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ポジティブ×ネガティブ

作者: ラリえもん

初めまして、初投稿です。執筆経験全く無しでブログすらやらないド素人です(汗)


小説を意識したつもりが何か少年漫画にありそうな話になってしまいました


軽い感じで読んで頂けたら幸いです

そこはどこにでもある高校のグラウンド


春休み明け最初の土曜日とあって春うららかといった陽気だ、グラウンド脇の草むらには蝶が二匹じゃれあう様に飛んでいてグラウンドの外では付き合ったばっかりと思われる高校生カップルがイチャついてる


「お前ら何なんだこのザマはっ!!!」


そんな穏やかな空気をぶち壊す雷、いや厳密にはオッサンの怒声、まさに青天の霹靂


「幾ら相手が県大会ベスト8とはいえどんだけ打たれれば気が済むんだお前らは!バッティングセンターじゃ無いんだぞ!」


・・・まぁごもっともとしか言いようが無い、まだ6回なのにこの先頭打者の顔を見るのは・・・何回目だろう?


改めて状況を説明しよう、今は春休み明けの最初の土曜日、ここはとある高校のグラウンド、ここまではさっき説明した通り


そして俺の名前は田中次郎、日本で3番目にメジャーな大体クラスに一人はいそうな苗字とその家の二男坊だからっていう今時逆に珍しいネーミングセンスを持った親に育てられた高校2年生の男子、ちなみに兄貴は卓球部の部長


そしてかくいう俺は野球部のピッチャー、そして今の状況は・・・大炎上だ


だけどそんな状況を切り抜けるのが背番号”1”を背負った者の務め・・・と言いたい所だが俺の背番号には”1”の横に”0”が付いている、ちなみに女房役の佐藤三郎の背番号は”1”の横に”1”が付いている、ちなみに彼は長男だ


・・・そう、俺達はレギュラーでは無い


「アイツ等は・・・黒井と白井はどうした!」


黒川と白井、この二人がウチの正バッテリーだ、実力は間違いなく折り紙付きだ、だけど・・・何でよりにもよって学校で不動の1、2の称号を持つコイツらがウチのエースと4番なんだ?


「・・・黒井も白井も生活指導に呼びだされてます」


「・・・全くアイツ等は・・・というかもう終わっている筈だろう、誰かアイツ等呼んで来い!」


コイツは監督の鬼山、通称鬼軍曹、ここまで苗字と性格が一致している奴も珍しいだろう、今時天然記念物級の体育会系だが今回はコイツの言う事に賛成


「スイマセ~ン、遅れました~」


と言いつつ視線は斜め下の携帯に向いている金髪ピアス、そう、この高2にしてホスト崩れみたいな雰囲気を醸し出すこの男が白井光、ウチのチームの正キャッチャーで4番、通称”ポジティブペテン師”、とにかく人をその気にさせるのが上手くこの間も駅前で他校の女の子をナンパしてた所をウチの教師に見つかり生活指導に呼び出されたという始末だ


「いやね~、指導自体は適当に丸め込ん・・・いや、すぐに終わったんですけどコイツが中々動こうとしないモンで・・・」


そう言う白井のケータイを持っている手の反対の手には人間大の人形・・・いや、ホントに頭を抱えてる人間の襟首を掴んでいた、そう、この人形以上(以下?)に生気というものが全く感じられないこの男こそがウチのエース、黒井冥だ、この男、相方に比べるとかなり控えめだ・・・というか控えめ過ぎる!この男の場合”そこ”が問題なのだ


「すいません!すいません!ごめんなさい!許して下さい!!助けて下さい!!!もう帰らせて下さい!!!」


そう、この男、超ドネガティブ人間なのだ。この男、相方とは違い普段の素行は決して悪く無い、何故この男が生活指導に呼ばれたのかというと・・・


「ホントにすいませんでした!鬼川先生に雑誌投げつけて・・・殺されるかと思ったんです」


後に”鬼退治事件”と呼ばれるこの事件、経緯はこうだ、生活指導の鬼川、ウチの鬼山に対して”地獄の門番”と呼ばれる程恐ろしい男、その由来の通り週一で校門の前で服装、持ち物チェックを行っては何人もの生徒を指導室送りにしている


その日も鬼川は愛用の竹刀を片手に校門の前で仁王立ちしていた、そして鼻息荒い鬼川の最初のカモが遅刻を恐れるあまり1時間前には確実に登校してきた黒井だった


服装チェックでは問題なかった、しかし朝一の飢えた獣・・・じゃなく鬼川が初っ端から”問題ナシ”で済ます筈がなかった、黒井のカバンをチェックしその中から野球雑誌を探し当てた


無論雑誌といっても野球雑誌なんて健全なモンだ、それでも鬼川はまるで鬼の首を取った様な形相で黒井を見下している、自分が鬼なのに


「これは何だ~黒井!学校にこんな物持ってきていいのか、あぁ!」


「ヒィィ!御免なさい!でもこれ投球フォームの参考になるから・・・別にマンガとか載って無いですから・・・許して下さい!!」


「いいや、こんな授業と関係無いものこの場で処分してやる、こっちに寄こせ!」


迫る鬼川、まさに鬼、そして既に茫然自失状態の黒井、そして鬼川の右手が雑誌を奪いに動こうとしたその時


「うわぁぁぁぁ、殺さないでぇ!!!!!」


その叫び声と共に黒井の右手から雑誌が離れ・・・鬼川の顔面に直撃した!


「ぐえっ」


潰れた蛙みたいな声を上げた1秒後鬼川気絶・・・まぁ今回は鬼川がやり過ぎたという事と黒井が混乱状態だったという事もあり今回は厳重注意という事で済み現在に至る・・・これが”鬼退治事件”の全貌だ


「・・・もういいっ!さっさと着替えて・・・ってユニフォーム着てるな、オイ審判、選手交代!」


6回表、既に6点差の危機的状態、しかしそんな絶望的な状況も全て飲み込んじまう白と黒の”混沌”がこれから始まる


「・・・素晴らしい、素晴らしいよお前らこの状況!こっから逆転なんて最高のエンターテイメントじゃないか!なぁ皆」


味方、敵、そしていつのまにか集まってきたギャラリー、誰彼関係無しにいきなり大風呂敷を広げる白井、それとは対照的に生気の欠片も無くマウントに上がる黒井、まるでお通夜だ


「おいおい、お前相手を見て物を言えよ・・・ってかお前ん所のピッチャーマジで大丈夫か?」


敵チームに心配されてちゃ世話がない、しかしあくまで白井は余裕だ


「まぁ見てな、とっておきのサプライズを用意してあるからさ、腰だけは抜かさないでくれよ?」


そう言った後ミットを構える白井、サインは特に無しだ、そしてひとしきり独り言を呟いた後やっと投球フォームに入る黒井、あくまで生気は感じられない、そして・・・


「・・・おい、何だよ今の球・・・てか今投げたのか?」


そう、それは挙げた手を降ろす様に・・・静かな投球フォームだ、そしてその手から放たれた球はまるでブラックホールに吸い込まれる様に静かに・・・そして速く白井の構えるミットに収まった


「おいっ!今の球・・・160位出てるんじゃないのか?」


黒井の球は速い・・・が、実際の所黒井の球はベストで140台前半だ、流石に160は出て無い・・・が、バッターボックスに立っている相手選手にはそう感じるだろう、俺も初めて部内試合でコイツ等とやった時そう感じた、それには幾つかトリックがある


「へへへ、この程度で驚いてもらっちゃ困るぜ、ショーはこれからだろ?なぁ皆!!!」


その白井の掛け声に共鳴する様に湧くチームメイト、そしてギャラリー。これが一つ目のトリック、白井のやたら自信過剰な態度と初球から内角ギリギリ・・・下手すればデッドボール寸前のコースを狙う強気なリードに勝手に相手がビビるのだ、そして・・・


「あっ・・危ないよあんなコース」


投げた本人が言ってりゃ世話が無い・・・てか周りがこんなに盛り上がってるのにド真ん中のコイツはやっぱ暗い・・・しかしコレが”二つ目のトリック”なのだ


「何であんな暗い奴があんな速い球投げるんだよ!」


そう、誰が見ても超ネガティブインドア系、なのに投げる球は速球、このギャップが相手の感覚を狂わせるのだ、そして”最後のトリック”それが・・・


「ストラーイクッ!」


「えっ?いつ2球目投げたの?」


黒井の投球フォーム、実際は全身のバネをフル活用して投げているにも関わらず傍から見ると殆ど動作というものが感じられない、つまり・・・投げるタイミングが読めない、だから相手には突然球が飛んできた様に感じるのだ


「おいおい、よそ見してていいのか?3球目投げるぜ?」


「わっ・・・解ってるよ、嘗めやがって!」


もうこうなったら奴の・・・奴らのペースだ、白と黒の混沌に相手は完全に呑まれてる、そして3球目、黒井の手から放たれた球は・・・


「この野郎・・・って遅っ!」


振り切ったバットの横を悠然と通り過ぎてミットに入る球、これで・・・


「アウトーッ!バッターチェンジ」


という事だ、黒井は速球も遅球も変化球もほぼ変わらないフォームから投げる、だから相手からしてみればギリギリまで何が来るか解らない、そしてそれらは超一級品、そう、見た目こそこんなだが間違いなく黒井は県内でも5本の指に入る実力派ピッチャーだ、そして白井のリードも


「ストライーク!」この言葉が6回、結局ボール球は一度も使わなかった


「チェーンジ!」の掛け声と共にこっちのターン、打順は4番白井から、ショーの第二幕の始まりだ


「おいおい、お前等野球のルール知ってんのか?6点差だぜ?このままいくと例えこっちが点取れなくてもお前らが点を俺ら以上に上げないと勝てないんだぜ?取れんのか、この俺から!?」


相手ピッチャーの八潮、県内ベスト8のチームのエースで打順は八番、彼は大家族の8男らしいがそれはどうでも良い話


「おっ、良く解ってんじゃねぇか!関心関心、じゃぁ復習だ、これから俺自らが実践指導してやるからチャッチャと投げな!」


前哨戦は白井の勝ち、ワナワナと震える八潮


「フッザっけるなぁ~!!!」


怒り任せの直球、流石に県ベスト8のピッチャーだけあり結構な剛速球を投げる、こいつのお蔭でこっちは今の今まで完封状態、そう、今までは・・・


キーーーーーーーン!


将に春雷、青天の霹靂(相手にとって)の如き音を立てて球は空の彼方へと飛んで行った


そして・・・見事柵越えホームラン


「何でだ!何故あの球が打てる!」


納得行かない八潮に対して白井が一言


「そりゃそうさ、アンタも俺に乗せられて今日一の球を投げたんだ、投げて来る球が解ってたからそれを思いっきり打ち返しただけさ」


遊々とベースを回る白井、ホームインにはバク転なんかしちゃってる


そして次のバッターは黒井、白井に致命的なダメージを与えられ意気消沈の八潮、元々ネガティブで引っ込み事案の黒井、二人の対決の結果は・・・


「フォアボール!」


そう、さっき白井に打たれたショックと黒子のあまりの無気力さに完全にペースを乱した八潮はボールを連発、結局黒井は一度もバットを振らなかった


白と黒、二人の洗礼を浴びた八潮のその後は酷い有様だった


白井に勢いづけられたナインの前に集中砲火を浴び8回表で遂に逆転を許してしまった


しかし流石は名門校のエース、その後はコンディションを戻したピッチングで持ち直す


八回裏、九回表と両校無得点のままいよいよ相手校の最後の攻撃


今の所7対6でこちらがリード、しかし心配なのはこれからだ


白黒カ混沌の最大の弱点、それは・・・相手が除々にこの混沌のペースに慣れていく事だ


流石に地力で言えば向こうが上、黒井の球も少しずつ打たれ何とか2アウトに持っていくも3塁にランナーを背負う状態になってしまった


ここで相手バッターは代打打田、守備はからきしだがバッティングはチーム一という凄いんだか凄く無いんだか解らない男


「何かエラい苦戦してますけどここで一発決めたら俺ヒーローですよね~」


何か白井みたいな事を言う奴だ


「残念だけど君はサブキャラ、だって主役は俺だもん」


白井も負けてない


「あの~、始めちゃっていいですか?」


あくまでネガティブな黒井


そして第一球、例によって何の前触れもなく突然飛んでくるストレート


しかし流石に向こうも目が慣れた様だ


鈍い音がしてボールはバックネットに包まれた


「慣れちゃえばちょっと速い普通のストレートじゃないですか、次は前に飛ばしますよ~」


と打田が言えば


「いいねぇ、やっと噛ませ犬になりそうなのが来てくれたよ、今までのじゃ噛ませ鼠程度だったし」


やはり負けて無い白井


続く二投目、三投目、四投目までも黒井はストレート、但しこれは外角過ぎてボール球


「おやおや、オタクのピッチャーもウチのみたいに壊れちゃいました?」


八潮がムスッとした顔で打田を睨む


「いやいや、今のは君の視力検査だよ、これ位の選球眼が無いと俺達の必殺球に付いて行かないだろうからさ」


飽くまで余裕かつ上から目線の白井


五球目、黒井の球筋は同じ・・・と思いきやここで球は打田のバットに方向転換する


慌てて反応するも結果はファール


「・・・ストレート、チェンジアップの他にまだこんなの持ってたんですね、でもこれでお互い王手だ」


「いいねぇ、アンタ最高のヤラレ役だよここまで盛り上げてくれるなんてさ」


余裕の白井


「でもさっきのシュートも見切った、アンタ達の必殺技もこれで終わりだ!」


自信満々の打田、2ストライク3ボール、これが最後の一球


緊迫の空気の中最後に黒井が投げたのはやはり外角コース、無論打田のシュート対策は完璧だ


「さぁ来い!」と打田・・・がその結末は誰もが予想しなかった事だった。


変化の直前まで見えていた球、その球が消えたのだ、訳も分からずガムシャラにバットを振った打田、無論当たる訳がない


「バッターアウト!ゲームセット!」


暫くの静寂・・・を破ったのは打田の発狂だった


「畜生、騙された!」


「いや~誰もシュートが必殺技何て言ってないだろ、最後に投げた球、あれこそが黒井の消える魔球、”ブラックゴースト”だ!」


高らかに宣誓する白井、対照的に疲れ切っている黒井、なんか消滅しそうだ


「・・・何が消える魔球だよ、あんなのは・・・」


「でも確かに”消えた”だろ?」


ニヤリと笑う白井、そう、確かに球は消えた・・・しかしそれはこの世から消えた訳では無い、が、打者の視点からは”消えている”のだ


ももう少し具体的に説明しよう、外角もコースを走った球、そこで確かに球筋は変化したからだ・・・が、それは打者側では無い、”逆側”に逸れたのだ


つまり・・・外角からカーブした球、つまりは・・・超ボール球だ


一方この最高潮に盛り上がった状況の中まさか”超ボール球”が来るとは思いもしなかった打田は訳も分からずバットを振ってしまった訳だ


とは言え勝ちは勝ち、皆が黒井を胴上げする・・・がなんかそのまま昇天しそうな位無気力・・・てかコイツ気を失ってないか?


対する白井は早速ファンの女の子達にアピール、同じバッテリーなのにどうしてこうも違うのか?


とは言えやはりこいつ等”本物”だ


「このまま甲子園、プロ、いや、メジャーまで突っ走るぜ!」


何を言い出すんだと思いつつ体の内側がやたら熱いと感じた春の日の午後だった。

































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