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 物語もチーム作りをスタートさせます。どんな展開になるでしょうか。ただ、皆様にお伝えしたいのは、等身大のものを考えてます。例えば、一年生だけで甲子園出場するとかなど、安易なチートを物語に使用はしません。ゲーム機じゃないんですから。

 感想、評価、ポイントを是非ともお願いします。どのように読まれているかわからないですので宜しくお願い致します。

 目が覚めた。冬なのに寝汗で汗がびっしょりだった。またあの夢を見た。中3の頃の夢だ。教室でアイツはいじめられていた。誰も助けようとはしない。何故?その矛先が自分に向けられるかも知れないから。クラス全員が恐怖に怯えていた。口にも出せない・・・。


 これで何回目の夢だろう?数えていない。やった奴らは捕まってこの問題は、終わりだろう!確かに何も言わなかった俺たちが悪いと言えば悪い。でも俺たちだって苦しんでるんだ!お前の両親、俺たちを全員、家栽送りにしたいらしいな。


 ベッドから起きて引き出しを開けてシャツとスエットを着替える。部屋にある机を見た。そこに野球部員だけが持てるバックが置いてあった。黒と白のエナメルのバックにローマ字で、『UMISHO』と書かれている。机のそばに行きバックを開けた。中からグローブを取り出す。グローブを左手にはめて感触を確認した。


 窓の方へと歩き、カーテンを開けた。夜空を見上げると満月が煌煌と照らしていた。冷たく感じた。月の光が凍てつくように感じたからだ。グローブをはめた左手をもう一度見た。野球をしている時が忘れられる。最近、監督が変わって、練習の雰囲気や練習内容も変わった。みんな真剣に取り組んでいる。毎日が充実している。但し、『あの事』を除いて。


 カーテンを閉めた。グローブを外してバックの中に直し、ベッドの上に勢いを少しつけて座った。両手で頭をかかえた。


 俺はいつまで野球が出来るんだろう。ずっとやっていたい。やっと楽しくなったのに・・・。それだけはいやだ。頼むから、俺から野球を取り上げないでくれ・・・。







 「先生、申し訳ありませんでした!」


 職員室は、騒然となっていた。川崎漣れん高井康人やすひと、神林晃太の3人が職員室に謝罪しに来ていた。確かに私は、部活に参加したければ来なさいと言った。だけど髪を5厘刈りにしてくることないだろーッ!まるで私が体罰教師に見えるだろうが!ほらぁ、隣の席の美術の吉野家未祐みゆ先生が私を好意以外の色をした目で見てるだろーッ!こうなったらとっとと帰すに限る。不本意だけど、爽やか青春教師を装うことにした。


 「・・・きみ達、そんな古くさいことしなくていいのに」


 顔には爽やかに心掛けた笑みを浮かべた。馴れないせいか、頬が引きつる。


 「先生は、気にしなくていいですから!これは、俺たちの気持ちっていうか、意気込みッスから!」


 川崎・・・。きみ、前までそんなキャラ違うかったでしょーッ。いつからそんな暑苦しい熱血球児になったんだよぅ。気にするな?気にするんだよーッ!もっとクールに行こうぜ。クールにさぁ。


「私のところは、もういいから、並川や中田、みんなのところ一人一人のところに言って謝って来なさい」


 これが一番大切だった。ルールを犯した人間が謝罪するのは、責任者や当事者だけに謝って済む問題ではない。これから仲間の元に戻るには、仲間一人一人に許してもらって初めて入れてもらえる。


 「はいッ!」


 「今日の練習前にもう一度みんなに謝れるか?」


 「はいッ!」


 「じゃ放課後、グランドで会おう」


 「はいッ!じゃ失礼しますッ!」


 川崎達がきびきびとした動作で私の元を離れ職員室を出て行った。ドアの前でもう一度『失礼しますッ!』と体育会系の挨拶をかました。

 私は、思わずため息をついた。



 (ああ、これが高校野球の監督なんだな・・・)


 諦感ともとれる気持ちになった。その時、お茶を煎れた私のマグカップが差し出された。


「小林先生!お茶、どうぞ!」


 お茶を煎れてくれたのは、商業科教諭の生田目雪路なばためゆきじ先生だ。どういう風の吹き回しだ?この人ちょっと前まで職員会議で体育会系の部活予算を削るよう主張してきた珠算部の顧問だ。


 「小林先生、凄いですね。あの川崎君のお母さんを平身低頭土下座謝罪させて、川崎君たちをあそこまで改心させるとは、どうされたんですかぁ。聞かせて欲しいですわ」


 おいおい、土下座なんてファンタジーつけちゃだめでしょ。改心って川崎達がまるで素行不良だったみたいじゃないですか。隣の吉野家先生も目を輝かせて聞きたい、聞きたいとかぶりを振っているじゃないですか。あることないこと言わないで下さいッ!


 「先生、誤解しないで下さい。川崎君達のお母様達は土下座なんてしてませんし。本人達だって今まで部活をサボってきたのをやめるって言ってきただけですから」


 「でもねぇ、先生・・・」


 「小林先生!コンダの榊原さんからお電話です!」


 (ふぅ、助かった)


 学年主任がジト目で私を呼んだ。ここでさっきの話の続きなんてしようもんなら主任が私に対する感情がいい方向に向わないのは必至だ。生田目先生や吉野家先生も自分の席に戻るなり、仕事の続きを始めた。


 【もしもし、お電話変わりました。小林です】







 電話は、今週の日曜日の件だった。中田にはコンダの総務部長がとは言ったが、正確に言えば執行役員本社総務部部長の永井二郎さん。私の入社時、松浜工場総務部野球部部長だった方だ。永井さんにはお世話になった。未だに会えば部長、お前の関係だ。


 私はコンダには、新卒で入ったわけじゃない。大学卒業後、四菱ヤマトトラック崎岡という社会人チームに入った。いや、入社直前だった。


 前年に自社のトラックが欠陥事故を起こした。走行中、外れた部品飛んで、通行人の乳幼児抱えた母親もろとも直撃、死亡させるという凄惨なものだった。 欠陥の原因の過程でリコール隠しが発覚し、野球部が突然3月31日付で解散した。当然入社も取り消しになり途方にくれた。


 突然、野球部の寮を追い出され、社会の洗礼を受けた。取り敢えず実家に帰るしかないと荷物をまとめた時に当時の監督を説き伏せて部長が迎えに来てくれたのだ。


 私が会社に居続けた理由にコンダの都市対抗野球初優勝があったのは、その為だった。コンダは日本選手権やその他のタイトルは獲っても、唯一都市対抗だけは獲れなかった。私が引退をしたのは、都市対抗野球初優勝を獲った年だった。


 そして、部長はさとみとの結婚式の時、全ての話を聞いた上で何も言わずに立会人を引き受けて下さったのだ。


 私はさとみの次に海坂商の監督を引き受ける事を伝えた。そして一番喜んで下さった。


 学校に電話をしてきた榊原良子りょうこは、私より3歳下で部長の直属の部下だ。


 電話を切ると私は、校長室へ向かった。頼んでおいた並川大樹と中田恵理の推薦状を取りに行く為だ。


 「聞いたわよ。川崎君達、坊主にしてきたんですって?あの子達、あなたの為ならなんでもしそうだわ」


 校長はケラケラと笑いながらシャレにならない事を口にした。


 あんまり考えたくない現実を言わないでくれーッ!


 「想像したくないですね」


 校長は用意していた推薦状を手にしていた。


 「コンダは、本当に二人を再来年、入社させてくれるの?」


「二人が当日、挙動不審な行動をしなければ。まあ、冗談はさておき、一応、並川には実技テスト。中田には面接、適性検査、一般常識は受けてもらいます」


 私はしれっとした口調で言った。


 「そうなの?」


 「並川には肩と守備という得難いセールスポイントがあります。中田には、本物の『マネージャー』になってもらうべく頑張ってもらいます。」


 「なるほど、あなたの奈辺は、そこにあったのね」


  私は笑顔で頷いた。


 校長は、二人の推薦状の他に名刺の束が入ったケースを私に渡した。ケースの中をあけると私の名刺だった。肩書きに硬式野球部監督と進路指導担当補佐と書かれていた。


 「校長先生、これは?」


 「あなたのこれからやる事に理屈を付けるためよ。進路指導のことは、鶴先生には話はつけてあるから。組織図にも入れてるわよ。進路指導と言っても遊軍扱いだから心配しなくていいからね」


 校長先生、凄すぎ。その如才なさ、公務員離れしてますよ。






 「今までも含めて、ホントにゴメン!」


 「・・・川崎君?」


 「・・・お前なあ」


 練習前、中田恵理と並川大樹は謝罪しに来た川崎達の変わりように驚いた。


 「お前ら、そこまでしなくてもいいのに」


 「そうよ。小林先生だってそんなこと望んでないよ!」


 「これくらいしないと俺たちの気が済まないんだよ!それに俺、小林先生に憧れて野球はじめたんだから・・・」


 二人は高井や神林はさておき、川崎がそこまでした理由に納得がいった。憧れの人にあんな態度をとってしまったのだからある意味仕方のないことだった。


 「まあ、小林先生、前は純心女子ジュンジョの先生だったし、コンダを退社されてから音信不通に近かったからね。それに髪型が違うしメガネかけて服装が文系の先生してたから、私だってすぐに気付かなかったもん」


 「まあ、何はともあれ、取り敢えず一緒にみんなで頑張ろう!」


 並川は川崎、高井、神林一人一人の肩を叩いた。


 「・・・三浦」


 思わず川崎が呟いた。


 そこに、他の1年生と共に三浦拓馬が練習の準備をする為、走っていた。いつもは練習開始時間ギリギリに来るのに他の1年生と同じ時間に来ていた。


 「川崎、アイツのことは先生に任せよう。俺たちが、今どうこうは言えない」


  大樹が川崎の肩を持ちながら首を振った。


 「ああ」


 「川崎君、高井君、神林君昨日、決った事なんだけど、先生が日記を付けるようにって、それでね・・・」


 恵理が川崎達にレジュメを渡しながら昨日決った内容を説明しはじめた。


 大樹は恵理や他の1年生達の様子を見ながら思った。


 小林先生が監督になったことだけでこんなに変わるとはと思った。みんな練習前から生き生きしている。こんなこと野球部に入って初めてだ。つい数ヶ月前、恵理が監督をしてほしいと頼みに言った時、先生は迷惑そうな顔をしていた。多分、与坂先生に遠慮しているだろうと思った。恵理は納得していなかったけど。

 

 この間、先生が監督を引き受けると言った時、先生の顔が現役の時に変わっていた。やっぱり小林先生はあの小林大輔だったんだ。


 確かに海坂商うみしょうが、海坂工コーギョーと統合されるのは、嫌だけど、そんなことよりもちゃんとした野球がしたかった。まじめに野球さえできれば何かが変わってくる。それに小林先生なら、ちゃんと教えてくれるはずだから。


 「並川、何をしている?」


 大樹が振り向くと小林大輔が立っていた。突然だったのでびっくりした。


 「いえ、なんでもありません」


 「今日は、昨日言ってた塁間走やベースランニング、遠投などの記録テストの他に、これから寒くなるから体力強化メニューを作ってきた。一応こいつに目を通して下さい」


 「はい」


 監督はクリアファイルから体力メニューが書かれた紙を取り出すと大樹に見せた。


 「うわぁ、きつそうですね。みんなついていけるかな?」


 「これでも、私の高校時代の半分くらいだぞ、まあやってるうちになれるだろ。慣れたらこれの倍はやってもらう」


 監督のにべもない口調にこれから、大樹は練習量が増える覚悟をした。


 「今から、ビニールシートとバランスボール、昇降段を取りに行くから教官室について来て下さい」


 「はいッ!」


 大樹は教官室に向かう監督の後ろをついて行こうとした。


 「並川」


 監督が後ろを振り返った。


 「はい」


 「さっき、暑苦しいこと考えてなかったか?」


 「ふぇっ?」


 突然すぎて咄嗟に反応できなかった。監督からは『今の質問忘れてくれ』と言われた。


 先生、時々先生がわかんない時があるんですけど・・・。






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