ?古田さんは、毎日トーヤの食事を作っていましたから。1年半一緒に暮らしたんですから?
みなさんにお願いがあります!
・・・・みんなで古田さんに会いに行ってもらえませんか?
古田さんの喜んだ顔が見たいんです。」
りんが言うと、灯が答える。
「すべてが解決したら。」
そういうと、珂李と蒼人にも話したように今までの事をりんにも伝える。
「トーヤに会いたい・・・」
「オレも」
「俺も」
「みんなトーヤに会いたいんだね?時間をもらえますか?みなさん!
トーヤのお母さんの家族と会えるときに 何とかしたいと思っています。
もし、トーヤのお母さんが許してくれるなら、みんなで行きたいと思ってます。」
みんなで頷き、近い未来にトーヤに会いたいと願いながら顔には笑顔があった。
ここまで読んでくださった、みなさんありがとうございます。
コメント・評価などをしていただけると嬉しいです。
次回は、トーヤにゆかりのあった人々が全員集合する予定です。




