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40/44

(4)

よろしくお願いします

 試合開始から4回を終わった。得点は両方とも0点である。相手投手は右オーバーハンドで球種は真っ直ぐ、スライダーとチェンジアップ球速は130km台前後と見た。綺麗なラインを描く真っ直ぐと右バッターには外角低めスライダー、左にはチェンジアップを駆使しコントロールよく決めていた。聞けば昨日の西州高戦は10対0と大勝していた。6回で交代しており、さほど昨日のように負担はない。こちらは3安打で1四球で連打ができない。1回の裏に日野が3-2と9球粘ってライト前ヒットで出塁1アウト後に日野が盗塁を決め、三浦が警戒されての四球で1,2塁と攻めたが四番の並川が1,2塁間の鋭いゴロをセカンドの好守で併殺となりチャンスを逃した。その後は単発でヒットは出るが後続を断たれ0点で終わった。その後は一方の川谷は1安打ピッチングで2塁を踏ませず0で抑えていた。


 「森田、相手の球数は?」


 「75球です。味方が粘って球数を投げさせています」


 今回、記録員に森田史也にしてもらっている。彼は情報処理科の二年である。ポジションは三塁手。彼は中学時代は公式戦に1回一打席代打で出場しただけである。春先の紅白戦、練習試合に何度かスタメンで出したりしてチャンスを与えているがヒットは0でエラーが4つ。最近では新一年生とも差が開き、このままでは彼の居場所がなくなってしまうと危機感を抱いていた。性格は大人しくどことなく自信なさげであるが普段は高校野球オタクと二年生からは言われていて高校野球の雑誌類を隅々まで読み漁りその手の話題になると止まらなくなる、普段の成績はクラスでもトップでエ○セル、○ードはもちろん統計やパ○ーポイ○トを使いこなせ、西と同じくらいできる。彼を記録員兼アナリストとして育てたかった。今回は中田がアナウンスと電光掲示板の操作を他の女子マネに教えるためバックネット裏管理室に行っているため、それを理由に彼に記録員を頼んでいた。


「チャートは書いてもらっているか?」


 「はい。一応、一回り分の傾向が出ています。右、左とも外中心で内角は時々ですね。皆さんの話では逆球になっているかと」


 「ありがとう」


 では外への踏み込みとスライダー、チェンジアップの見極め、低目を捨てて浮いてきたところを仕留めるようにすることだな。5回表終了時点でその指示を出すことにした。


 今回、三浦に1イニング投げてもらうことにしていた。迷ったが6回を投げてもらおうと考えていた。本人にはどこかで投げるからいつでもいけるように心の準備はしておくように言っていた。この試合の目的は対外試合で投げた経験を持ってもらうことにある。何かあれば並川にスイッチすればいいと思っていた。シートではヒット性の当たりも少なく上々だった。変に力みかえらないようだけしてくれればいいと考えていた。


 


~~~~~~~~~~~~~~~




(出番が来た)


 5回の表相手の攻撃を0点に抑えダグアウトに引き上げて来たときだった。小林先生が円陣を組んで指示を出し終わった後、ダグアウトに戻る時に呼ばれた。


 「三浦、次、行くから用意して置いてくれ」


 「はい」


 「神林!三浦とブルペンへ行ってくれ」


 「はい!」


 先生は神林さんに指示をだすとその後に川谷さんと並川キャプテンを呼び、話をしていた。


 「三浦、ブルペン行こうか」


 神林さんから声を掛けられた。


 その姿を丸川が羨ましそうに見ていた。


 (至、そこまでキャッチャーしたいのか)


 俺は至に一瞬だけ呆れたが気持ちを入れ替えてブルペンに走った。


 



~~~~~~~~~~~~~~~



 

 「自分の狙っている球に勇気を持って踏み込もう」


先生からの指示だった。


俺の役割はなんとしても塁に出る


 『7番レフト及川君』


中田先輩のアナウンスが聞こえた。先輩はほかの女子マネ達にアナウンスの仕方、電光掲示板の動かし方を教えるためにバックネット下の管理室にいる。その代わりに今日は森田が記録員として入っていた。アイツにはいい気分転換になっていいと思った。先生はアイツに色んなことを教えていた。自分だったらどうすることを意識するようにとチャートを見ながら目の前のやることに必死だろうけどがんばってほしいと思った。アイツも自分のやるべきことをやっている。俺も自分のやることをやろう。


 打席に入り投手に正対する。


 1球目は外角に真っ直ぐがきた。バットを思い切って振るがファウル。


 (しまった。来たと思って力みすぎた)


 2球目は内角へ真っ直ぐファウル。捨てていたのについ手が出てしまった。


 (こうなったら粘っていくしかない)


 3球目はボールになるスライダー。なんとか振りそうなところを見送る。キャッチャーが審判に確認するが塁審はセーフにジェスチャー。


 (助かった)


 一度打席を外す。バッティンググラブをはめ直す。打席に入り構える。


 3球目は同じスライダーが来た。反射的にバットが出てしまった。


 (当たれー!)


 バットの先に当たったボールは三遊間方向へ転がった。全力で走る。一塁を夢中で駆け抜けた。


 「セーフ」


 審判がセーフのコールをした。ふと見るとショートがボールを投げなかったようだ。


 「ラッキー!内野安打だぞ!」


 一塁コーチャーにいた。川崎先輩から声をかけられた。


 バッテンググローブとシンガードを預けて一塁ベース上に立った。


 次のバッターは田中だ。アイツはバントが下手だ。


 先生も以前に言っていた


 『出来るのなら練習してもらうしやるからには一番になってほしい。出来ないのなら、そこで立ち止まらず、他に出来ることを磨いてほしい』


 アイツは守ることが出来る。悔しいけどショートの守備は誰よりもうまい。打つほうはまだ硬球に慣れていないから当たりがイマイチだけどツボに嵌ったら誰よりも遠くへ飛ばせる。


 (アイツに出来ないことは試合ではこっちで何とかするしかない)


 いつもより少し多めにリードする。前の打席でヒットで出塁しているから、けん制のタイミングはある程度わかる。足は至の次くらい自信はある。スタートのタイミングとかは日野を練習中ずっと見ていた。アイツは速いだけじゃなく上手い。ただそれくらい俺にもできないわけじゃない。


 ピッチャーが一球目を投げる動作を始めた。足を上げた瞬間スタートを切った。


 田中が打ちにきた。


 (もう、ダイレクトされてもかまうもんか。バントが出来ないアイツが悪い)


 ドン詰まりのゴロがピッチャー前に転がった。


 ピッチャーが二塁に投げようとするが間に合わないと見て一塁へ投げた。ベースカバーのセカンドがキャッチして1アウトとなった。


(あ、あぶねぇ)


 田中アイツは空気読まねえヤツだなぁ。先生のほうを見ると笑いながら俺にサムアップをしてくれた。


 (先生は俺の意図をわかってくれてたな)


 次のバッターは川谷さんだがバットを持った一年の中村がアンパイアに声をかけていた。


 (川谷さん変わるんだ。まだ、五回出し早いだろう?)


 ふとブルペンを見ると三浦が投げていた。


 少し三浦に変わる理由がわからなかったが先生は根拠のないことはしないと思って集中した。


 中村が1球目をバントして俺は3塁に進んだ。3塁前に転がした絶妙なバンドだった。アイツは日野達に隠れて目立たないけどなんでソツなくこなす。日野、小池以外で硬球にいち早く順応していたのは中村だった。タイプは西さんに似ている。


 バッターは1番に戻って日野だ。普通なら丸川と天秤にかけるがどうするのだろう。相手がマウンドに集まり相手のダグアウトを伺っている。そして守備位置に戻っていった。


 ピッチャーが1球目を投げた。日野は迷うことなく打ち三遊間を低い這うような速いゴロで抜いていった。


 俺は打球を見ながらゆっくりとホームを踏んだ。


 (よし、先制のホームを踏んだ)


 初めて試合でチームに貢献できた気分になった。戻ってきて先生から肩を叩かれ、ダグアウト内でメンバーとハイタッチをした。


 「及川、オマエすげえぞ!」


 森田が立ち上がり彼とハイタッチをした。思わす森田の顔をみて頷いた。


 


~~~~~~~~~~~~~~~




 ブルペンから及川がダグアウトに戻ってきた様子をじっと見ていた。身体を張ってチャンスを作って日野のヒットでホームに還ってきた。その後は2番の丸川が3-2からセンター前へ抜ける打球をショートにダイビングキャッチされてアウトとなり。この回は1点で終わった。


 マウンドに上がった。足でならして並川先輩がアンパイアに交替を告げてから投球練習に入る。真っ直ぐを投げる。特には問題はない。2球目はスライダーを投げる。いい感じに曲がった。最後の一球を投げてもう一度マウンドをならした。並川先輩がマウンドに駆け寄った。


 「三浦、やばくなったら俺がなんとかするから、気にせずに思い切っていけ!」


 並川先輩はそれだけ伝えると戻っていった。アンパイアからコールされバッターが右打席に入った。サインを伺う。初球は外角低め真っ直ぐのサイン。頷いてノーワインドアップからモーションに入る。思いっきり腕を振って投げる。投げミスすることなくアウトローに真っ直ぐを投げ込んだ。


 「ストライク!」


 アンパイアからコールが響いた。


 (よし、行くぞ!)


 俺はマウンド上で集中力を高めた。






 



 

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