(2)
こんばんは!ここまで高校野球のピッチャーの配球に今年から変化が見られます。以前は、外角一辺倒で、押さえているときはいいのですが、ピンチの時は打者に踏み込まれて痛打されるケースが多々ありました。今年は、ピッチャーが内角を攻めるケースが増えてます。特に本格派の投手に傾向が強いです。後は去年から、右投手のチェンジアップとツーシームを投げる傾向が増えてます。いわゆる、左打者にとって外へ逃げる球です。ツーシームはシュートに近い球で松井秀喜選手がメジャー1年目に苦戦した球です。
そうやって見ると面白いですね。
読み終わられましたら、感想、評価、ポイントを是非ともお願いします!アクセスは増えてますがどうなのかわかりませんので宜しくお願いします!
「ようやく、やる気になった訳だ」
真っ暗闇で出会ったら、歯だけ光ってそうなくらいの白い歯で笑いながら、速見監督は言った。
「我が県のことご存知でしょう?橋村悟知事様のお陰で、公立高校は大パニックですよ。出来て20年以下の学校はどこにも頼れないですから、みんなびくびくしてますからね。で、末端にいる私にまで影響があったのですよ」
私と速見監督はコンダ野球部の専用球場のベンチに座りながら会話をしていた。視線の先には防具を着けた並川大樹がウォーミングアップを終えていた。他には、コンダのコーチ陣が並川の様子を見ながらキャッチボールの相手をしていた。
「ほおーッ、キャッチボールだけで雰囲気だせるのか、あの子。しかし、あれだけのモノ、よくどこの網にも引っ掛からないでくれてたもんだ」
速見監督は、目を細めながら感心したように言った。
「私の前任は何もしないままでしたからね。そちらで採用して頂いて磨きをかけてもらえればありがたいのですが」
「大学には?」
「学力的には支障がないですが、本人が早く働きたいと。母子家庭という事情もありますがね」
私の話に監督は頷いた。
投手役のコーチがワインドアップから上手から投げた。並川は素早く2塁に投げた。低い弾道を描くように2塁ベース左角ギリギリのところにショート役コーチのグラブを動かさずに届いた。並川はなんと5球連続で同じところに投げた。
並川、いつも肩は感心するが、今日は絶好調だな。緊張がほぐれて出来ることをちゃんとやっている。良子を弄った甲斐があったぜ。
「いいなあ。タイムも1.76か。大輔、決まりだ。一応は他のコーチ陣にフィールディングとバッティングは見てもらうよ」
監督は、コーチ陣にどうだとサインを送るとOKサインが出た。頷くと手で大きな〇のサインを出した。
「他はいいんですか?」
「お前はどう思ってんだ?」
私は、逆に聞き返えされた。
「フィールディングは問題ないです。むしろ、標準以上です。後ろに逸らすのも少ないですし、課題はバッティングですね。引っ張りが苦手です」
「お前がそう思ってんならそれで十分だ。バッティングなんかどうにでもなれる。だが肩の強さは別だ。お前んとこの子は凄いな、別格だ」
監督は白い歯を見せた。
「次は、お前の本当の目的だ。ついてこい」
監督にそう言われ、ついて行った。
向かった先は、監督室だった。監督はドアを開けると一人先客がいるようだった。監督に続いて、私も失礼しますと声をかけて中へ入った。
「大輔、久し振りだな」
私に声をかけた人物は、私が一番会いたい人物でもあった。
「谷本さん、お久しぶりです!」
私は満面の笑みで握手をした。
谷本誠四郎総務部課長代理、スカウト兼スコアラー。私の先輩である。選手時代はクリーンアップを組んでいた。確実な攻守が持味だったがアキレス腱のケガが元で現役を引退した。最初はコーチだったが前任者の引退に伴い転向した。アマ球界の事情に詳しく高校野球関係者と太いパイプを持っている。
「お前のリクエスト通り、来春、高校進学予定の関西のシニア、ボーイズなどの中学生リストだ」
このリストは、毎年、私学の野球関係者が選手勧誘の目安として使われている。そこには、身長、体重、遠投距離、利き腕、左右どちらかの打席。投手は投げ方、球速、コントロール、守備。打者は打撃、守備、走塁のランク別に分類。実力のランキングは特A.A.B.Cと記されていた。家族構成もかかれ、私にとって十分だった。
「大輔、まさか買うのか?」
谷本さんは怪訝な顔をした。私は苦笑いを浮かべながら首を横に振った。
「ウチはそんな金ないですからね。狙いは、不動産屋でいう訳あり物件ですよ。行きたくてもいけない子を狙うしかありません。特待生でも遠征費やユニフォーム代、その他諸々は全くただという訳にはいきませんよね。親御さんの懐加減も加味しなきゃなりません」
「親御さんって、母子家庭とかのことか?」
谷本さんに聞かれ、私は頷いた。少し考えたあと監督と谷本さんは、私の意図がわかったのかニヤリとした。
「お前、ハローワークにでもコネがあるのか?…待てよ、お前んとこの、知事のトップセールスでコンダ(ウチ)の部品メーカーやエコ関係の企業誘致が相次いでいるな。なるほどそういうことか」
「ええ、知事のやる政策に振り回されるばかりを嘆くだけではね…ぇ。こちらも利用させて貰わないと」
~~~~~~~~~~~~~~~
時計を見た。あと10分だ。目の前にいる女子高生は、適性検査の課題を一生懸命に頑張って記入していた。なるほど、小林さんが連れてくるだけはある。面接でも臆せず堂々と答えていた。工場長と総務部長は後から聞いたらOKだった。
小林さんがこの娘に求めていることは、自分たちの野球部の女子マネとしてのフォーマットを確立して後輩に引き継ぐ事。この娘のパーソナリティーならそれができると確信しているから。
わたしが、小林さんなら、この冬の間に野球部としての形作りをして来年3月の試合解禁日にはチーム力強化に集中できる体制に専念したいはず。来年4月の新1年生に引き継ぎが円滑にすすめる。煩わしい問題を出来るだけ少なくして置く。
甲子園出場は再来年夏から秋の地方大会にチャンスがくると踏んでいる。机上の空論と思われるかも知れないけど、永井部長が以前に野球部を引退して社業に専念した場合、誰よりも出世できて自分より上層部に入れると買ってらっしゃってた。それに何より、天性の勝負強さ。都市対抗、日本選手権でいずれも優勝を決めた決勝打。国際試合でもここ20年アマ相手に負けたことがないキューバから、9回満塁でカウント0-3から逆転サヨナラ満塁ホームランを打ったわ。お陰でキューバ野球界は大混乱。試合後、国からの処罰を怖れて監督は夜中に宿舎のホテルから亡命。主力の何人かも同じようにアメリカのスポーツマネジメント会社の手引きで逃亡。後年、キューバの首相閣下は笑いながら『キューバ危機よりもショックだった』と言わしめた。
でも、打つだけじゃない。勝負どころでの積極果敢な走塁や守備で味方を鼓舞する姿勢。ベンチで見ててどれだけ心強かったか。本人は無関心な振りをして何も言わないけどね。
今日は、この子達にその話をしようと思ったのに・・・。昔っからそうだった!さっきの写メといい、ドームに初めてベンチに入って感激してた時に知らない間にわたしの席にブーブークッションを仕掛けたり、子どものイタズラより質が悪いわ!ホントにもう!
【ピピッ!ピピッ!ピピッ!】
ふぅ〜っ終わった。久しぶりに緊張した。時々だけど勉強しておいてよかった。一応は10分前に終わったんだけど、見直したりしたらちょうどいい時間。
時々、榊原さんをチラッと見たけど、本当に綺麗な女性。働く女性だ。でもそれだけだったら怖そうな女性だけど、小林先生に妙に突っ掛かっていったりするところなんか可愛いかったりする。ああいう女性が『素敵女子』っていうんだなって思った。
わたしの解答用紙と問題用紙を回収すると『ちょっと待っててね』と言われた。
その間に大樹に終わったってメールを打った。返事は返ってこなかった。まだ続いているんだと思った。
「中田さん!ドアを開けてくれる?!」
榊原さんの大きな声が聞こえたので急いで開けた。
「ありがとう。お待たせ」
榊原さんが段ボールを抱えて中に入ってきた。
「ふぅ〜、箸より重たいモノ持ったことないから、疲れたわぁ」
榊原さんは段ボールを長机に置いて軽く肩を叩いた。
軽口を言いつつ、綺麗な女性がやったら絵になる仕草。羨ましいと思った。でも・・・。
「うふふッ」
「どうしたの?」
榊原さんが怪訝な顔をした。
「いいえ、なんでもないです」
「怒らないから、言ってちょうだい」
「小林先生ならこんな時なんて言うかなんて・・・すいませんッ!」
わたしが話している間に榊原さんの顔がみるみるうちに変わった。車内で先生にパイをぶつけられた写メを消すように言った顔になった。
「う゛ぅ〜、中田さん!あなたはそんなこと言わない子だと思ってたのにぃ〜!やっぱりあなたは、小林さんの教え子なのね!」
榊原さんは、わざとしくしくと泣く仕草をされた。
そしてわたし達はクスクスと笑い合った。
「小林さんからわたしのこと聞いているでしょ。聞きたいことある?」
わたしは、小林先生が監督を引き受けられる前の話と引き受けられた経緯から今現在の話をした。
榊原さんは、黙って聞いてくれた。
「あなたは、よく頑張ったね。でも、これからあなたは来年の夏まで、忙しくなるわ」
榊原さんは、この冬は体力作りと守備の基本練習ばかりになる話をした。記録はちゃんと残すこと。部員達のモチベーションを高める為に記録更新を促進するようなアイデアを考えて提案することを言われた。3月の試合解禁日に備えて練習試合相手を監督と相談しながらスケジュールを管理すること。そして、小林先生が指示を出す前に自分から提案して、監督としての仕事に集中できる体制を作る。部員達の悩みや変化、問題が起こる兆候を見つけたら、監督とキャプテンに素早く報告することを言われた。
「極端な話、物品の管理や選択や用具の手入れは下級生に分担させたらいいのよ」
「どうしてですか?」
「上下関係は、あまり良くない風潮があるけど、社会に出たら、避けられないわ。女子マネでも先輩であることを示す必要があるの。特に女子マネに対して下級生でレギュラーになった子は、おざなりなるわ。それにそういう子は、同級生や上級生から嫉妬からくるいじめを受けやすいの。そういう子にほど用事を押し付けなさい。そうすることでその子を守ることにつながるのよ。男の縦社会って女の子より女々しいから気を付けてね」
その言葉に三浦くんが浮かんだ。あの子には色々あるから…。
「参考になるかはわかんないけど、あなたにこれをあげるわ。いや、受け取って欲しいの」
榊原さんが段ボールの中を開けた。ノートが沢山入っていた。
「わたしが、高校、大学と計7年間、マネージャーとして書いてきた日誌よ。あなたなら、生かしてくれると思うから受け取って欲しいの」
わたしは、段ボールの中の一冊を取り出した。綺麗な字でこと細かく書かれていた。練習メニューやその目的から問題が発生した時の対処法など多岐に渡って詳細に書かれている。わたしにはバイブルに見えた。
「ありがとうございます!でも…」
「段ボールのことは心配しなくていいよ。経費で落ちるし」榊原さんが宅配便の伝票を渡してくれた。
「ありがとうございます」
わたしは宛先を学校にして受け取りを小林先生宛てにした。
「それから、悩んだり、わからないことがあったら、連絡していいよ」
携帯電話のアドレスが書かれた紙が渡された。わたしは、礼を言うと携帯電話を取出し、アドレスを登録した。そして、アドレスを交換して欲しいとお願いをしてから榊原さんに空メールを打った。榊原さんの着信音が鳴って慣れた動作で登録した。
「どうして、そこまでして頂けるのですか?」
榊原さんは、わたしを見て、真面目な表情で話始めた。
「あなたには、頑張って欲しいの。どんなことがあっても小林さんを信じれば叶うと思うわ。それから、わたしたち『コンダは小林大輔を忘れてはならない』の。もっと言えば『コンダ野球部は小林大輔を忘れてはならない』のよ」
わたしは、榊原さんが澄んだ瞳でそう言い切れる姿にただただ驚いた。