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よろしくお願いします。
大会前日、練習を定時の終了時間より1時間前に切り上げてグランド整備、片付けを済ませ体育祭、学園祭など行事に使うテント、長机、紅白の垂れ幕を設置して部員達全員に集合してもらっていた。長机には背番号を表にして真新しいユニフォームを並べていた。
実は今大会よりユニフォームを一新した。帽子、ユニフォーム、アンダーシャツともにアイボリーホワイトにしストッキングは上がブラック、足首から下をアイボリーホワイト、帽子のロゴはオールドイングリッシュ標記のUでブラック、胸のロゴはブラッグでローマ字標記、左袖は校章 右袖はの県名ローマ字にして野球部創部のデザインに戻した。これは先月に校長、桜木会、PTAとの会合で事前に説明し了承を得ていた。またユニフォームの発注も桜木会に入っている野球部OBが経営するスポーツ店に依頼していた。与板先生の時は西州市内の業者に依頼していたが長年のズブズブの関係でいい噂が聞かないのもあり監督就任時、しつこく食事会と評した誘いを受けていたが校長の許可が必要との理由にして丁重にお断りした。その後は流石に県教委に顔が利く校長先生を敵に回したくないようで断ってからは来なくなった。こういった関係は事前に谷本課長から指南を受けていたので地元関係は大事にしていかなければならなかったからだ。また、このスポーツ業者については谷本課長に依頼して調べてもらったが限りなくクロに近く、私学四天王の一部とあまりいい噂を聞かないらしいとの事
今回から大会が始まる直前に授与式を行うつもりである。地方大会はベンチ入りできるのは20人と決まっている。今回は三年生10人、2年生5人、一年生5人のメンバーとした。一年生部員は日野、小池、田中、中村の他に椚を控え投手とし。て入れた。ジュンの指導の成果がようやく現れ、指がかかった切れの良い真っすぐが常時投げれるようになったからだ。
また昨秋ベンチ入りをしていた二年生5人は外れることになった。彼らに対しては個別に面接して根拠を示して説明はしている。納得はしているかはわからないがベンチ入りを外れる際は今後も説明していくつもりだ。
「これから春季大会に出場するメンバーに背番号を渡していきます。それでは背番号の順番からユニフォームを渡していきます。名前を呼ばれたら前に出てきてください」
私から順番に名前を呼び、長机のところに待機していた中田恵理からユニフォームを受け取ると一番の川谷から順番に渡していった。一人一人渡すごとに全員から拍手が起こった。中でも二年生の及川に背番号7を渡す際に彼は感激した様子で受けていた。
一通り渡し終えた後に部員全員に向けて話した。
「それから、今回から記録員は森田にしてもらうことになった。森田には普段の練習はみんなと変わらずしてもらうが対戦相手の分析や情報提供などスコアラー的な役割をしてもらうことにしている。但し、これは彼一人ではできない。二年生、一年生の控え部員にも順番に手伝ってもらう。これは中田と森田に一任しているので指名された部員は協力するように」
一瞬ざわめいたが、面談の際に彼に打診して快諾してもらっていた事ことである。森田以外には並川と中田には話しておりすぐに静かになった。
「全員に伝えておきますがこれが夏の選手権大会の出場メンバーとは限らない。今回外れたメンバーもこの大会以降頑張って成績を残せばチャンスがある。それは二年、一年問わず全員です。三年生も例外ではない。お情けで夏のベンチ入りなんて考えているものはいないだろうが競争に勝ってこそチーム力のアップにつながることを肝に銘じてほしい。では、明日の集合時間に遅れないようにしてください。下校時間まで時間がないので今日は解散します」
私が解散を告げると部員達は足早にテントを片付けに走っていった。本当は色々とみんなで話したいとこだろうが残念ながら下校時間は厳守しなければならないので少し申し訳ない気分にはなった。
ジュンは社業の関係上、明日来ることになっている。部員達が全員下校したのを確認し職員室に戻ると北村先生が明日の送迎バスの確認をおこなっていた。私は授業などの残務を終えると北村先生に声をかけてから着替えて帰宅した。
車に乗る前にさとみへ電話を掛けた。
【もしもし、今から帰ります。今日は買って帰るものは?】
【今日は大丈夫だよ。運転、気を付けてね】
【わかった。気をつけて帰る】
さとみへの電話を切るとポケットに入れ車に乗り込んだ。
私は明日の試合のことに関しては心配はしていなかった。彼らが自然に自分の力が出せるように準備しグラウンドに送り出すのが監督としての役割だと考えている。準備に関しては出来うる限りはしてきた。後は選手達がいい状態で出て行けるようにすることを考えながら車をにエンジンをかけて家路についた。
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「及川、おめでとう」
着替えが終わり自転車に乗って校門をくぐると森田が待っていた。俺と森田は帰りは大抵、一緒に帰っていた。
「ああ、ありがとう」
それから俺たちはたわいもない話をしながら自転車を走らせていた。俺は森田が記録員になることを了承したのかを切り出せずにいた。どう話していいかわからなかったからだ。
「及川、黙ってて悪かったな」
「ええっ?」
俺は森田から急に切り出されて戸惑ってしまった。
「俺、正直、野球やめようか少し迷っていたんだ。でも先生が俺の道を示してくれたんだ。しかも俺でもできそうな道を」
「そうか」
「でも、だからと言ってレギュラーを諦めたって訳じゃないんだぜ」
「そうか」
「で、頼みがあるんだけど」
「何?」
「及川は晩飯食った後、いつも素振りしているんだろ?」
「そうだけど」
「俺も一緒にいいかな?」
俺は思わず森田の方を振り向いた。そして笑いながら。
「いいよ」
俺の返事を聞いて森田笑顔になった。
俺たちは一斉に自転車のペダルを思いっきり踏み、急いで家へと帰った。それから俺と森田は野球部を引退するまで休まずに俺の家での自主練習を続けた。
ユニフォームのモデルは山梨県立日川高等学校野球部をイメージしていただければ幸いです。NPBやMLBもかっこいいですが理由も本編でおいおいとお伝えする予定です。
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