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悪霊が精霊になるとき  作者: 旬麗
11/19

11.大切なカケラ

話しが、長くなってしまいました。すいません。

最後まで、お付き合いくださると嬉しいです。

トーヤは、施設を出た後『榎元』という、父親の叔父にあたる親戚のうちに引き取られた。

父親の叔父といっても、父親とは5つしか違わない。

引き取るときも『誰も、引き取る人がいないから、俺が仕方ないから引き取ってやるんだ!』といわんばかりの大きな態度にトーヤは、心を開くことはできなかった。

酒に酔うと榎元は決まって、『お前の親父は、亡くなる直前までお前のことを隠していた。おまえのことが嫌いだったんだな!まさか、こんなに若くなくなるとも思わなかったが、子供がいるなんてな?!!』というのが、口癖だった。

毎回、同じことを聞くたびにトーヤは恐縮してしまい、父親はそういう人だったという、思うようになってしまった。


そんなトーヤを離れたところから観察している1人の男性の姿。

それは、ここ榎元家の長男、榎本 珂李(えのもと かい)だ。父が、トーヤの悪口を言うたびに胸を痛めていたが、父親に逆らうことは出来ずトーヤを見つめていた。

珂李は、トーヤの1つ上の先輩となる。中学生になった時に初めてできたトーヤの友達、島 蒼人(しま あおと)の事もよく知る人物だ。

蒼人とトーヤは同じクラスになったことで友達になったが、珂李と蒼人は中学の時の体育祭の係りが偶然同じになりそこからしゃべるようになり、仲良くなった。

しかし、トーヤが珂李の事を嫌っていることを知っているために、トーヤの前では珂李は蒼人に近づかない。

せっかくできた、大切な友達をトーヤ自ら手放さないとの配慮からだった。

高校に上がる前に、トーヤが榎元の家を出たいと申し出たときにも、一番最初に賛成したのは実はこの珂李だ。

「世間体が・・・」と渋る両親と上手く話しをつけ、トーヤの思いどおりにさせたのだ。

もちろん、トーヤはそんなことは知る由もない。

榎元の家を出ても、住まいや学費などの面で不自由が生じる・・ということも手に取るように分かっていた。

トーヤにとっていい条件のアルバイトもあちこち手を尽くして、探してきたのだ。

そして、それを珂李から告げることはなく友人である蒼人から「住み込みのいいアルバイトがある」と持掛けたのである。

蒼人が珂李に、どうしてそこまでするのかと尋ねたことがある。


「トーヤには、俺の親父が傷つけることばっかりしてな・・・

救ってやりたいんだが、素直に手を出すわけにも行かない。見て見ぬふりしてきてしまった。

・・・まぁ、トーヤへの罪滅ぼしかな?

トーヤには黙ってくれよ?あいつは、俺が嫌いなはずなんだから。」


「・・・・・・・・。

大丈夫だ!あいつには、黙ってる・・。」


蒼人の真剣な目を見ると、珂李は笑ってメモを手渡す。そこには、珂李の言った住み込みバイトの情報が書かれていた。

“食堂 KODA 店主 古田 純平

住み込みバイト募集 部屋6畳一間提供  バス・トイレ共同”


「一度、行ってみるように伝えてくれ。紹介者はお前ということになっている。こちらの事情は、全部話してある。相手側も納得している。あいつにとっては、いい条件だ。」


それだけ、伝えると去っていく珂李。


「・・・・・不器用なやつ・・」


ぽつりと呟いた言葉が、珂李の背中に届くことはなかった。


________________________________________________________________________________


季節は、初夏に移り変わっていた。

そんな思い出を必ずトーヤの月命日に、トーヤの使っていた部屋で話す珂李と蒼人。

珂李は黒髪の短い髪に細い目が特徴。蒼人はやや茶色の短い髪にすっきりとした顔だちをしている。

そして、ここトーヤの部屋は、6畳の和室の部屋に小さなテーブルと小さな箪笥が1つだけあるという殺風景な部屋である。


「トーヤと酒を飲みたかったなぁ。」


しみじみと珂李が言えば、蒼人が答える。


「いい奴だったぜ、あいつ。なんというか、まっすぐなやつで。

大事な友達だったよ。」


そんなことを話していると、突然なるインターフォンの音。玄関を開けてみれば、見慣れない3人が立っていた。


「ここに、トーヤが住んでいたということを知って、訪ねてきたんですが・・?」


「・・・・あなた方は、トーヤの何??

・・・話すことはない。帰ってくれ。」


背後から、珂李を呼ぶ声。


「どうしたんだ?!」


「トーヤの事を知り」


全部の言葉が、言い終わらないうちに遮られる声。


「拓斗先輩、どうしたんですか!!?

久しぶりです。あの時はお世話になりました。」


「おい!!お前の知り合いか??」


「昔のバイト仲間。」


「蒼人の知り合いなら、追い返す理由もないな・・・

今日は、トーヤの命日で、トーヤの事語り合っていたんだ。一緒にどうぞ?」


「・・・・で、蒼人。何か用事があってここに来たんじゃないのか?」


「あ!そうそう。飲み物の調達。」


「はいはい。部屋に持っていくから、待ってろ。」

________________________________________________________________________________


珂李は、飲み物を手に、トーヤの部屋に戻る。部屋には、蒼人、拓斗、灯、凪がいる。


「こんなに、あいつの命日に集まるなんてな?あいつが喜ぶよ。」


「トーヤの事で、話があるんです。聞いてもらえますか?」

灯が、いうとその後を拓斗が引き継ぐ。ここまでの話を、かいつまんで説明する。


話しが終わると


「信じられない話だな?でも、そうなんだろ?!」


珂李が言えば、蒼人が


「拓斗先輩は、ウソを言う人じゃない!」


と反論する。


「蒼人、疑ってない。安心しろ?トーヤがいるのが信じられないんだ。今もここにいるのか?」


4人のが、灯に向けられる。拓斗も今は、見えないようだ。


「蒼人さんの後ろに。いつもは拓斗さんの後ろにいるんだけど。

・・・・トーヤが笑ってるよ。初めて見た。トーヤの笑っているところ。」


「トーヤもオレの事、友達と認めてくれていたのかな?

トーヤとオレは、友達。中学の時に一緒のクラスになってからの。

中学のクラブも一緒だったんだ。高校も一緒の学校だった。でも、高校は1年間だけだったな?」


昔の月日を思い出すように、遠くに目をやる蒼人。

珂李が言葉を繋ぐ。


「・・・多分、蒼人はトーヤにとって、気の許せるただ一人の友達だったはずだぜ?」


トーヤが驚いた顔をしている。


「珂李は、いつもトーヤが心配で陰で見守っていたんだ。トーヤは気が付いていなかったけどな?

・・・トーヤとオレは席が、隣同士になって話し始めたのがきっかけでな。

話してみると、どことなく馬が合って・・。だけど、トーヤはたまに寂しそうな眼をするんだ。

それが、気になって。なんとなく力になれないだろうか?トーヤの心からの笑顔を見てみたいと思って。

気が付いたら、いつも一緒にいたよ。

楽しかったなぁ・・・。」


静かに告げられた言葉。トーヤが目の前に座っているかのように、グラスを持ち上げ乾杯するような仕草をする。

それとは反対に、うなだれる珂李。


「トーヤが寂しさを持ってしまったのは、うちの親父のせいなんだよ・・・。

いつも親父は、あいつの父親の事を悪く言って。そんな事を言われるたびに、あいつの表情は暗く、沈んだものになっていったんだ。救ってやれる方法は、あったはずなんだ!それなのに・・・。

でも、うちの親父はあいつの父親がいい奴だと思っていたらしい。あいつの心が、いつまでも父親に向けられたくなかったみたいだ。

あいつの父親から渡された手紙を渡すことができなかったんだから。」


そういうと、立ち上がり箪笥の中の小さな引出しから出された古ぼけた封筒。

表書きに


“斗哉へ 父、健斗より”

と書いてある。

「あいつの親父が亡くなる前に、あいつに宛てた手紙だ。

この封筒をみて、中身が分かったんだろうな?だから、渡すのに時間がかかってしまったようだ。

あいつが、突然事故で亡くなって、その日の夜中に親父はこの手紙を持ってこの部屋に入って。

夜中にこの部屋に入っていった親父をそっと開いたドアのすき間から見ていたんだ。

そしたら、静かに泣いていた。“ゴメン!トーヤ。お前にこの手紙も渡すことも出来ず・・・

・・・・なのに、苦しめて”ってな?オレ、初めて親父のなく姿見たよ。

俺の親父は不器用なんだ。もし、トーヤいるならこれを読んでやってほしい。」


『トーヤ!どうするの?』


『知りたい・・・』


『OK!』


灯は、トーヤと心での会話を終えると封筒を受け取る。


「トーヤは、知りたいようです。読ませていただきます。みんなでトーヤの父親がどういう人だったのか、見てみましょう!これで、もしかしたらトーヤの心の闇が解決できるかもしれない。

ここにいるみんなが証人になりますよ?」


そういうと、封筒を開け読んでいく灯。


“斗哉。友達とは仲良くしてるか?そして、大人たちの言うことを聞いて、いい子にしてるか?

今はまだ5歳の斗哉だけど、この手紙を理解するのはいつの日になるんだろうな?

5歳の斗哉でなく、大人になった斗哉を見つめながらこの手紙を書くよ。

多分、父さんの最後の言葉になるだろうから、よく読んでほしい。


斗哉が父さんの事好きだと言ってくれて、嬉しかったぞ。父さんも、斗哉のことが大好きだ。

お前の成長する姿を見るのが大好きだった。斗哉は、母さんのこと覚えてないかも知れないけど、母さんはすごく素敵な人だった。どんなに辛くても乗り越えていける人だ。そして、いつでも斗哉!!お前の事を考えてくれている。事情があって、どうしても母さんにはお前を育てることができなかった。

でも、いまでも斗哉!お前の事を愛してくれているのはわかる。

母さんを恨まないでくれ!憎まないでくれ!

今頃母さんは、斗哉を育てられなくて寂しがっているはずだ。


父さんは、お前の日々大きくなる姿、寝顔を見るのが大好きだった。どんなに大変でも、この日々が続くものだと思っていた。立派にお前が育つようにと頑張ったんだ。

だけどな?どういうわけか・・・病気になってしまった。ゴメンな。斗哉。

父さんの命は、あと1か月らしい。

大切な斗哉。手元に置いておきたかったよ。最後の命が尽きるときに斗哉!!お前を見つめていたかった。だけど、それはできないことなんだ。斗哉!ゴメンな。

大好きな斗哉!また、一緒に暮らすことを夢見ていたよ。大きくなった斗哉を連れて母さんに会いに行く約束をしていたんだ。

こんなに大きくなったんだぞって、立派になっただろうって母さんに、自慢しに行く予定だったんだよ。


施設に会いに行くと、いつも父さん目がけて走ってくる斗哉。あの、最後の面会の日は、忘れることができないよ。

こんなに大切な斗哉と離れなくちゃならないんだ。命が尽きるまで、ずっと見ていたかった大切な宝。

それが斗哉だよ?

こんな形でお別れはしたくなかったんだけどな?

許してくれ!力の足りない父さんでゴメン。

愛してるよ 斗哉”


それと、小さなメモも入っていた。


“母さんの名前を教えておく 植村 美華 大きくなったら探してくれ”


読み終えると、静かに手紙をたたむ灯。


「これが、あいつの父親か・・。親父が、この手紙をトーヤに渡せなかったのが分かるよ。」


ぼそっと珂李が呟けば


「でも、トーヤはこの手紙がなくても、自分の手で自分の道を切り開ける奴だぞ。あいつは・・」


と蒼人が強い声で宣言する。


「・・・・・・・・・・・いい命日になったな。」


トーヤはそんな会話を聞いて、嬉しそうにしている。


『こいつらに言っておいてくれ!俺の親父はすごい奴だったと自慢になったぞ。でも、もっと自慢したいのはお前らだと。』


そのまま、2人に伝えると


「トーヤは、俺に対して怒ってないのか?」


珂李が訪ねる。


「怒っていませんよ?むしろ、感謝の念しか感じません。本当の珂李さんの事を知り、喜んでいます。」


「トーヤの心が温かくなれば、昇天できるのも早くなるね?」


喜んで話す凪。

そうなのだ!昇天できるのも目の前のはず。

トーヤの事をそれぞれ思い浮かべ、静かな空気が流れていった。


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