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(2)

よろしくお願いします。

 「椚、どう思った」


 「ん、この攻撃は日野が6点取らせた感じだな」


この試合をベンチ外で内野の球拾い役になっていた俺、一年の田村航と同じく椚孝宏はバックネットから少し離れたところで見ていた。二人とも練習用ユニフォームを着ていた。東和大真美ヶ丘のスカウトから特待推薦取り消しを言われた俺はかなりショックを受けた。中学の先生から公立の海坂商を受けたらどうかと言われた。勉強は一応ちゃんとやっていたから十分に合格ラインに届いていたので受験することになった。入学式の前に小林先生の紹介で診察してもらっている県総合医療センターの在原先生からもうキャッチボールを始めていいという許可がようやく下りた。10メートル間隔のキャッチボールを始めたところだ。先生からはまだ初期だからこれでよかったがもし違和感のことを黙って野球を続けていたら手術しないといけないと言われた。あせらなくていい。後は小林先生と岡崎コーチと一緒にがんばれば秋季大会には間に合うと励ましてくれた。


 椚は波崎の中ではライバルと言われていた。彼は西海大五高の特待推薦が取り消された為、俺と同じように海坂商に入った。日野のことはシニアに行った友達から名前は聞いていた。全日本に選ばれたのに家の事情で辞退したと聞いていた。シニア関係者達は彼がどこの高校に行くかみんなわからなかった。アイツも先生に助けてもらったらしい。


 先頭バッターの日野はレフトが左利きだったこと、ジャックル下瞬間を見逃さず2塁打にしてしまった。(たぶん記録は1ヒット1エラーだけど)そしてバッテリーにプレッシャーをかけてバッターに集中させなかった。西さんのライト前で3塁にへ行ったがライトが警戒していたから無理せず3塁で止まった。三浦さんなら併殺もないし還してくれると信じていたからだ。三浦さんのライト前でホームに還ってきた後。小池と小林先生に何かを伝えた。並川キャプテンが四球を選んだ後、小池はわかっていたように右中間にエンタイトルツーベースを打った。その後、6番丸川さんがプッシュ気味にセフティースクイズをして相手の悪送球間と合わせて2点追加。7番神林さんのセカンドゴロの間に3進。8番リカルドのボテボテの内野ゴロの間にゴロGOで1点追加。結局6点のビックイニングを作った。今は攻守交替で今度は裏の守備にについた。


 「日野は相手の癖を見切ったと思う。相手、俺と違って球持ち悪そうだから」


 「同じ左だからか?」


  椚は俺の言葉に頷いた。


 「あのセフティースクイズはサインだな。先生は基本打たせたい人だけど現役の時セフティーもよくしてたからね。先生の現役の時のDVDで見たことがある」


 「俺も見たそれ」


 そんな話が終わっている間に相手の攻撃が三者凡退に終わった。


 「田村、今日は打線が点を取って10点以上になると思う」


 「俺もそう思う」


 羨ましいな。早くマウンドに上がれるようになりたい。早く投げれるようになりたい。そんな自分の気持ちを必死に押さえ込んだ。


 






~~~~~~~~~~~~~~~






 (出番が来そうだ)


 4回表を終わって10対0。打つ方では時間がかかりそうだ。初めてヒットを3回に打ったが飛んだ方向がよかっただけのドン詰まりのレフト前ヒット。もっといい当たりを打ちたいけど、朝倉先生や三浦先輩から『硬球に慣れるまでは時間がかかる。焦らなくていい』と言われた。打撃は時間がかかりそうだ。守備は打球判断が軟式より難しいがなんとかなる。三浦先輩は『守りは大丈夫だな』と言ってくれた。日野と小池はそれぞれ打つほうでアピールしている。俺は自信のある守りでアピールしたい。


 守備につきボール回しが終わってから守備位置前の走路を足で慣らす。これは岡崎コーチから教えてもらった。イレギュラーをできるだけ防ぐためだ。回りをみて。校舎前の掲揚台の旗をみる。センターからホーム方向に吹いている。そしてもう一度守備位置を慣らして構えた。


 1アウト後、ここまで三人ずつで抑えてきたが2番バッターに粘られてフォアボールで出塁。盗塁はこんな点差では来ない。3番バッターが左打席に入ってきた。


 1球目はボール、変化球は外に外れた。


 2球目をバッターが打った。ドン詰まりでセンター二遊間の間に不規則な打球の回転のフライが飛んできた。


 「オーライ!オーライ!」


 大声で叫びながら全力で後方へ走る。帽子が飛ぶ。


 予想してグラブを前に出してすぐに立ち上がれるように滑り込んでキャッチする。すぐに立ち上がって一塁へ送球しようとするがランナーはすでに戻っていたので投げるフリだけした。


 「ナイス、リカルド!」


 三浦先輩が肩を叩いてくれた。


 「今の俺にまかせろよ」


 獲った位置の目の前まで走ってきた日野が苦笑いを浮かべながら帽子を拾ってくれた。


 (お前にこれ以上いいところ持っていかれたら気分がよくない)


 「たまには俺にも仕事させてくれ」


 もう一度守備位置を足で慣らして守備位置につき後と前を見ながら右手を上げて親指と小指を立てながら


 「ツーアウト!ツーアウト!」


 大声で声をかける。


 海坂商エースの川谷先輩はコントロールがいいから基本的に打たして取るピッチングになる。でも掬星台や他の試合を見ていて全体的に「守れない」。西先輩は確かにどこでも守れて無難だけどショートが適正じゃない。西先輩、三浦先輩と丸川先輩以外は下手だ。俺は打つのは好きだけど今は難しい。守ること、走ることはできる。


 次のバッターが左打席に入った。1球目ボール、2球目ファール、3球目ストライクとバッターを追い込んでいく。


 (俺のところに来い!)


 4球目を打った。打ち取っているけどコースよく三遊間の真ん中に打球が飛ぶ。三塁方向へ走って逆シングルでキャッチして右足を踏ん張り身体を捻りながら二塁へ送球。三浦先輩がタイミングよく二塁ベースに入りスリーアウトチェンジ。普通ならセカンドの動きを見るけど三浦先輩なら入ってくれると思っていた。それはいつものタイミングだから。


 「リカルド、ちゃんと見ないとだめだぞ」


 三浦先輩が苦笑いしながらダグアウトに戻る時肩を叩かれる。


 「いつものようにしましたけど」


 「オマエなあ~」


 先輩は呆れたように言ったけど俺はいつも中学の時してたことをしただけですから。そう思いながらダグアウトに引き上げた。





 


~~~~~~~~~~~~~~~





 「今日はありがとうございました」


 試合が終わり片付けが終わった後、坂西高校の監督に挨拶に行った。結果は15対0大勝だった。


 「あなたのチームすごく強いですねぇ。ここ数年1回戦負けが続いているって聞いていたのに。どうしたらここまでなったのですか?」


 「たまたま打てただけです。今日は出来過ぎです。今度はウチにきてやりましょう」


 もちろんタネは明かさない。でもマネは出来ないだろうけど。


 「わかりました。またこちらこそありがとうございました。またやりましょう」


 顔は笑っているけど目が笑ってないな、この監督。ダグアウトではめちゃめちゃ不機嫌だったし、たぶん今日は調整試合のつもりだったんだろ。隣の県で名前も知らん弱そうな相手に景気付けで勝って春季大会に臨もうとしたら逆にコテンパンにやられたからな。ああは言ってるけど『二度と試合なんかしないぞ』って顔には書いている。挨拶を終えると全員を整列させて挨拶をしてバスに乗り込んだ。



 今日はたくさん収穫があった。起用した1年生が打ちまくってくれた。日野は4安打(内二塁打1本2盗塁)小池も4安打(2塁打2本)リカルドはヒットこそ内野安打、ドン詰まりのレフト前ヒットの当たりは今一つだけど併殺2回とヒット性の打球をことごとく獲ってくれたりと守備は完璧だった。おかげで初めて失策が0で終えたことが大きい。あと何より嬉しかったのは途中出場組の及川が2本ヒットを打ってくれたことだった。しかも2本とも芯で捉えた当たりでいいヒットだった。外された選手の奮起を見ていたが彼が頑張ってくれたのが大きい。これが他の選手達に波及してくれたらと思っていた。



 帰りのバスの中そんなことを考えていた。


 「今日の試合はびっくりしました。1年生があんなに打ったり、守ったりするなんてまるで甲子園に出て活躍していた一年生選手みたいでした」


 北村先生が顔を上気させながら話しかけてきた。


 「北村先生、少なくとも私以外の人間、特に日野達にそんなこと言ったらバカにされるからやめて下さいね」


 「ど、どう言うことですか」


 北村先生は私の言葉に反駁した。


 「私や岡崎コーチ、そして起用した一年生達はこの結果は当然だと思っています。この試合を見てた試合に出ていない選手達はどう思ったかを感じて欲しいのです。そして先生自身もどうすべきか考えて欲しい」


 ヒントは渡しました。先生の役割は羨望と嫉妬に狂った生徒達のドロドロした感情に共感、迎合せず浄化することにあります。今夏を最高の状態に迎えるためには先生の役割がとても大事なのです。期待していますから役割を果たして下さいね。


 私の言葉に返事ができずにいる先生を見ながら彼女に心の中で期待をこめて呟いた。


 


 

 


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