10.いつでも、あなたの事を思ってる
美華は、斗夢・清哉・はるの三人のわが子を見て遠い昔を思い出す。
“斗哉は今頃どうしているのかしら?
幸せに暮らしているのかしら?
あの時、まだ赤ん坊だった斗哉も、もう二十歳。成人式は、無事に済ませたのかしら?
・・・かっこよくなって、彼女もいるんだろうな”
城山 美華は、トーヤの母親だ。トーヤを産み健斗と3人で大変だったけど、楽しく暮らしていた時の事をを3人のわが子を見つめるたびに、思い出す。
あの時、父親に連れ戻された美華。トーヤに会いたくなって、何度も家を抜け出そうと考えていたが、計画もことごとく失敗。
何度も、そんなことを繰り返しているうちに、とうとう両親から行動制限を言い渡され軟禁状態になっていた。
ほっとできるのは、自分の部屋にいるときのみ。自分の部屋に戻ると、わが子を思って泣き健斗に思いをはせて過ごす毎日だった。
友達との連絡も最小限しか許してもらえず、心から安心して出来る会話などなかった。
そんな毎日だったために、トーヤがあの後どういう暮らしをしているのか知ることもなかった。
健斗が亡くなったという知らせも、健斗が亡くなって数年がたった頃、友達伝えで聞いた。
若く健斗が亡くなったために、かなり苦労をさせてしまったことが心残り。それを、夫にも言えず苦しんでいる。
バタン!!
「ただいま。」
夫が帰ってきた。
「お帰りなさい。」
慌てて、笑顔を作り夫を迎えに玄関に行く。
「今日は、早かったのね?」
「そうだな?しばらく仕事が忙しかったから、今日は特別に家族の時間をもらったんだ。
それに今日は、記念日だろ?」
そういうと、後ろ手に隠していた花束が目の前に!
美華がきょとんとした顔をしていると、目の前の人物~城山 翔哉~が大声で笑い始める。それを聞いて、子供たちも玄関に走ってくる。
「お父さんどうしたの??」
「あ~!ごめん!ごめん!お前たちからも、お母さんに言ってやれよ?今日の記念日の事・・・。」
「え~!!お母さん!!!今日何の日か、本当に、分からないの??」
末っ子のはるが、驚いた顔をして聞いてくる。
「今日って何かあった?」
斗夢も清哉も呆れた顔をしている。
「まずは、リビングに行こうか?」
大きな手で三人の子供たちの頭を撫ぜ、リビングに連れて行く翔哉。すると、最初に話すのは、はる。
「お母さん、最近ぼーっとしてるもん。」
小学1年生になったばかりのはるは、言葉が達者。その言葉を聞いた夫は
「そうか?・・だから、こんな大事な日も忘れちゃったんだね?」
と言葉を繋げる。
「お母さん!今日はお母さんの誕生日だよ♪おめでとう!お母さん」
はるが、お祝いの言葉を告げると、あっ!!と合点がいく美華。
「そうだった。今日は私の誕生日だった・・。翔哉さん!ありがとう。
それから・・・・はる、斗夢、清哉もありがとう♪」
その後、みんなで食事に行くと誘われ、外食して帰宅する。
子供たちが、寝静まった頃翔哉とワインで乾杯し直した美華。
「今日は、ありがとうございました。すごく嬉しかった。」
「うん。いいんだよ?
・・・ところで、最近美華はどうしてぼーっとしてるのかな?
考え事?話せば、すっきりするよ。」
優しく声をかけられれば、泣きたくなってくる。
その表情を見た翔哉は、トーヤの事だと思い至る。
「・・・トーヤ君のことだね?
子供たちが大きくなるにつれ、会いたくなったかい?
今、いくつになってるんだっけ?」
驚きを隠せない美華。だけど、決心したように答える。
「二十歳です。」
「成人を迎えたんだね?
調べてみようか?トーヤ君のこと。
子供たちは、お兄ちゃんが増えれば大喜びだよ?
・・・・・・・会うのが、怖い??」
「いえ。そんなことは・・・」
「あの時、美華は教えてくれたんだよ。自分にはとても大切な人がいるって。
生涯大切にしたい人は、私の知らない間に散ってしまったけど、生涯守ってあげたい人がまだいるって。
だから、結婚もしたくないんだと。
・・・だけど、結婚を断ったらその守ってあげたい人とも一生会えなくなるからと迷っていただろ?
それを、無理を言って結婚したのは俺だし。美華の事、知りたくて調べてしまったんだよ?その時に、トーヤ君の事が分かったんだ・・・悪かった・・・
だけど、トーヤ君のこと俺だってずっと心配してたんだ。美華は、話してくれないし。
・・・会いたいなら、会いに行けばいい・・・
守ってあげたい人がいるってことは、素晴らしいことだよ?トーヤ君だって、美華の子供だろ??
トーヤ君の事調べよう!」
「いいの?私がトーヤと会ってもいいの?」
そーっと涙をこぼし、翔哉に問いかける。
「もし、美華が自分から言って来たら、反対はしないで快く会わせてあげようとずっと、思っていたことなんだ。
・・よくここまで、我慢したね?」
とうとう、涙をこらえきれず泣いてしまった美華。
「ほらほら・・・。泣いてたら、トーヤ君に笑われるよ?
しっかりトーヤ君と向かい合って話をしなきゃならないんだろ?」
優しく頭をなでる手が心地よかった。
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それから、半月もたった頃翔哉に手渡された封筒。
「・・・ごめん!もっと早く動いていればよかったんだけどな。」
中身を見るように促された美華。見るとトーヤの調査報告書だった。
「えっっ?!!死んでるって・・・」
その場に座り込んでしまう。足に力が入らなくなったのだ。
「・・・・・・亡くなって・・・4年も経つのね?
・・・・せめて・・お墓参りだけでも・・・いきたいわ。」
ぽつりと小さな声で呟くのがやっと。
「その墓が特定ができないんだよ。
・・・調べて見つかったら家族でトーヤ君に会いに行こうな?」
優しい翔哉の言葉に声をたてて、泣き出してしまった。
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そして、一週間後。城山家には見慣れない来客が姿を現した。灯と凪だ。今日は、拓斗は一緒ではなかった。
ここ、城山家は彩加と歩生の精霊の導きで訪れたのだった。
インターフォンを押すと、やわらかい声で返事が聞こえる。
「初めて来させていただきました。私は、佐山 灯といいます。
・・・実は、トーヤ!・・・長谷川 斗哉君と言う方を城山さんは、知らないでしょうか?
もし、知っているのでしたら、是非お話をさせていただきたくこちらに寄らせていただいたのです。」
「・・・・・トーヤ?!トーヤって??トーヤの事知ってるの??」
バタバタという足音と共に、バタンと勢いよく玄関が開く。
灯たちが勢いよく開いた扉に驚いていると
「ごめんなさい。」
トーヤの面立ちによく似た女性が立っている。
「まずは、中にどうぞ。」
リビングに案内される、灯と凪。今日は拓斗は一緒じゃなかった。
しばらくすると、いい香りの紅茶が運ばれてきた。
「嫌いじゃなければ、いいのだけど・・」
「いえ。いただきます。」
灯も凪も微笑み、1口啜ると幾分安心した美華。
「突然、お邪魔してしまい申し訳ありません。
・・・早速ですが、城山さんは、トーヤの事ご存知ですか?」
話しを切り出すと、はっと顔を上げる美華。
「知っているも何も・・・・
・・・私は、そのトーヤの母です。」
背筋を正し、灯の瞳をまっすぐ見つめて答える美華。
「よかった~!たどり着けました。
・・それと、敷産婦人科はご存知ですか?河田さんは?」
「知っています。私がトーヤを産んだ病院です。そして、河田さんは、私がお世話になった看護師さん!
・・・・懐かしいわ~。河田さんは、お元気かしら?
あの後、一度も会っていないわ。」
寂しそうに、けれど河田の話の時はふわっとした笑顔で話す、美華。
すると、美華の前に差し出された封筒。
「河田さんからのお預かりものです。トーヤ君の事を聞きに行ったときに、もしトーヤのお母さんに会うことができたら手渡してくれと言われました。」
「ありがとう。
・・今、これを読んでも??」
「私は、お預かりしただけなので、内容はわかりません。
お母さんが、今読みたいのであれば、どうぞ♪」
美華は手紙を読み始める。すると、いきなり泣き始める。
「どうかしましたか?」
「・・・灯さんと・・・おっしゃったかしら?
・・・文字が・・・ぼやけてしまって・・・
読んで・・・くださらない?・・」
「はい。」
手紙を受け取ると、読み始める。
“美華ちゃんへ
美華ちゃん、あれから随分月日が流れました。
どう、過ごしていますか?
母は、いつでもあなたが心配で、あなたが幸せになっていてくれることをいつまでも思い続けています。
あなたの健気な姿に心を打たれ、あなたの人生が切り開かれることを願っていた20年前。
あなたがそっと流した涙と笑顔は、私の瞼に焼き付いています。
美華ちゃんからの手紙は、宝物となりいつまでも私の手元にあります。
美華ちゃんが、幸せになってくれるようにとの願いをいつもこの手紙に願掛けして、いつも持ち歩いています
。
もし、美華ちゃんが、自由に過ごせる時間があるならばこの母と話す時間は作れないかしら?
あなたの元気な声が聞きたい。
河田 雪子”
手紙を読み終えると、泣いている美華に近づき声をかける。
「河田さんは元気にしています。」
「良かった!・・・ありがとう。・・・この20年間・・・河田さんのことは・・・斗哉と同じで忘れたことなかった。
・・・先日・・・斗哉が亡くなっていたことを・・知りショックを受けていた所です。
・・・・主人も斗哉の事は・・知っているので、河田さんのことも話していきます。」
美華の話を聞いた灯は、美華の瞳をまっすぐに見つめながら答える。
「最初に、話しておきます。私には悪霊と言うものが見える体質なのですが、最近私の周りにその悪霊の姿が見えたので、その悪霊を調べていくと名前が、長谷川 斗哉 ということが分かりました。心の闇が深くて、悪霊になったことを突き止めたんです。そうなんです。トーヤ君なんです。
何とかして、昇天させてあげたいと思い、トーヤに関わりがあるところを調べているところです。
・・・今日までに、敷産婦人科、トーヤが預けられた施設に伺い話を聞いてきました。
しかし、そのどちらでもトーヤが心の闇を背負うものはなかったのです。
お母さんがトーヤと離れた後、お父さんは一生懸命にトーヤを愛して育てていました。しかし、お父さんが病気になってしまい、やむなく施設に入れたのです。手遅れ状態だったこともあり、亡くなってしまったと聞きました。
そのあと、お父さんの兄弟である家に引き取られたらしいのですが・・・。
そこで、トーヤに何かがあったようです。
・・・中途半端なことしか言えなくてすいません。」
「いえ。いいんです。少しだけでも、情報がもらえるのなら。どんな些細なことでも、聞きたかった・・・」
「・・・斗哉の亡くなった原因も知ってるのかしら?」
「交通事故です。1人で歩いているときに車が突っ込んできて、即死でした。最初は、死んでしまったことも理解できなかったようです。」
溜息を吐くと美華は話し始める。
「ありがとう。すこしは、あの子の事がわかったわ。
・・・・私は、ダメな母親ね?何からも助けてあげることができなかった。
でも、斗哉のことは、忘れたことはなかったわ。植村から、城山になっても過去を忘れないようにと斗哉の事を忘れないようにと、城山との間との子供に斗哉の一文字をもらいつけてしまったくらい。
長男は斗夢。斗哉の“斗”の字を貰い、二男の清哉には斗哉の“哉”の字を貰ったわ。3人目は、女の子で・・。
みんなに春が来るようにと、ひらがなで“はる”になってしまったけれど。」
「一時もトーヤを忘れたことがない証拠ですね?トーヤも喜んでくれるでしょう?
「斗哉に会いたかった・・・」
ポツリとこぼれた言葉。その言葉をまっすぐに受け止める灯。
「お母さんに区切りがついたらまた来させていただきたいと思いますが・・・?
その時には、私に連絡を頂ければ。」
そういって、灯はカバンの中から、メモを取り出し連絡先を書くとそれを破って、美華に手渡す。
「今日は、これで失礼します。」
外に出ると、ランドセルを背負った子供たちが今出てきた城山家に、入っていくところに出くわす。
あの子供たちが、トーヤの兄弟なんだろう。
凪が口を開く。
「素敵なお母さんだったね?トーヤに会わせてあげたいね?」
「会わせたいと思ってる。親子だしね?
トーヤの心は必ず救われる!」
決意が確信に変わった瞬間だった。




